第2話 銀行強盗

ダンッッ!!ダンッッ!!


立て続けに二度の銃声が狭い室内の中に鳴り響いた。

同時に、耳をつんざくほどの悲鳴が上がった。

僕は今銀行強盗に遭遇している。


犯人は一人、半ば興奮しているらしく、無意味に銃を乱射した。

死亡者はまだ出ていないようだが、腕を打たれた男性職員の血があたりに飛び散って綺麗なフロアが真っ赤に染まっている。


「オラアァァァアアァァア!早く、金を出せっ!!」


男の声はいらだった怒号のようにも聞こえるが、その声はどこか上ずっていてかすかに震えている。

よく見ると、人質の頭に当てられた銃の引き金に掛けた指は、今にも引ききらんばかりにがたがたと不安定である。その危うさに人質とされている女性の表情は固くこわばっている。

覆面を被ってはいるが男が緊張しきっているのは伝わってくる。

どうやら、強盗をするのに慣れていないらしい。

いや、たいていの人は強盗なんてしないだろうし、まして慣れることなんてないだろうが、この男は、その振る舞いからも悪いことをできるような几帳面さは持ち合わせてないことが感じ取れた。



5分ほど経って、指示されていた男性銀行員が指定されたとおりに鞄にお金を詰めて戻ってきた。


男は人質を離さないままで、現金がちゃんと入っていることを確認させる。

銀行員が鞄を開けて中を男に見せると、男は鞄を受け取り、周りを注意深く見渡しながらそろそろと銀行の出口へと移動していく。


ここまでは男にとって物事は比較的順調に進んでいた。


ところが、男がドアに手を伸ばしたとき、ウーウーとサイレンの音が聞こえてきた。男は一瞬動きを止めたが、何かを悟ったようにドアに掛けた手を離した。


そして、拳銃の先を男性職員へと向けた。男性職員は、自分じゃないと言いたげに首を振り手を震わせた。しかし、男はそれを無視するかのようにつかつかと男性職員へ向かって歩いていく。


何か糸が切れたように迷いがなくなったようだ。そして男の指が引き金を引いた。



ダンッッ!!ダンッッ!!


目の前に赤い血がほとばしる。男は愕然としていた。


ドサッ


男の目の前に倒れたのは、僕だった。気がついたら、僕は職員をかばうように飛び出していた。こんなところで命を落としていいのは自分くらいだと思った。


ドサッ


また、誰かが倒れる音がした。きっと男が倒れたのだろう。男を撃っていいのも自分だけだと思った。自分だけが男の気持ちを理解しているだろうと思った。


体に激しい痛みを感じ、意識がだんだんと遠のいていく中で、こんな奇跡のようなことが起こるのが今日であることをのろった。

最期に僕は手の中の拳銃をぎゅっと握りなおした。

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世界の終わり 唯木 有 @tadakiyuu

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