第三話 消えた身体
並び始めたときはまだ高く上っていたはずの太陽が、すっかり自らの寝屋にこもってしまった頃、僕らもまた駅近くのネットカフェにこもり、ワールドワイドウェブの海をゆらゆらとたゆたっていた。
もう何時間も同じことばかり調べながら。
「体が消えてしまうなんて、そんなことあるんでしょうか・・・」
不安げな声で彼女が訪ねる。
当然だ、僕だって聞いたことがない。
自分の体が行方不明になってしまったなんて。
「うーん、これだけ調べても出てこないですし・・・やっぱり警察に行った方が・・・」
「それだけはどうしても嫌なんです」
「そうは言っても・・・」
「警察は絶対に信用できません。ご迷惑でしたら一人でも調べられますので。」
ここで僕は毎回、「どうやって」、の言葉を飲み込む。
この繰り返しだ。
昔痴漢被害に遭ったとき、警察にまともに取り合ってもらず、以来彼女にとって彼らは敵なのだという。
仕方なく画面に向き直るも、「突然体が消える」など、それこそSF小説のあらすじでしか出てこない。
「あ!これは?『【悲報】ワイの下半身悟りを開く』ってやつ!」
思わず頭を乗り出す彼女。
一気に距離が近くなり、ほとんど寄り添った形になる。
この非常事態にあらぬことが脳裏をよぎるのは、ネットカフェ特有の空気感の中、異常に狭く作られた個室に押し込められているせいだと思いたい。
「多分、くだらない内容しか出てきませんよ」
「それでも一応、お願いします」
クリックして、やはりどうしようもない内容が目に入ってくる。
彼女は読みながら、見慣れない言葉の意味を徐々に理解したのか、気まずそうにそっと目をそらした。
だから言ったのに。などと思いながら流し読みしていくと、ふと、あるコメントに目が止まる。
「『喪失会・・・?』」
前後のコメントを注意深く読み返す。
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45 :名無しさん:yyyy/mm/dd ID:EEE
嘘松
56 :名無しさん:yyyy/mm/dd ID:AAA
>>45
一年オナ禁してみ
マジで勃たなくなる
57 :名無しさん:yyyy/mm/dd ID:BBB
また喪失会の宣伝かと思ったわ
59 :名無しさん:yyyy/mm/dd ID:AAA
>>57
なんそれ
66 :名無しさん:yyyy/mm/dd ID:CCC
>>59
体がどっかいってもうたとかいう集団やで
どう考えても生まれつきなんやで
70 :名無しさん:yyyy/mm/dd ID:FFF
>>66
あれって結局宗教なん?
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「喪失会?」
思わず二人して顔を見合わせる。
怪しい。どこからどう見ても怪しい。
そもそも所詮はネット掲示板。
きっと都市伝説の類いだろう。
でも彼女はきっと「調べてください!!」なんて言うんだろうなぁ・・・
「これ!喪失会!調べてみてください!!」
やっぱり。
少しずつ彼女についてわかってきた自分にほんのりと気持ち悪さを感じながら、再び僕らは草三つの海に潜り込んでいった。
そして君と、君の消化器官を探す旅に出る ユウ @yu_dareka_tomete
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