コップの中の漣 ~それでは問題、で・す・が! 特番で・す・が!~
椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞
クイズ番組研究部 VS FBI
「さあ、始まってしまいました、クイズ番組研究部! お待たせ致しました! 司会はわたくし、
僕が自己紹介を終えると、パーソナリティの女子生徒三人が拍手をくれた。
「では、解答してくれる選手をご紹介致します。最も僕に席が近い女生徒は、
「よろしくお願いしまぁす」
ポワンとした挨拶で、会場の雰囲気が和む。
だが彼女は、頭脳明晰、早押しの達人であり、母親がクイズ王というクイズ界のサラブレッド。我が番組研が誇る最強の解答者だ。
「その隣にいるのは、
小学生のようだが、れっきとした女子高生だ。
「よっ、待っていたぞ、しょーた!」
のんはお祭り気分で、解答席である学習机に身を乗り出す。
その拍子に、早押し機にお腹が当たった。
「ぽーん」と、情けない早押し音が鳴る。
「落ち着きなよ、のんたん」
「今週は妙におとなしいですね、
見た目はキャリアウーマンを思わせる、ショートヘアの少女だ。
「クイズになったら、またいつも通りだから」
ボケ解答に走らなければ、普通に才女なのだが……。
「本日は少し趣向を変えましてですね。皆さんに推理をしていただきたいなと、題して、『クイズ番組研 VS FBI』!」
「FBIだと!?」
「知っているのか、湊っち!」
のんと、湊が寸劇を始めた。いつものことだ。
「正式名称は連邦捜査局。テロやスパイ対策だけでなく、政治家の汚職も暴くというアメリカの警察機関!」
まんまウィキの引用ありがとう。
「今回、皆さんに挑戦していただくのは、なんと! FBIの採用試験です!」
「なんだと!?」
「それはまあっ!」
「うわー、楽しそう!」
のん、湊はおろか、嘉穂さんまでも驚きのリアクションをくれた。
ナレーション担当の
僕の幼なじみであり、クイズ番組研究部、唯一の二年生だ。
常に笑顔を絶やさないので、目が開いているのかどうか分からない。
「このボードに、回答を書いてください」
「えらい難しそうな題材を選んだね、福原。難問はイヤじゃなかったのかい?」
湊の指摘どおり、僕は知識一辺倒なクイズ番組には否定的だ。
クイズ番組研究部とは、「面白いクイズ番組を作る」ために設立された部活である。
我が校にはクイズ研があるのだが、全国高校クイズ大会の常連になっていくにつれ、「クイズは、とっつきにくい遊戯」だと認識されてしまった。
そのため、「クイズは楽しいものだ」と生徒たちに理解してもらうのが目的だ。
「いい質問ですね、名護選手。大丈夫。この問題は、頭の回転の速さ、機転が利くかどうかで解答できます。つまり、推理力さえあれば誰でも解けるんですよ! 特別な知識は必要ありません!」
確かに、特務機関と言うだけあって、FBIの入局テストは洒落にならないほど難しい。
我が番組研究部が、どれだけ頭が柔らかいか、それを試そうと思ったのだ。
「それでは、FBI エージェント・テストに挑戦していただきましょう!」
やなせ姉にマイクを振って、問題を読み上げてもらう。
『問題
とある男女が、レストランで食事をしていました
メインディッシュを待っている間、女性の方が「暑いー」と言い出ます。
その後、氷の入ったドリンクを五杯頼んで、一気に飲みました。
男性の方は、じっくりとドリンクを飲んでいました。
すると、男性は気分が悪くなり、そのまま死んでしまいました
医師が調べると、コップの中には毒が検出されました。
女性の方にもです。
さて、どうして女性は無事だったのでしょう?』
僕は、壁のホワイトボードにも、同様の問題を貼り付ける。
「制限時間は、ございません。じっくり考えて解答をお出しください」
「分かったのだ!」
最速で、のんがフリップを出す。
