glory
花創
第1話
その日の夜は、月が見え隠れしていた。
「桜庭、私のベッドのシーツにシミがついてたの。どうしてくれるのよ」
それはお前がワイン好きで酒癖が悪いからこぼしただけだろ。とは言えない。
「申し訳ございません、ただ今直してきます」
元はと言えば、僕が次の桜庭王家の跡継ぎになる予定だった。
なのに、急に桃芝という女が現れて…父を殺し、桜庭王家を自分のモノにした。
要するに、今現在王家の中で1番偉いのは桃芝と桃芝が連れてきた婚約者の
1番偉いとは言っても、この国の政治も何もかもしていない。仕事をしていない。ただ「偉い」という地位を得ただけ。当然ながら国民からの支持は0であった。更に脅迫状まで届く有様だ。もう誰もアイツらに期待はしていない。
桃芝の部屋に入る。部屋は派手に散らかっていた。ワインの瓶を何本も倒していてその中身が零れている。ワイン好きなのに勿体無いと思う。まぁ、そんな事は関係ない。早々にシーツを替えてワインの空き瓶を捨てればいいだけだと思った。
突然、視界に入る机の上のペーパーナイフ。桃芝は毎晩、秀哉に手紙を送ったり送られたりしていた。手紙を開ける時に必要なペーパーナイフである。ペーパーナイフを手に取り、部屋を後にした。
「桜庭、今日も手紙は届いているかしら」
「はい、本日も秀哉様からお手紙が届いております」
手紙を受け取り桃芝が部屋に入る。その後を気付かれないように静かに尾行する。
そうだ、ドアの前でペーパーナイフを構えて待っていようか…。ドアノブを握るのをやめ、息を殺して待つ。
しばらく経つと、ドアノブが内側から捻られた。
「桜庭、ペーパーナイフは…
(あぁ、今だ。今、コイツを殺さなければ)
「桃芝ぁ!!」
ペーパーナイフを振り下ろし、桃芝の身体を刺す。うずくまり、刺されたところを抑え、泣きながら「なんで、どうして」と混乱している。まぁ、それもそうか。今まで反抗もしなかった執事がいきなりこうして襲いかかってくるのだから。
馬乗りになり、何度も何度も刺しては抜き刺しては抜きを繰り返していると、気付けば息をしていなかった。
何故だが、焦らなかった。誰かに見つかったらどうしよう という不安さえ無かった。
「あ、そうだ…服着替えないと…」
返り血を浴びたスーツを脱ぎ、代わりに自分の持っていた服を久しぶりに着る。
そして、ペーパーナイフは自分の持っていた服に隠した。
殺した桃芝を横目に、部屋を出ようとする。
おびただしい量の血が床に広がっていく。
その血はまるで、コイツがよく好んで呑んでいたワインの色に似ていた。
glory 花創 @kazukuri
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