第5話 死後の怪
「ふぁー...」
アードウルフの足取りはおぼつかなかった。
連日の仕事の疲れが溜まっていたのかもしれない。
このロッジには唯一の階段がある。
その先には、使われていない部屋がある。
そこを寝床としていた。
いつもは慎重に降りるのだがこの時は違った。
「んっ...」
「あれ...、あたしは...」
目を覚ますとそこはロッジでは無かった。
「どこ...?」
『よう』
「ヒエッ!?」
話し掛けてきたのはラッキービーストっぽい...、だが黒いフードで身を包み、背中には小さいカマを背負っている。
「な、な、な、何なんですか!?
ボスっぽいけど...
一体誰ですか!ここは何処ですか!?」
『ボクは死神だよ。君を迎えに来た』
「は?し、しにがみ?」
『キミは死んだんだ。階段を踏み外して』
「えええええっ!?ウソッ!?」
『嘘じゃない。下を見てごらん』
下を覗くと階段でうつ伏せに倒れる自分の姿がある。
「マ、マジで...」
『これからキミは天国か地獄か、
判断をしなければいけない』
「い、嫌です!ま、まだ死にたくない!」
『生き返る方法もあるみたいだけど、
ボクは知らない。とにかく、ボクはキミを審判の間まで連れていかないといけない』
「いやああああっ!!」
アードウルフは謎の力に引っ張られるように連れていかれた。
「タイリクさん!大変です!」
アリツカゲラが焦燥とした様子で入ってきた。
「どうした?」
「なんですか?」
私もキリンも顔を上げた。
「アードウルフさんが...!
死んでます...」
「はぁ?アリツ、そんな冗談流石に笑えないよ」
「やめてくださいよホントに...」
「じゃあ来てください...」
私達は、アリツに連れられてある部屋へ向かった。
そこには、ホンさんがいた。
そして、私達は衝撃の一言を聞かされた。
「来たかぁ...。
はやあいと女は息をしちゃーせん...
ご臨終ちや」
「本当に...、信じられない...」
キリンは右手で口を覆った。
「パシリには丁度良かったのに...」
私は悲しみを堪えきれなかった。
「何でこんなことに...?」
「私が階段で、倒れてる彼女を見つけました…」
「それは殺人ですか!?許せませんっ...、犯人を見つけて...」
「おいおいキリン...。何で嬉しそうなんだ。アードを殺した所で誰も得しないだろ。事故だよ。階段から足でも滑らせたんだろう...」
「....」
何故かキリンはムッとした顔でコチラを見た。
仮に殺人だとして、彼女に捜査を任せたら永遠に解決しなさそうだ。
パラレルワールドにでも行く方法を考えて、そっちの世界からアミメキリンを引っ張って捜査させた方が手っ取り早いだろう。
いろんな難事件を青い上下繋がった服を着てるヒトと一緒に解決しまくってるキリンがいるかもしれない。
って、そんな想像している所じゃない。
アードウルフが死んだんだ。
「アードウルフ...、君は実に優秀な
実験体だったよ...」
私は袖で顔を拭った。
「アードさん...」
(何も思い出が無いや...)
キリンは重いため息を吐いた。
「じってに働くいい子じゃったなぁ」
ホンさんは首を俯け、呟いた。
「ホンさん、こういう場合はどうしたら?」
アリツカゲラはホンさんに尋ねた。
「遺体を桶にいれて土の中に埋めるちや...。花を添えて...」
「死んだモノはしょうがない。
みんなで送り出してやろうよ...」
一方、向こうの世界では...
アードは死神に頼み、現世の出来事を見せてもらっていた。
「あのクソ引きこもりニート野郎!!
パシリとか実験体とか言いやがって悲しんでねぇだろ!ボケが!」
怒り狂っていた。
『あまりそんな事は言わない方がいいよ。地獄行きになるよ。針のベッドで寝たいのなら別だけど』
「い、いや、今のは撤回します!
ああ〜、天才作家の言う事はひと味違うなぁ...」
『コトダマって知ってるかい?
言葉は魂を持っている。口から一度でた言葉は撤回しても無駄なんだ』
「うぐぐ...」
(じ、地獄だけは嫌だ...)
『ここが審判の間だよ』
目の前には奥に2つの扉がある。
中央には神々しい玉座。
『審判の神!連れてきました!』
中央から光がさし、現れたのは、白髭を生やし、白い薄い布の様なものを纏い王冠を被ったラッキービーストだ。
(どうなってんだよ...)
『これより、アードウルフの審判を行う』
審判の神は少し目線を下げた。
『まだ若いのに死んでしまうとは。
なんと哀れだ』
「本当にそうですよ!そう思いませんか?可愛そうだって」
思わず言い返した。
『だが、死とは誰しも平等に訪れるものだ。これより、お前が天国に行くべきか、地獄に行くべきか判断しよう。
この鏡を見るが良い』
目の前に巨大な鏡が現れた。
そして映像が流れた。
過去の自分の行いだ。
黒歴史を流されて恥ずかしく、直視出来なかった。
『実に君は...、口が悪い。
バカとかクソだとか、この野郎だの...
