第10話 仔リス系女子
「アイス屋さん、こんにちは〜」
出た。先週の小動物系女子だ。揺れるブナの枝先についたフワフワした花を避けながら、小走りにやって来る。
俺は密かに、この子を「仔リス子」と命名していた。
「先週は無事にお話出来たみたいだね」
「はい! おかげさまで、作戦成功です」
あまりに嬉しそうなので、ちょっとイラッとした。シングルの僻だ。
「だいぶ挙動不審だったけどね」
「え、うそ……」
俺はニヤリとしそうなのを堪え、いかにも司令官然として言った。
「次からは、もっと自然にね。ちなみに今日、彼は11時から出店してる」
「え、見張ってて下さったんですか?」
……驚いた表情も可愛い。くそう。
「いや、他に見るものも無いし、なんとなく眺めてただけ」
「……もしかして、お仕事暇なんですか?」
心配そうな顔をするんじゃない。繁忙期はまだ先なの!
「私、アイス買います! ……そのかわり、情報を」
俺はとうとう吹き出した。俺は情報屋か。
彼女は笑いを堪え、声を潜めてシリアスな取引の雰囲気を出そうとしているが、見事に失敗している。仕方が無いので、付き合って俺も低く抑えた声を出す。
「そうだな。今日は午後から雨の予報だ。おそらく昼過ぎには客足は遠のくだろう。チャンスだ」
「なるほど」
「先週の様に、数分だけの立ち話で終わらずに済むといいな」
「……やっぱりそこまで見てましたか」
彼女は急にがっくりと項垂れ、情報屋ごっこは唐突に終わった。
「見てたも何も、俺は思わず舌打ちしたよ。1時間も店の前ウロウロしておいて、やっと声かけたと思ったらすぐに帰っちゃうんだもん。彼、椅子勧めてくれてたじゃん」
「だって……ずっと喋ってたら、お客さんが来づらくなると思って」
「まあ、そうかもしれないけど。あと、帰り際に俺に手を振ってくれたけど、そういうのいいから」
……本当は嬉しかったんだけどね。
「あんなに背伸びする勢いで手を振られても困るし……彼も彼で、なんか会釈してくるし」
……まぁ、似顔絵屋はわりといいヤツそうなのはわかったけど。
「す、すみません。師匠……」
……情報屋の次は師匠かよ。
「まあいいけどさ。で、お客さん。アイスはどれにしますか?」
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<オマケ>
アイス屋さん、何者?!
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