第2話

目的なき日々は生産性に欠けますが、なにも常世のもの全てに目的があるわけではない。この文章を書いている主体も、この文章に目を通している貴方も、目的があるわけではないでしょう。

近くの山、その山道に巨岩が座している。名を益田岩船という。この名称は地域にある程度根付いており、最寄りの小学校では知的障害などを抱える生徒たちを擁した学級を「岩船組」と呼称した。東西に約11メートル、南北に約8メートル、高さ約4.7メートルで台形状の花崗岩、側面は垂直に切り立ち子供は圧倒されながら登る。上部から側面にかけて溝が掘られている。この溝に方形の穴が、ぽっかりと空いていてアルファベットのHのようにみえる。中は枯れ葉が詰まっている。全ては結果だけが残るのだ。有り様がすべてだ。


あるとき、金木犀の葉が抜け落ちた。冬にはまだはやく、その年に花を咲かすことはなかった。常緑樹が二本同時に禿げ上がったため、凶兆を見出だす人が多かった。当方の両親もその例に漏れない。まして、明石のこともあるから尚更だ。

ついに昔から禿げていた百日紅を残して金木犀は立ち枯れてしまった。 在りし日が嘘のようなほど百日紅だけが突出した。枯れた木々を栄養にしたのか、百日紅は日ましに背丈を伸ばしていった。

今朝、目を覚ますと烏揚羽が多く飛び違っていた。窓からは出て行かなくて、ベレンダも開けた。すると群れをなして入道雲に向かって羽ばたいていく。

すっかり目を奪われていた時だった。百日紅の尖端が胸を貫いたのだ。その位置はたぶん心臓だ。

百日紅は満足したかのように震えた。木は次代のために花を咲かすが、それを辞めてまで到達した目標だったのだ。私の上で烏揚羽が羽を休めている。

百日紅は砕けるように枯れた。ベランダから落ちていく我が身を受け止めるものは当然ありはしない。

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百日紅がさく 古新野 ま~ち @obakabanashi

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