そういうヤツに天国に行く資格はない!』
厳しい声で審判の神が言った。
「うぅ...」
(まさか...このまま...)
『だが、君は真面目にやれと言われたことは真面目にこなしている。
仕事熱心な所に関心が持てる』
「あたしは仕事に関しては人一倍頑張りましたから!」
(もしかしたら...ワンチャンあるかも!
)
『だが、やはり地獄行きだ!
その悪い舌を引っこ抜いてやる!』
「いやああああっ!!」
そう悲鳴を上げた時だった。
『お待ち下さい。審判の神』
そう声を上げたのは、先程アードウルフを導いた死神であった。
『確かに彼女は口が悪い。
ですが、現代人というものはストレスが溜まるもの。口の悪い言葉の一つや二つ、出ても仕方が無いと思います。
彼女には聖なる水を飲ませ、現世に返したらどうでしょうか』
(せ、聖なる水...?)
『...うぬ。確かに仕事熱心な上にイライラも募りやすいのだろうな。彼女がいなくなれば困る者もおるだろう。
聖なる水を飲ませ現世に返そう』
判断が覆った。嬉しさのあまりガッツポーズを見せた。
「やった!!ありがとうございます!
死神さんっ!いや、死神様っ!!」
目の前に、グラスが差し出された。
『これを飲むんだ』
「ありがとうございます!」
アードウルフはその水を一気に飲み干した。
一方現世では...
「これで完成したっす」
「穴も掘ったであります」
「助かるよ。ビーバー、プレーリー」
先生は2人に礼を述べた。
ビーバーは棺桶を作り、プレーリーはそれを埋める穴を掘った。
ホンさんとアリツが、アードウルフを
棺に収めた。
そっと蓋を閉め、その穴に入れた。
土をかけ始めた。
「うっ...う...」
アリツカゲラは眼鏡を上げ、涙を拭いた。
先生とキリンは黙って見つめる。
ホンさんはずっと念仏を唱えていた。
厳粛な雰囲気に包まれている。その時だった。
ゴンゴンッ
「ん?何の音だ?」
先生はその音にすぐ気がついた。
そして次の瞬間である。
バリッ!!
「ハァ...ハァ...」
なんとアードウルフが棺を突き破って
起き上がったのだ。
「うわああああっ!!」
アリツカゲラは驚き聞いたことのない
声を出す。
「どういうことでありますかっ!?」
「い、生き返ったっス!」
「せ、先生!!!!!!」
「ゾンビだ!みんな逃げろっ!」
「ひゃあああっ!生霊なちや!
南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏!!!」
一瞬で場が阿鼻叫喚と化した。
「あたしは生きてますっ!
勝手に殺すなーっ!!!!!」
なんやかんやあり、一先ず全員落ち着いた。
「あぁ...良かった...」
アリツカゲラは胸を撫で下ろした。
「一時はどうなるかと...」
キリンもやれやれと言った感じだ。
「これからも良い顔を見せてくれよおっ!!」
「せ、先生...、苦しいです...」
抱き着いてきたのが意外だった。
「生きてて良かったなぁ...」
ホンさんも安心した様だ。
「良かったっすね...」
「まあ、そうでありますね...」
二人はその様子を遠目で見ていた。
それから私は、先生に怪奇譚のネタになると思い、この出来事を先生に話した。
「だいたい、こんな感じでいいかい?」
《死後の怪》ーーーーーーーー
死後の世界にはボスっぽい死神と審判の神がいて、現世の行いを鏡で見せられる。天国と地獄2つの扉があったが、どちらの扉にも入らなかったので、その
向こうがどうなってるか知らない。
ーーーーーーーーーー
「そんな感じで大丈夫です!」
「しかし...、死後の世界に
ボスっぽいのって...、現実味が無いよなぁ...」
先生は文句を言いつつ天を仰いだ。
「じゃあ、一回行ってみますか?
日頃の恨みがあるので私なら楽に...」
「お前は地獄に行きたいのかい?」
そう言われ、口を噤んだ。
「ははっ。まー、私はどっちの世界に
行ってもいいけどね」
能天気にそう返事をした。
(あたしが暴言を言えないことをいい事に...くっ、地獄にでも落ちとけよ...)
『彼女が他人を不快にする言葉を口にすると寿命が1年減る...。お前の判断は正しかったみたいだな。死神よ』
『いえいえ。彼女に必要なのは、忍耐の心です』
『さあて、彼女がどこまで持つか...
楽しみだな』
『そうですね』
死後の怪、記録終了。
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