傾向と対策

 零細探偵事務所に尾行の依頼をし、その間に事務所に忍び込めば安全に盗むことができる──そんな話を何かで読んだ記憶がある。

 いつ本人が戻ってくるかということに怯えずに済む上、探偵事務所といえばさまざまな人が出入りするところ。近隣の住民にも怪しまれずに済む。駆け出しの盗人としては失敗する可能性が極めて低いのだから、実行しない理由もない。


 そこで、零細探偵事務所を調査することからはじめ、寂れたところに尾行の依頼をした。痛い出費ではあるが、何十倍にもなって戻ってくることを考えれば、大した問題ではない。

 意気揚々の主人のいない事務所に忍び込む。そして、見せつけるかのように置かれている金庫にとりかかり、苦労の末カチリという小気味いい音を耳にした。

 思わず緩んだ顔でその扉を開けると、眩しい光とともにシャッター音が部屋に響く。


 いくら零細とはいえ探偵側も無防備ではなかったということか──

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ショートショート集2 山羊のシモン(旧fnro) @fnro

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