私の想いは全て藤へ

優しい風が吹いて、花が揺れる。

あの子は今日も楽しそうに庭を駆け抜けていく。


なぜ私は、ここに居るんだろうか。


「やっと普通の子が産まれた」

数年前、あの子を抱えた母が涙ながらにそう呟いたのを聞いてしまった。


やはり私は普通ではないんだね…他にも色々な想いが込み上げたけれど…

私の前にも2度、病気で子を失っている母の気持ちを汲み取ってやらねばと思った。


やっと産まれた普通のあの子を全力で愛す間も無く、母は私の世話ばかりしている。


もういいんだよ、もっとあの子を愛してあげて

そう思いながらも、私は母を自由にしてあげることができなかった。


本を読んで居る間は少しだけ、心穏やかに過ごすことができて居る気がして。

文字を追うことすら辛い時は、開いたページを眺めてやり過ごす。

それすら嫌になってしまったら、テラスへ向かう。


テラスのすぐ側で咲いている藤の花が、私の全てを受け止めてくれる。

昨日見た夢のことだって…

あの子が病で苦しむ様子を横目に、私は笑顔で学校に行く夢のことだって…


きっと、きっと藤は受け止めてくれる。

そしたらまた私は、あの子を愛していけるんだ。

私はあの子の姉として、最後まで美しくありたい。


私が死んだその後は、

私の全てを受け入れた藤が

代わりにあの子を見守ってくれる。


きっと。永遠に。

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藤の花 あんみつ @ahanmitsu

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