早すぎだろ! まだ一分も経ってないぞ。
しかし、彼女はこういった勘に頼る問題に強かったりするので、侮れない。
「ウエイターが犯人だった!」
ブーと、不正解のブザーが鳴る。
「あのですね、このクイズなんですけど、犯人はいません」
「なん……だと?」
「正確に言うと、この問題は、『なぜ女性だけが生き残ったのか』を問うクイズなんですよ」
したがって、誰が犯人かは考えなくてもいい。
実は、いくら調べても「誰が犯人か」は説明がなかったのだ。
多分、ウエイターかも知れないが。
「じゃあな、うーんとなー」と言いながら、のんが解答を書き直した。
「お腹を壊してトイレに駆け込んだから、死ぬのを免れた!」
それも不正解だ。
仮に犯人が女性で、コップの中に毒が入っているのが分かっているとする。
飲んでしまったのなら、お腹を下さずとも、指を突っ込んで毒を吐き出せばいい。
「これ、当たったかもよ」
自信満々に、湊がフリップを出す。
「キャンペーンで、生き延びられるのが女性のみだった!」
「女性だけが生き残るキャンペーンとか恐ろしいわ!」
「ただし美少女に限る!」
「限りません!」
「アハッハハハハハハハ!」
ほら、嘉穂さんがゲラモードに入っちまったじゃねーか!
机をバンバン叩いて、嘉穂さんは楽しそうだ。
解答が出そろう中、嘉穂さんだけが長考状態に。
「津田選手、分かりませんか?」
「何か、ヒントが欲しいですねー」
嘉穂さんだけではなく、全員の手が止まった。
「分かりました。では、皆さんにはブレイクしていただきましょう」
やなせ姉、今度はプラスチックのコップに入ったオレンジジュースを、机に配る。ジュースには氷も含まれていた。
「わあ、うまそう! いただきます!」
のんがコップを掴み、氷ごと中身を口へ放り込む。バリバリといい音を立てながら、満足げな顔を浮かべた。
「おかわり!」
のんがジュースを要求する。
他の二人は、くつろぎながらゆっくりとジュースに口を付けている。
「二人も、おかわり、いる?」
ジュースのボトルを持ちながら、やなせ姉が湊に尋ねた。
「ありがとう。ごちそうさま」
「わたしも。おいしかったです」
湊と嘉穂さんは、おかわりを断る。
嘉穂さんの動きが止まった。
「そうか!」
途端に、嘉穂さんが素早く手を動かし始めた。
ホワイトボードを、机の前にドンと置く。
「毒は、氷の中に入っていました」
「お見事! 嘉穂さん正解です!」
女性は早くドリンクを飲んだ。毒入り氷がコップ内で溶ける前に。
だが、男性はゆっくりと飲んでいたため、毒が溶けてしまったのである。
「のんさんが、氷を食べて、湊さんのコップには水がたくさん残っていたので気がつきました」
「いやあ、見事な推理力でした! 津田嘉穂さんは今日から津田捜査官です!」
本日のクイズは、この一問だけだ。
「お疲れさまでした!」
嘉穂さんが、みんなのコップにジュースを注いでくれた。
「ありがとう嘉穂さん、いただきます」
「福原、それ、嘉穂たんが使ったコップだよ」
「なぬ!?」
湊の発言を受け、ジュースを飲もうとした手を慌てて止める。
手がガタガタと震え、コップの中に漣が立つ。
ここまで動揺するなんて。
「ちち、違います! ご安心を!」
嘉穂さんが「どうぞ」とてを差し伸べる。
「福原、なんか今ガッカリした?」
「いや、別に……」
湊に尋ねられて、僕は視線をそらす。
「してくれたんですか晶太くん!?」
嘉穂さん、なんで食い気味!?
「も、も、黙秘権を行使します捜査官殿ぉ!」
(おわり)
コップの中の漣 ~それでは問題、で・す・が! 特番で・す・が!~ 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2
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