第13話 青の都


 レストリア大陸最大の国力を誇るスレイヤ王国。


 その王国の中央に位置する王都アルスレイヤを、色でたとえて言うのならば『青』だ。

 事実アルスレイヤを説明する際には「青の都」の名称で、自国は無論のこと国境を跨ぎ大陸をも越えた遠国においても通用する。

 人口約三万人、国王が城をかまえるアルスレイヤが名称で親しまれることになった起こりは、城の背後に広がる湖にあった。


 青の湖。


 スレイヤ城の奥に広がる広大な湖の水は常に青く、周囲の木々や反射する日の光さえ青く燦めかせる。

 このことこそがアルスレイヤが青の都と呼ばれる所以ゆえんである。

 「青く見える」のではなく、文字通り「青い」のである。


 スレイヤ王国が建国される前から存在するその湖は、遥か昔に一度だけアースシェイナ神が顕現し青の奇跡を起こした聖地である、と伝えられていた。


 青の奇跡──無色透明だった湖の水が、一夜にして青く変化したという伝説である。


 初代国王はその史実を基に、この地を平定した後、ここを王都と定め城を築いた。

 それより五千年、青の湖は変わることなくアルスレイヤの都を潤し続けている。


 湖から城の敷地内にある森を抜ける川は、都中に規則正しく敷設された用水路に引き込まれ、当然だがその水は青く、都中を青く彩っていた。

 城からまっすぐ中央を流れる一際大きな水路は、運河として船の移動も可能であり、多くは式典の際に利用される。


 そして今まさに青く輝く運河の周りには多くの人が集まり、普段以上の賑わいを見せていた。


 運河沿いにはたくさんの出店が軒を連ねており、この機に荒稼ぎをしようという輩が忙しく呼び込みをしている。

 売り物が詰まった籠を背負う子供ふたりを両肩に担ぎ、人波をかき分け売り歩いている猛者までいた。


 ひしめき合う人々は皆、晴れやかな表情で先ほど城から出てきた運河の中央に浮かぶ巨大な船を見ている。

 正確にはこの後船上に現れる、ある人の姿を今か今かと心待ちにしていた。







「ミレサリア王女殿下、御登壇です」


 風魔法によって拡声された衛兵の声が響き渡ると、商売をしていた人々も手を休め、運河中央に停泊している船に一斉に目を向けた。

 意匠を凝らした船体の中央には、王国の守護神として崇めるアースシェイナ神がひと際美しく彫り込まれており、慈愛に満ちた笑みを一人ひとりに向けている。

 メインマストに張られた真っ白い帆にも王家の印である紫の龍とともにアースシェイナ神の全身像が刺繍されており、爽やかな初夏の風を受け緩やかにそよいでいた。


 衛兵の声より数拍の後、中央の階段から見た目幼いがとても美しい少女が船上に姿を現した。

 青い髪を揺らしながら、背筋を伸ばし視線を少しも下げることなく歩く姿は、少女程度の年齢にしては堂々たるものである。

 次いで護衛とみられる、腰に剣を携えた二名の女性騎士が階段を上がって来た。


 船首まで進んだ少女──ミレサリアは用意された演台の上に上がり、群衆に向けて小さく手を振る。

 すると集まった人々から歓声と拍手が湧きあがった。


 スレイヤ王国魔法師、第二階級現代魔法師の誕生。


 今日この日は、「スレイヤの青姫」ことスレイヤ王国第二王女、ミレサリア=スレイヤ=ラインヴァルトの七歳の祝いと合わせて第二階級現代魔法師誕生の披露目の式典が催されていたのだった。





「ミレア様は相変わらずの人気ですね」


 護衛の一人が壇上で手を振るミレサリアに向かって嬉しそうに言う。


「ありがとう、トレ。次はラルクロア様の番ですね。きっと第一階級魔法師におなりになりますから」


 「今からとても楽しみです」──ミレサリアは、アースシェイナ神に勝るとも劣らない美しい微笑みで護衛にそう返すのだった。



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