最期に、君を。
くも
第1話
俺はここから出られない。
この世界に縛り付けられている。
まぁ自業自得なのだが。
俺は人間が言う妖怪やら幽霊やら地縛霊とか、簡単に言うと、人外と言う存在だ。
俺も元は人間だった…筈だ。
この地の人間に憎悪を抱き、全員殺す、呪ってやる、と願って死んだからこの地に縛り付けられた。
そんな憎悪など長くこの姿で居すぎて忘れてしまったが。
しかし本能には抗えないようで。
この地に来た人間は全員殺している。
人間には、俺のことが見える奴と見えない奴がいる。
見えない奴は簡単に殺せるが、見える奴は少し厄介だ。
見える奴はもれなく敵で、俺に攻撃をする手段を持っている。いや、今となっては大した問題ではないか…。すぐに殺せてしまうのだから。
どうやら俺は『強い』らしい。
見える奴がそう叫びながら死んでいったのを何回も見た。
どうでもいいがな。
今日も人間が来た。見える人間だ。
見える人間はだいたい同じ格好をしているから見分けやすい。
いつものように殺した。殺した…はずだった。
手応えはあったがそいつはまだそこに居た。
…軽薄な笑みを浮かべながら。
「ちょっと〜いきなりご挨拶な妖怪だなぁ」
そいつは言った。
どうでもいい。
今度は最速の攻撃を行った。小細工などできないように。
しかし、そいつはやはり攻撃を受けてもそこに居た。
「ちょっと!危ないじゃない!取り敢えず話を『聞きなさい』!」
そう言われると、急に体が動かなくなった。
なんなんだ?俺は強いんじゃなかったのか?
「よーし、私の術は効くようだね〜」
そう言いながらそいつは近づいて来た。
殺される。ここで終わるのか。
………それがいいのかもしれないな。
そう思い、静かに殺されるのを待った。
しかし、いつまでたっても殺されない。
そいつを見ると驚いたような顔をして居た。
「妖怪が死を受け入れるなんて…不思議なこともあったものね」
「…………殺せ」
「喋れるの!?」
「何を驚いている?喋れるのなんて普通だろう。それよりも早く殺せ」
「いやいや、喋れるのなんて一部の高位の妖怪だけだからね。あと私は君を殺さないよ」
意味がわからない。見える奴はいつも俺を殺そうとしていたはずだ。
「いやいやそんな顔されても…私は君と友達になりに来たのさ!!」
「…そうか。では殺せ」
「君話聞いてた!?」
だって、そうだろう。人間が俺と友達だなんて…狂気だとしか思えない。
「……お話をしようか」
そいつはそう言って一方的に喋り始めた。よく見ると、まだ若い女のようだ。
「昔、陰陽師の家に天才児と呼ばれて生まれた子が居ました」
「その子は、周りに褒められるのが嬉しくて、大量の妖怪を殺して回りました」
「その度に褒められるので、その子は完全に慢心していました」
「ある日、また妖怪を殺しに行こうと外に出て行った時、高位の妖怪と出くわしました」
「逃げれば生きて帰ることはできたでしょう」
「しかし、その子はあろうことか、まぁいけるだろう、と思い、戦いました」
「結果は惨敗。殺される、と思い、その子は泣き始めました」
「ごめんなさい。許してください。殺さないで。と、妖怪を殺して回った少女が訴えかけました」
「慈悲なんてあるわけがありません」
「その妖怪の凶爪が迫った時、その妖怪は現れました」
「その妖怪は私を殺そうとしていた妖怪をたった一撃で殺すと、私の方を一瞥して、森の奥へと帰って行きました」
「その時、少女にはその妖怪がヒーローに見えました」
「その日から、少女は人間に害をもたらす妖怪以外は殺さなくなりました」
「他の陰陽師たちは妖怪の駆逐を目指していたので、その少女のことを異端児と呼んで、忌み嫌いました」
「そんな中、少女はあの時助けてくれた妖怪の手がかりを見つけました」
「少女はそこへ向かいましたとさ」
「………覚えがないぞ。妖怪違いじゃないか」
いや、覚えはある。たしか俺の獲物を横取りした奴を殺した時、近くに人間が居た気がする。
「いや、君だよ」
「そんなことわからないだろう」
「分かるよ。分かるんだ。大体君も本当は覚えているんだろう?」
「はぁ…、だがあの時は俺に害となった奴を殺しただけだ。他意はない」
「だろうね。それも分かってるよ。…それでも、私にとっての君はヒーローなんだ」
そう言ってそいつは満面の笑みを見せる。
……単純に綺麗だと思った。
「はぁ……」
「ため息つくと幸せが逃げるよ」
「幸せなどもういらん。それより、それでお前は俺と友達になりたいと?」
「うん、そうだよ!」
「無理だな、帰れ」
「むじひっ!最低っ!ばかっ!」
「どうとでも言え。そして帰れ!」
