第2話 舐めていた

「くっそぉー、また負けたぁー!」

「僕もだよ……」


 シミュレーションルームにふたりの叫びが響く。

 彼らは僕の同級生で、兄のイン・ケインと弟のイン・シーンの双子だ。双子なのだがとてもよく似てない。


「さすがミーツ。エースと呼ばれるだけあるね。僕ら7人相手でもほぼ無傷だなんて」

「だなー。もうお前だけでいいんじゃねー?」

「コツとか教えてもらいたいな」


「多分ふたりとも考えすぎじゃないのかな」

「それじゃわかんねーよ! もっとなんかねーのか?」

「ミーツはいつもそれだよね」


 よく理論派と感覚派がいて、それをバランスよくできるのが望ましいというけれど、実際にやろうとすると頭でばかり考えて感覚が鈍ってしまうんだ。

 それはそうだ。なにせやろうとしていることを勘違いしているんだから。それぞれを同時に行うなんてできないのにやろうとしている。

 これに対する僕の解答は、理論的に考えたことを感覚として動けるよう体へ馴染ませることだ。現場の臨機応変は感覚のほうが優れているが、外部から見て効率よく動かすには理論が重要。そのために頭で考えた後にシミュレーターをとにかくこなす。僕は僕なりの塩梅を見つけてここまで来れた。


 だけどこれは完全に我流。僕には合っているというだけで他人も同じになるとは思っていない。そんなものを他人に教えて、できなかったと文句を言われたくないから教えたくはない。




「ミーツテイル、少し話がある」

「はい、なんでしょうか」


 シミュレーションルームから出たところで、上官から呼び止められた。なんだろう。


 暫く無言でついて行くと、見たこともない倉庫の入り口についた。ここ、トップシークレットなんじゃ……。


 上官はそんなことを気にせず扉を開けて進んでいく。僕も後を追い、そこで見たのは初めて見る機体だった。


「これは?」

「新型戦闘兵器だ。名をSI-Slickと言う」


 その名を見たとき、少しぞくりとした。

 僕らの宇宙船は日本という国が製造し、発進させた。だから僕らの先祖はほとんどが日本人だ。だから僕もミーツテイルという通称とは別に和名も持っている。

 そんな日本に敬意を払い、戦闘機などは日本語で記載されるのが一般的になっていた。

 だけど通称「SIシリーズ」は別だ。これは他国船からの情報をヒントにこの船独自の改良を加えたもので、情報提供船への敬意としてアルファベット名が付けられる。

 これが実用使用可となり、更なる変更を加えたところでようやく和名が付けられる。だからSIシリーズは最新鋭、乗れるだけでも光栄な機体なんだ。


 ひょっとして僕にこいつへ乗れって話かな。そうだとしたらかなり嬉しい。


「きみたちにはこれに乗れるかテストを受けてもらいたい」


 きみ、たち?

 僕だけじゃないのか。いや、テストなんだから当たり前か。適性を見定める必要があるんだろう。


「コクピットはかなり特殊なものになっている。シミュレーションセンターに一台配備しておくから、明後日までに全員がまんべんなく乗れるよう見ていてくれ」


 かなりがっかりな話だ。僕はみんなの管理を任されただけだった。


「何故僕にそれをやらせるんですか?」

「正直なところ、きみはこれ以上シミュレーションで練習しなくてもいいくらいのスコアを出している。というか他のみんなの練習として強すぎるから少し外れたほうがいい」


 う、うーん。それがいいのか悪いのか判断しづらい。


「でも、この最新鋭機のテストは僕も受けていいんですよね?」

「それは当然だ。きみが扱いこなせるのならばそれに越したことはないのだから」


 よぉしやる気回復だ! 絶対に僕が選ばれるよう頑張るぞ!




「そんなわけで、みんなに最新機のテストをやってもらうよ。できれば自薦で頼む」


 時間は限られているし、ちょっと乗ったくらいで適性なんてわからない。だから長い時間平等に乗ってもらうため、絞ろうと思う。

 ……全員挙手してる。だよね。



 結局、ひとり8分という時間でなんとかしなくてはならなくなった。

 だけどそれも都合がいい。開戦まで間もないんだから、こんな短時間でも体に馴染むほど適性の高い人間が乗るべきだと思うし。



「ケイン、もう時間だよ」

「わりい! もうちょっと! もぉーちょっとだけ!」

「みんな同じ条件なんだから降りて」


 ケインは渋々降りて行った。


「さてと次……えっ、チーハ!?」


 何故こんなところにチーハがいるんだ? 間違えたのだろうか。


「こんなところでなにしてるの?」

「実は私には隠された力があって、新型機を乗りこなせるみたいなことがあるかなーって」


 ないよとは言い切れない。この新型機は操作系統が今までの機体とは全く異なる。

 だから万が一という可能性も否定できないが、そもそもチーハの反応速度じゃ意味がないと思う。


 だけどチャンスは平等だ。乗せてみよう。



「……動くこともできなかったよぅ」

「まあそんなものだよ」


 結果、予想通りというか期待通りというか、まともに動かすことは1回もできなかった。8分は確かに短いが、それでもできなさ過ぎだ。

 だけど安心した。妹には戦闘に加わって欲しくない。僕と一緒ならまだしも、単独で行かれたらそっちばかり気になってしまう。




 結局シミュレーターでの結果は僕がトップで終わった。



 そして念願の新型機搭乗……の前に、検査が必要だった。

 今度の機体は今までにない技術をふんだんに取り入れていて、そのなかのひとつにミューチュアルアナライズというものがあるんだけど、これがなかなかの曲者らしい。


 でもこれがあるとないとでは大違いで、スコアが高い──互いの解析具合がいいと、全長25メートルの人型機を使いトウフをつまんで運ぶくらいの芸当ができるようになるそうだ。

 基本的に宇宙空間での動作にはそこまで繊細な操作は要求されない。全てが大雑把だ。それは空気抵抗がないから全て反動だけで動きを制御するせいだ。但しこれが戦闘になると話が変わる。超精密な射撃が必要だからだ。


 宇宙での光学兵器戦は非常に難しい。距離で言うと1万キロなどが近距離になるからだ。空気などの余計なものがなければ光はかなりの距離届く。僕らが標準で搭載しているレーザーも1千万キロとか余裕で飛ばせる。

 だけど1キロで1ミリの誤差は1万キロだと1万ミリ、つまり1キロの差になってしまう。これじゃ当てられない。

 更には3万キロ距離があると光でも到達に0.1秒かかる。そして今視認しているのは0.1秒前の姿だから、合わせて0.2秒後のの目標に向かって撃たなければならない。

 敵の動きを予知したうえに1ミリの誤差すら許されない射撃。不可能に近い。


 古来から日本にはこういう格言があるそうだ。月からの射撃は2秒先の未来を撃てと。ようするに無理って話かな。


 でもそれを可能にする方法がある。ミューチュアルアナライズを搭載することだ。

 敵側がこの域に達しているのならば、僕らに勝ち目は薄い。だけど僕らだけのものであれば、そしてこれを使いこなせれば勝てる。


 少し経って、検査の結果が出た。



「あ……アナライズスコア5だと……」

「それってどうなんですか?」


「実は我々や整備班も試したんだが、平均スコア21、最低でも15はあったんだ」


 えっ? ようするにどういうことだ?

 困惑している僕を見て、検査員のひとが申し訳なさそうに口を開いた。


「つまり、きみは最もこの最新鋭機に向いていない人物ということだ」


 ……へ?

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ちょっと妹を舐めてくるサイエンスフィクション 狐付き @kitsunetsuki

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