可哀相なシンデレラ

安良巻祐介

 

 子供が喋る虫を見つけたと言って来たのでどれどれと見てみれば、それは昔に捨てた女の顔をしており、思わず悲鳴を上げてはたき落としてしまった。

 わけもわからず泣き出す子をなだめ、ティッシュを取って床を見る。

 その色鮮やかなばったは、ティッシュの衣の中に包まれて、口からタバコのように黒い泡を吹きながら、痙攣していた。そう、それはただのばっただった。顔の所が白く、体を覆う羽が赤と黒の、私が昔あの女に贈ったドレスに似た配色をしているというだけの、ただの虫だった。

 ばったの両足は取れてしまい、体から離れたところに落ちていた。それも顔と同じように白かった。真っ白だった。私はそれをつまみ上げて、手の中で丁寧に潰した。すると足の先の爪が取れ、艶やかな深紅をしたそれは、かつん、と音を立てて地に落ち、割れた。

 小さな小さなそれを見下ろして、私は暫くの間、子供の泣き声を遠くに聞きながら恍惚とするばかりであった。

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可哀相なシンデレラ 安良巻祐介 @aramaki88

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