第6話 怪石の怪

「タイリクオオカミさん、お手紙が届いてますよ」


アリツカゲラはそう言い、卓上に手紙を置いた。


(誰からだ...?)


文字を書けるフレンズと言えば、私か、

博士か、かばんか...。


しかし、差出人はわからない。


封を開けると、白い紙と緑色の原石が埋め込まれたネックレスが同封されていた。


手紙の文章を読む。


『拝啓、タイリクオオカミ様

あなたの漫画大変嬉しく拝見させて頂いております。いい顔を得るのがお好きだと聞きました。このネックレスは、先生のご期待に添えるものかもしれません。もしよろしければ、お使い下さい。

今後とも作品を楽しみにしています。

敬具』


(このネックレスを付けると、いい顔が

見られるってことか...?)


意味がわからないが、非常に興味があった。私は躊躇すること無く、ネクタイを外し、首にそのネックレスを着けた。


何故か、自分が強くなった気がした。






「先生その首飾りオシャレですね!」


「そうだろ?」


「私も付けたいなー...」


「ダメだよ」


「そうですか...」


キリンは口惜しそうに言った。


私自身、これを手放したく無かった。

何故だろうか。



「やあ二人ともー」


「こんにちは、ホンさん」


キリンが頭を下げた。


「やあ」


短い挨拶をした。


「その首飾りはどうしたが?」


ホンさんは私の首元を指さす。


「拾ったんだ」


「なるほど...」

(あの石どこかで...)


ホンさんは私の首元を不思議そうに見つめ続けていた。なにか気がかりな事でもあるのだろうか。



「やぁ、アード」


「ひぇっ!?」


背後から話しかけただけでこのリアクションだ。


「あ、あぁ...先生...」

(またお前かよ...)


「このネックレスカッコイイだろう」


私は自慢をした。


「は、はぁ...」

(何だこの人...、霊感商法にでもハマったのか...?)


そんなのどうでもいいよという目で見られたのが心外だった。


私はそのネックレスを何故か気に入った。肌身離さず、それを身に付けていたのだ。



ネックレスを入手してから3日後

満月の深夜、“それ”は起きた。



「...ハハッ、擽ったいですよ...先生...せ、先生...?」


アミメキリンの顔を舐めていたのは意外にも先生だった。覆いかぶさる様な形で

野犬の様な息遣いをする。

フレンズとしての片鱗はみられない。


「ど、どうしたんですか…」


突然の事に驚きを隠せない。


しばらく、互いに見つめ合う。


「先生、一体どうしたんですか...?」




「えっ...?」






「もー...、やめてください...

あたし達そういう関係じゃないですよ?」


アードウルフもキリンと似た様なリアクションだった。




「いい加減にして...」





「オオカミさんまだ起きてらっしゃったんですか」


アリツカゲラはそう言った物のすぐ、


「どうしたんですか...、それ...」


目の前にある現実が受け入れられなかった。緑の輝きが一層強まった。




「ハァハァ...!先生っ!!どこにおるんだっ!」


外に飛び出すと、月を見上げながらしゃがむ先生の姿があった。


「先生!聞いとおせ!その首飾りはサンドスターの効力を弱めて、野生回帰させる石なきす!その首飾りをはよぅふてるきす!!」


その後姿をずっと見つめていたが、

捨てる気は無さそうだった。


「しかたない...、先生を...、この命を懸けてでも止める...!」



無我夢中だった。

ただひたすらに、彼女の首から引き剥がす事しか、念頭に無かった。

激しい戦闘だった。




.

.

.

私が気が付くと、目の前にはボロボロに傷ついたホンさんがいた。


「お、おい...!どうしてそんなに...

一体何が...」


「良かった...。

ようよう元にもんたがじゃ...」


弱々しい声で言った。

彼女の膝上には粉々に砕けた緑色の何かが散らばっている。


「おんしゃぁ、あの石に操られてたんだ。もっとはよぅ気付いていれば...

こがな事にゃならなかった...、うぅ...」


「ホンさん...!しっかりしてよ...!」


「先生は悪くない。わりぃのはそれを送った...」


「ホンさんっ!!」









《怪石の怪》ーーーーーーーー


野生に戻す石なんて、信じられない。

私はたった一つの石のせいで、

多くのものを破壊してしまった。

ホンさんは自分の身を削り、その石を破壊した。なるべく、私を傷つけないように...

私が今すべきことは...


ーーーーーーーーーーーー


机が濡れている。

私が流した涙の跡だ。


もうキリンが推理を見せることも、

アードがいい顔を見せてくれることも、

アリツさんが心配してくれることも、

ホンさんが知識を教えてくれることも、


全てないのだ。


大きな喪失。


タイリクオオカミは1匹では生きていけない。


「みんな...」



“一緒に...、居させてくれ...”






.

.

.

「野性怪奇現象は実際にあったのですねぇ...。博士の知り合いが良い被検体になってくれて良かったのです。

しかし、ここまで惨事になってるとは、思いませんでしたよ…。

博士にもいい結果が報告出来そうですね


ふと、陽が昇る明け方の空を見上げた。


「あなたは反対してましたねぇ...」


鼻で笑った。


「替え玉を用意しとかないと、辻褄が

合わなくなる。ハァ...、長の仕事も楽ではないのです」



怪石の怪、調査終了...?

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鞏咒怪奇譚 みずかん @Yanato383

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