「…むぅ。今日のところは帰るけど、明日もまた来るからね!」
そう言ってそいつは立ち上がった。
が、思いついたように俺に聞いて来た。
「君、名前はあるの?」
「あるわけないだろう」
「じゃあつけてあげる!」
そう言ってそいつは悩みだした。なんなのだこいつは…。
「じゃあ、『キミ』で!」
「そのままではないか…」
「えー…じゃあ、スーパーアルティメ「キミで頼む」……はい」
そんな名前をつけられてしまったらたまったものではない。
「じゃあ、ね。キミ。」
そう言ってそいつは今度こそ帰ろうとする。
その時、俺は反射的に聞いていた。
「お前、名はなんという?」
……これからも来るならいつまででも、そいつ、とかお前、では呼びにくいと思っただけだ。他意はない。
他意はなかったのだが、『そいつ』は嬉しそうに笑った。その瞬間妖怪には無いはずの心臓が高鳴った気がした。
「私の名前はまろ。これからは名前で呼んでよね!」
そう言うと、今度こそまろは帰って行った。
………人間の名前を覚えたのなんてこの姿になってから初めてだな。
その日から、まろは本当に毎日俺のところに来た。
せめてもの抵抗で隠れたこともあるのだが、一瞬で見つかってしまった。
まろは来るといつも他愛もない話をして帰って行った。
ある日は天気の話題、ある日は親の愚痴、ある日は妖怪のこと。
俺が返答をするたびに、まろは満面の笑みを見せる。その度に、何故か無い心臓が音を立ててなっているような気がした。
何故か、だ。これに気づいてはいけない。俺たちは本来敵対すべき関係なのだから。
そんな生活も3ヶ月程続いた頃、まろが俺のところに来なかった。
今まで1日も欠かさずに来ていたのに、だ。
いや、とすぐに考え直す。
1日ぐらい来ない日があってもおかしく無いだろう。
むしろ今まで毎日来ていた方が異常なのだ。
そう思い、俺はその日はすぐに寝た。何故か、1日がつまらなかった気がした。
次の日、まろは俺のところに来た。ただし、とても慌てた様子だった。
まろは唐突に言った。
「ーーー今すぐに私を殺して」
まろは帰った。帰らせた。
どうやら、明日、陰陽師たちが結託して、大人数で俺を『退治』しに来るらしい。
とても太刀打ちできる人数じゃ無いとのことだ。
そして、そいつらは、何故か感覚的に俺の居場所がわかるまろの頭を強制的に術で読み取って、俺の場所を割り出そうとしているらしい。
…だからまろは、自分が死ねば俺が殺されることはないと思ったそうだ。
そうかもしれない。そうすれば俺は助かるのかもしれない。
だけど、出来るわけがない。
ーーーーー俺は君に『恋』をしてしまったのだから。
日付が変わった。
変わると同時に陰陽師たちが攻めて来た。まろの言っていた通りだ。
俺は、攻撃しない。
まろと話したあの日から、人間は殺さないと決めたからだ。
しかし、本当に大量にいるな。200人はいるんじゃないか?まろ一人で俺は殺されかけたのに。
死期が近づいていることは自分で分かっていた。あと5分も持たないだろう。
………痛い。痛い、、痛い。死にたくない。死にたくない!!
殺される直前になると、精神状態もおかしくなってしまうようだ。
あれだけ殺せと言っておいて、今は死にたくない。
死にたくないのだ。
もっとまろと話したかった。笑い合いたかった。まろと一緒に居たかった!!!!
いやだ、いやだいやだいやだいやだ!!!!
そんな時に泣き叫ぶまろを見た。見てしまったのだ。
「いやだ」「死なないで」と叫ぶまろを愛しいと思ってしまった。
……手放したくないと思ってしまった。
体が勝手に動いて居た。
俺は、死にかけの体で陰陽師たちの間を突き進み、、、
ーーーその狂爪でまろを引き裂いていた。
まろは驚いた顔をしたが、すぐにいつもの満面の笑みに戻った。そして俺に小さく「ありがとう」と言うと、体から力が抜けていき、その場に倒れた。
俺はその死体をバケモノの体で抱きしめ……
……もう絶対に離さない。愛してる。
そう囁いて、目を瞑った。
====================
あとがき失礼します。
一応メリバのつもりで書きました…。
主人公とまろは一緒に逝けて、陰陽師たちは厄介な妖怪と厄介な異端児が死んでくれて良かった!みたいな、、、
書いて欲しいと言われて書いた作品でしたが、楽しくかけて良かったです。
最後に、ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!!!
最期に、君を。 くも @kumo_2259
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます