最後の5分間 ~テストを受ける少年の場合~

西宮樹

最後の5分間 ~テストを受ける少年の場合~


 英語のテストが終了するまで残り五分。

 そして目の前の答案は物の見事に真っ白。



 つまり詰んでいる。端的に言えば。



 ――どうしてこうなったのだ。


 いや理由は分かる。前日が原因だ。

 何も勉強してなかった俺は、前日に徹夜して勉強をした。迫り来る眠気をコーヒーで誤魔化し、一睡もせずにこのテストに望んだ。


 結果、テストが始まった瞬間に強烈な眠気に襲われ寝落ちした。

 気付いた時には、テスト時間は残り五分となっていた。


 ――うん、本当に言い訳のしようがない。完全に自業自得だ。


 しかし諦める訳にはいかない。

 出来る限りの事をする、それが人間だ。


 まず、テストの形式を確認し、答えられる物から答えていく。

 えっとまずは、アクセント問題か。よし、全部最初がアクセントでいいや。大概そんなもんだろ。


 次は、選択問題か。これは全てb。統計的には大体bが正解の筈だ。統計取ってないけど。


 次は、英文和訳か。まあ適当に書こう。『run』と『store』が文に入っているから、『私はお店の前で走り回りました』とかそんなんだろ。よしオッケー。


 俺は好調に問題を解いていく。けれど。

 

 ――くそっ、時間が足りない!


 深く考えなくても分かる問題は何とか解き終えた。

 しかし問題は長文読解だ。深く読み込む時間どころか、あらすじすら読めないだろう。時計を見ると、試験終了まで残り二分しかない。

 くそう、万事休すか。

 しかしその時、俺はある事に気づいた。


 ――ん?


 俺の前に座る彼女、恩田さんの答案が机からずり落ちて、見えているではないか!

 しかもお誂え向きに、長文読解の答えが見える。


 ――どうするか?


 写すか、写さないか?

 俺は迷う。いくら絶体絶命のピンチでも、それは人間としては些かまずんじゃないか。

 いやでも、彼女の答えを写せば、多少は点数だってアップする。

 残り時間は一分。


 ――よし。


 そして俺は、覚悟を決めた。




 そして次の日。答案返却の時間。


「恩田ー」


 結局俺は恩田さんの答えを写さなかった。

 いくら残り五分しかなかったとは言え、他人の力を使うのは気が咎めた。そもそもそんな危機的状況に陥ったのは俺の所為だ。

 自業自得だ。

 だからこそ、俺は結果を受け入れる必要があるのだ。


「甲斐ー」


 俺の名前が呼ばれる。

 さて、点数は何点だろうか。二十点とかかな。それでも上出来だろう。自業自得と思って受け入れよう。

 俺は答案を受け取り、点数を確認する。その点数は――。



 ――0点。



「は?」

「どうした斎藤。さっさと席に戻れ」

「いや先生。おかしくないですか? 俺の点数、0点って書いてあるんですけど!」

「おかしくないだろ」


 いやいや!

 いくら適当な答えだからって、0点になるはずもない。だって、選択問題の答えは大概bのはずだろ!


「お前な、ここをよく見ろ」

「え?」


 そう言って先生は、俺の答案の上あたりを指で叩く。



 名前の記入欄が空白だった。



「名前の書き忘れで0点だ」


 ああ、なるほど。俺は思わず空を仰ぎ見る。

 これは確かに、自業自得だ。

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最後の5分間 ~テストを受ける少年の場合~ 西宮樹 @seikyuuki

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