縁と浮世は末を待て
ヴィシルダがカルーニアに到着する前日、ソナァス付近を賑わせる漁船の群れに混じって、一隻の大きな帆船が旗も掲げず停泊した。
帆船から雪崩の様に次々と連なって降りてくるのは、ジャンミー教の
彼はあっと言う間にソナァスの路地を縫うように踏破し、ソナァス南西の地区に位置する、丸天井の建物に飛び込んだ。
うるさい程に早鐘を打つ心臓を落ち着かせ、彼は息を吐く。
「ふぅ……」
「
日光が遮られる屋根の下に入った事で、彼は先程より幾分か涼しげな表情にかわる。息を荒げる
ここはジャンミー教のソナァス支部。行きに比べて短い日数で帰還した彼は、疲労が溜まって仕方が無かった。疲労とは、勿論、肉体的な面ばかりではない。
しかし、今の一時だけはそれを忘れようと、柔い寝床に寝転がった。
氷菓子でも用意させようか、と堕落の選択肢を思案し始めた頃、控えめに扉を叩く音が響いた。彼は面倒そうな表情を作ったが、すぐにそれを取り繕い、素早く身なりを整えた。
「……どうぞ」
椅子に腰掛ける彼の前へ、厳かに歩み寄ったのは、
「お疲れの所申し訳ありません。一つ、ご報告させて頂きたい儀が」
「…………」
長い沈黙の後、彼はその口を開いた。
「いえ、構いません。何でしょうか」
「イェートの市にて
ディアコス……又々、訳の分からない言葉が出てきた。一体誰が作っているのだそれは、俺が作ったのは位の名ぐらいだぞ、と彼は内心でぼやくが、その間もリオーサは返答を待ち続ける。
意を決した彼は虚飾の衣を身に纏い、おもむろに立ち上がった。
「……
彼はあてもなく部屋を歩き回り、突如、勢いよく振り返る。
「ラィトリー!」
彼は大声でそう宣言する。驚いたリオーサの身体が跳ねた。『ラィトリー』は彼考案の言葉である。久々に口を付いて出た御都合主義の極みに至る感触に、彼は笑みを深めた。
「リオーサ、
アレとは何か名言していない上「そう云う存在」というのも曖昧な言い方だ。その曖昧さにリオーサは少しの引っかかりを覚えるが、それを信仰心で塗り潰すからこその
感涙するリオーサは叫びながら、涙を撒き散らした。
「
「そ、そうですか……」
「失礼します!」
リオーサは扉も閉めずに走り去っていった。
「……間違えたか?」
だとしたら、何処だ。彼は扉を閉め、どっ、と押し寄せてくる疲労の波に流されながら、寝床に転がり落ちた。
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