第92話 マリオネット

私は残念ながら魔剣士じゃないという否定は飲み込んで、振り返る。


ルイスが無言かつ素早く私たちの元につけられた伝令兵へ合図を送る。これは要注意の魔族と遭遇したときにユーゴさんやジゼルさん等の戦術を練る人たちへすぐに現状を伝えるために必要らしい。

こういうときにすぐに動けるルイスは常識なさそうに見えて、組織行動が身についている。


王都にいたというのを裏付けるように、城壁の内側からやってきたメアリーは蠱惑的に微笑んで挨拶をくれる。



「やーね。地味ね、あなたたちがもっと大活躍!というのを私は見たいのに」



艶っぽい唇を尖らせて、メアリーは不満を漏らすが、今回は頑張れば頑張るだけ損する。ボスが居ないのに、門から打って出る必要は全くない。

ちまちまと壁上から投擲が最高である。できれば、今後のことも考えてイアンに魔法すら撃たせたくない。



「私は大活躍な事態起きて欲しくないんですけどね」

「ふふふ、そうね。あなたからしたらそうよねえ。そう!私は今日、あなたを勧誘しに来たの。もちろんあなたが頷くなら、イアンも、そこの新しいメンバーも一緒で構わないわ」



私たちが忙しく武器を投げていたのが見えていたのか、見るつもりもないのか、メアリーは楽しそうにくるくると演説をしている。



「あなたに見てもらいたいものがあるのよ」



ヒヤリとしたミントの香りがしたと思ったらすぐ側にイアンが立っていた。メアリーとはじめて会ったとき以上に険しい顔をしている。

私が魔力節約!と言ってなければ容赦なく魔法を撃ち込んでいた事は間違いない。


ルイスは城へ出撃する前、ジゼルさんから言われた通りに私たちの周囲から人払いをしている。メアリーの技で最も怖いのが、ジャックを操ったあの技だ。

仲間を襲わせる精神攪乱が1番怖い。今、向かってこられたらあのときのように上手く収められる余裕があるかわからない。



「メアリー、ジェラルドは死んでいる」

「もう相変わらずエラルドは冷たいわ。砕けてないもの、まだ元に戻るわ」



2人がなんの話しをしているのかすらよく分からないが、イアンの殺気立ち具合から良い話ではなさそうだ。



「何人もの魔法使いが諦めても、あのひとはまだ砕けてないもの」

「全ての属性の精霊がついてすら、砕けないようにするのが精一杯なのに」

「だから探しているのよ」



ふと、以前に地下牢で、私の望みの次に祈ってあげると言われたことを思い出した。

具体的に何をさせたいのか全然わからないけど、とっても強いもしくは変わった魔法使いを使ってジェラルドを助けたいということだけはわかった。



「それが望みですか?」

「ええ、そうよ。メテオストライクを頻発できるほどの魔力調整力があるあなたなら、ジェラルドを起こすこともできるかもしれないじゃない」



やや目を伏せて歪に唇を吊り上げるメアリーは申し分なく艶やかで、できるなら手助けしてあげたいと思わせる魅力がある。


ただ、メアリーの前提が間違っているから、私は微塵も役立てないんだけどね。



「私では役に立てないと思います」

「あら、謙遜ね」



はっきりスパッと勘違いを指摘したら、危険な気がする。息子であるイアンに早死に繋がるとしても、好きに生きれば良いと言ってのける人だ。


この魔物がうじゃうじゃしていて、護らなきゃいけない街があるときにメアリーと戦うのは避けたい。

これは日本人のサラリーマン風に婉曲して、あなたのそれは勘違いかもしれませんよ?をお伝えしないといけないみたいだ。


難易度が高い。


メアリーから攻撃が来ないと認識したらしいルイスが投擲作業に戻るのを横目にため息をついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る