間章 交わされた約束
「実は僕、まどう?っていうのが使えないんだ」
夕暮れ時の縁側から〈世界〉を見上げていた
同時に、自分と同じだと思った。
“色つき”が近くにいて、その差をどうしようもなく痛感している。
「僕もそうだよ」
気づけば静も打ち明けていた。
貴己のことなんて何とも思っていなくて、ただ歳が近い男子だからたまたま一緒に遊んだりしていただけの存在だったはずなのに。
「ほ、ほんと!? ほんとのほんと!?」
けれど、目の前で目を光らせながら自分の手を握ってくる存在を無下にあしらえるほど静は無情ではなかった。
「うん、ほんとだよ。だから僕は陰陽師を継げないんだ」
「おんみょうじ?」
「……何でもない、忘れて」
失言だったと静は首を振り、話を終わらせようとした。だが、
「どうやったらおんみょうじを継げるようになる?」
「どうやったら、って。魔導を使えたら一発でなれると思うよ」
「じゃあなれるよ! おんみょうじ!」
「……はぁ」
静はため息をついた。
君ならできる、といった類のそれは、食傷気味なほどに聞かされてきた。
「無理なんだよ、僕には魔導が使えない。だから、」
「使えても使えなくても、大丈夫! 静くんならなれる!」
「……」
無責任な励ましは、もう沢山なのだ。
そう言おうとして、
「僕が手伝う! だから、静くんも僕がまどうを使えるように協力してよ!」
「え……?」
その言葉に思わず貴己を見つめ返していた。
「手伝うって、どうやって。貴己くん、明日帰っちゃうのに」
「えっと……あ。それじゃあ、約束! 今日、
「約束……?」
「うん! 次会った時に静くんがまどうを使えるようになったら、僕は静くんのお願いを何でも一個聞く。それで僕が使えるようになったら、静くんが僕のお願いを何でも一個聞く。二人とも使えたら、二人とものお願いを聞く!」
「……二人とも使えなかったら?」
「使えるように二人で頑張る!」
「……はぁ」
静はもう一度ため息をついた。
けれど、先ほどのような失意のそれではなく、苦笑混じりのもので。
「うん、いいよ」
静は笑って、あまりに突拍子もないその約束事を承諾した。
何故そんな妄言の域を出ない約束事をする気になったのかなんて、気まぐれとしか言いようがない。
もしくはその気にさせる何かを貴己が持っていたか、のどちらかだろう。
「じゃあ約束ね!」
くだらない児戯と自覚しながら貴己と指を切ったその約束が、闇の中でも己を救い続ける希望になることなど、この時の静は知る由もなかった。
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