第33話 エピローグ 謀略

 魔族の首都ローラント城は城といっても中に一つの町がすっぽりと入っている程大きい。ここにいる間僕はジェルのお屋敷に居候している。まだ自分のお屋敷をもらえる程地位は高くないからだ。

 その夜、僕の部屋にこの家の主の娘はまたもやノックもせずに入ってきた。彼女はベッドに寝そべっている僕の横にあぐらをかき馬鹿笑いしている。


「おまえそのうち絶対死ぬぞ」


 彼女は父親から今日魔王の前で啖呵を切ったことを聞いていた。


「何言ってんだよ。イレインだって僕を殺そうとしたくせに」

「私はもうおまえを殺さない、殺す理由がなくなったからな」

「それじゃ僕にくっついている理由もなくなったんだね」

「そんなことはない、いくら指輪の力で未来が見えたとしても、おまえ自身はただのへなちょこじゃないか。いつ怖くて逃げ出すか、それとも誰かに殺されるかわかったもんじゃない」

「それもそうだね」

「何を笑っているんだ、キョウヤ。おまえ今、私に馬鹿にされたんだぞ」


 彼女に言われて気がついた。ぼくは笑っている。

 考えてみればこの世界にきて本当の僕のことを見ているのは彼女だけだったから。

 笑いを止めた彼女は僕を見た。僕も彼女を見た。しばらく二人は見つめ合う。先に視線を外したのは彼女だった。


「その指輪に名前をつけなくてはな」


 視線を僕の右手に移すと彼女は僕の右手を両手で包み込むように取り、それについている指輪の前に顔を持ってきた。


「これを選択の指輪と名付ける。本当は勝利の指輪と呼びたいところだが、おまえは必ずしも戦争の勝利を求めていないようだからな」


 そう言って彼女は今自分自身が名付けた指輪にそっと口をつけた。彼女の柔らかい吐息を僕は右手に感じた。



 玉間に魔王の笑い声が鳴り響く。ここ今いるのは魔王とその腹心である大臣の二人だけだ。


「小僧のやつめ、錬金の泉の品を使いこなしているようだな。あの泉は人間の強い負の感情がなければ作動しないからな、わざとぎりぎりまで追い込んだかいがあったというものよ」

「そのせいでたくさんのものが死にましたな、陛下。あやつがいかにも重要な人物であるかのような情報を反乱軍に流し、わざと居場所を知らせ襲わせるように仕向けた。ひょっとして小僧が本当に殺されることもあったので一種の賭けでしたな」

「よいよい、クルリーズ村を始めその犠牲など安いものだ、元々役に立たないものの集まりだったからな痛くもかゆくもない。小僧にしたって死んだらそこまでの話だ。その小さな犠牲を掛け金にして得られた物は大きい」

「ペルコレージのやつも頑張ってるようですな」

「予の命令通り人間の小僧の心をうまくつかんでいるようだ。百年前のキョウノスケのように、うまく制御しておる。そのひ孫も予の手のひらの上で踊ってるとも知らずに、せいぜいこき使ってやろう」

「キョウノスケのようにいずれ将軍の地位を与えるつもりですか陛下」

「もちろんだ、予の役に立つ者にはそれ相応の対価を与える」

「おやさしいことで。陛下の御心の大きさにこの老いぼれ感服致します」

「予は再び史上最弱の救世主を得た。それを使って反乱軍どもめ、目にものを見せてくれよう」


 魔王のさらに高い笑いが城中に響き渡った


 こうして現代では落ちこぼれの僕は、異世界で魔王の家来となった。


 これは僕が魔王の家来となって勇者を倒す物語――

 そしてだまされていたことを知った僕が魔王を倒す物語――

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魔王にスカウトされました 長谷嶋たける @takeru0627

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