百日紅がさく
古新野 ま~ち
第1話
故郷を持たざる者もいるわけであるが、一大事や天変地異により喪失したわけでもなく、ただ故郷というものが徹頭徹尾に無を志向したとした思えない設計であったのだ。住んでる人たちも仮住まいのような心持ちだったはずだ。己が出自がどこでも代替できるようなものであった。
景観が定まることはなく、古くなったものは新しいものに取り替えられるならばいいほうで手もつけられず廃っていく。移ろいが雅といえたらいいがそうじゃなかった。
百日紅の木が申し訳なさそうに生えていて、火星人を捕獲する人間のように金木犀が立っている。三本の木の間隙からちょうど我が家のベランダのみが覗くことができる。403号室だ。しかし異なもので我が家のベランダからは三本の木は見えない。
そのようなことを私のはじめての友達である明石に言ったら彼は柵に身体をのせると突然視界に現れた烏揚羽に目をやられ転落した。落下した場所は三本の木であり、かくも人は脆いのかと感心したことだが、尻胴頭が木で貫かれた。百日紅が心臓を破壊し肉片が飛び散った。
彼の父母は木々の前で泣き崩れた、その姿を伏せながらベランダから見下した。
百日紅の尖端は、仕方がないほど真っ赤にそまり、それは雨風雪霰では消えることなくその年から花も葉も枝でさえ生えることがなかった。
葬儀は団地の集会所でしめやかに行われた。
くるくると季節が巡る、金木犀は枯れて百日紅も痩せていった。世は常に音もなく変化する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます