第93話 表裏ーコダマー

あの魔剣士が私の恩人の仇。

背後に自分より背の高い麗人を庇ってメアリーと対峙する姿が池に揺らぐ。


私はどうすると決めていない優柔不断な魔族たちが集まった城の裏手、本丸と呼ばれる母屋の庭先にある池にメアリーと対峙する魔剣士の姿を映していた。


あの魔剣士は、メアリーが言うにはメアリーの息子エラルドを義兄弟として遇しているらしい。そしてパーティとして共に居たルイスは元々王国の守護家の一人。

さらに、惜しまれつつ宮廷を去った元宮廷魔法使いの業火の番人も共に現れた。


ただし、少女自体はとても普通で、変哲もない子に見えた。


目が金色だから何かの血が混じっているヒューマンであることは確実だが、それがハッキリするほど魔族や亜人の血が強いわけじゃない。

ただ、魔力の扱いに長けているのか、魔力を微塵も感じさせなかった。


レベルを見ればこれまでの激戦もしくは堅実さがわかるが、能力にも仲間にも恵まれた子だ。

私も異世界転生をするなら、ああやって仲間と旅をして、戦って生活して……。



「同じなのに」



逆ハーなんて言葉はこの国にはない。むしろ、この世界にハーレムなんてものがないのだから、そもそもの語源が存在しない。

それなら、あの子は私と同じだ。


他人に比肩を許さないほどの剣術、そして魔力。


ちっぽけな存在で、庇護してくれるデンがいなかったらすぐに消し飛んでいたような私とは違う。悔しい。どうして、同じような条件なのにこうも異なる。



「コダマ、どうしたんだよお?」

「なんでもない。それより、グート。お前はどちらを選ぶ?」

「おれえ?」

「そうだ」



王都を攻めるこの作戦。目的は点でバラバラだ。魔族たちはそれぞれのやりたいようにやる。

魔王の忠臣と名高い魔族はそれぞれ戦いたいと思う冒険者と激戦を繰り広げているのだろう。時々、大気が揺れるような激しい魔力の放出を感じる。


反対に人間と争わないと決めたものはその覚悟を決める原因となった人間を護るべく、人間に張りついている。


最も、メアリー・ラグラステールは息子と、その仲間を自分の家に招きたいと行ってスキップしながら戦場に出ていった。相も変わらず自由過ぎる吸血鬼だ。



「旅、悪くなかったんだよお」

「それで?ファイアットはグート次第って言ってたぞ」

「俺は子どもを殺す趣味はないよお」

「そうか。それが答えか」

「同族を殺す趣味もないよお」

「そんなことをするのはメアリー・ラグラステールぐらいだ」



幻術師、相手によっては微塵も役に立たないとはいえ、普通の人間相手には役立っていたニーナをメアリーは抹消した。


メアリーは怖い。今の私は人間でも魔族でもない魔力の塊だから、多少身体が傷ついたところで死ぬわけでも消える訳でもない。

それでも、ああやって、日常会話の延長線上で急に刃を向けられるのは平和な世界で暮らしてきた私には理解できない。



「大丈夫だよお」

「……そうか」



小さなものに触れるのは怖いからと言って普段は触れてこないグートが伸ばしてきた巨大な手が手持ち無沙汰そうに近くを泳いでいるのを横目で見た。



「旅、何が良かった?」

「あいつらは酷いんだよお、イタズラするし、よく忘れるし……。でも、俺のことをただ大っきいだけで普通って対応をするんだよお」

「普通……か。まあ、メアリーの息子と普段接していたらメンタルは強くなりそうだ」



池に映る魔剣士は魔物が攻めくる王城を護るべく配置に着いているはずなのに、親子喧嘩を止める知り合いのようになっている。

クリソツな顔で言い争うメアリーとその息子の間に立って大変そうだ。


でも、こいつはメアリーと同じ類の人間だ。デンを問答無用で消し炭にした仇だ。

それでも、私はあの王が私の提案を呑むなら、赦さなければいけない。



「コダマはどうするんだよお」

「人間の出す答え次第だ」



私を滅しなければ望む勝利はない。手を握りしめてから、池に手をかざした。

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華駆の戦女神 藤原遊人 @fujiwara

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