第32話 凱旋

 エルフの主力が反乱軍を抜けたという情報が入り、魔王は僕たちへ与えたエルブレイム攻略の任を解いた。

 女子供しかいないエルブレイムはほとんど抵抗はなく、襲いかかった僕たちに反撃をせずに逃げ惑うだけだった。おかげでこちらに犠牲はほとんどでなかった。

 ジェルは僕のできるだけエルフ達を傷つけないで欲しいというお願いを聞いてくれて、兵にその事を徹底してくれた。彼らは寝静まった深夜に夜襲をかけ、町に火をつけ打ち壊し大騒ぎをした。だからエルフ達に少なくとも人的被害は出なかったと信じたい。

数日後、僕たちは魔王に呼ばれ、魔族の首都ローラントに入った。きれいに整列して行軍する僕たちをたくさんの魔族が遠巻きに眺める。


「おおよくぞあんな寄せ集めの軍勢でエルブレイムを攻略できたな」

「まさにあのタケカワキョウノスケの再来だ」


 口々にそんなことを言っているのが聞こえる。

 兵達とイレインを外に残し、僕とジェルとコリーンは入城し魔王に謁見した。

 魔王に謁見するのもこれで四度目になる。玉間の赤い絨毯の上を、僕を先頭にジェルとコリーンが続く。魔王はいつものように数段高いところに置かれている、金銀で装飾された巨大な椅子に深々と座り、その肘掛けに体重を預け、そこからいつものようにこちらを値踏みするように見下ろしている。

 三人でその前に跪く。


「よくきたな、予はそなたらに生きて再び会える日が来るとは思わなんだ」


 魔王は低い声で笑う。


「エルブレイム攻略大義であった褒めて取らす。特に褒美は与えん、だがペルコレージ、小僧との約束通り、おまえが軍を勝手に動かした件は不問とする」

「ははっ、ありがとうございます」


 ジェルが跪いたままお礼を言う。


「おまえ達を呼んだ要件はそれだけじゃ。これからも陛下のために身を粉にして働くのじゃぞ」


 大臣が締めくくった。


「待ってください」

「なんじゃ、キョウヤ。お主にもう用はないさっさとさがれ」


 大臣がイライラとした感じで言う。

 僕は立ち上がった。


「僕が約束したのはジェル・・・・・・ペルコレージさんの罪の帳消しまでです。これで目的を果たしましたもう僕が軍にいる意味がありません」

「ふむ、もう止めるというのか」


 魔王が顎のひげをなでながら言った。


「それは魔王あなた次第です」

「これキョウヤ! 陛下に無礼であろう!」

「よいよい、爺。小僧、何か言いたいことでもあるのか」

「僕は証明しました。弱い者でも役に立つと、あなたの弱い者は役に立たないという考えを改めて欲しいのです」

「タケカワキョウノスケ!」


 大臣が激しく杖で床を何度も突いた。


「よい、大臣」


 魔王は大臣を手で制した。老人は振り上げた杖を静かに下ろした。


「鼻息の荒い小僧だ、ただ一度の勝利に浮かれおって。いいだろう、ただの人間であるおまえが勝ち続け、将軍の地位にまで上り詰め、反乱が終わったときおまえがまだ生きていたら、その考え改めて聞かせてもらおう」

「わかりました約束です。僕はこの反乱を抑えて見せます」

「ではペルコレージ、引き続き小僧のお守りを任せる」


 謁見が終わりひとまず僕とジェル、コリーンは控えの間に通された。今後の細かい指示を受けるために。三人でテーブルの前の椅子に座りお茶を飲んでいる。


「キョウヤ様あなたは何を望んでいるのですか」

「僕はえらくなりたい。クルリーズ村のように貧しく弱いというだけで、差別される事は無い世界を作りたい。反乱を抑えたあとも人間や他の種族を弾圧したりしないよう陛下に注進するつもりだ。それには弱くてダメダメな僕が役に立つと言うことを証明しなくてはならない。僕はいつまでも弱いままではない。弱いやつにも成長し価値が出ることを証明してみせる」

「素晴らしいお考えだ、昔キョウノスケも同じ事を言っていました」

「え、ひいじいちゃんも? でも今のこの国の状態を見ると成功しなかったんだね」

「ええ、残念ながら反乱を抑える前に故郷に帰ってしまわれた」

「お父様・・・・・・」


 コリーンが会ったことの無い父親に思いをはせた。


「ひいじいちゃんはなぜ嫁とコリーンを置いて帰ってしまったんだろう。この国に残るという選択肢もあったはずなのに」

「それは恋人の妊娠を知らなかったからでしょう。彼女は・・・・・・コリーンの母親は、自分の妊娠を隠していました。それを知ったら彼が帰れなくなるのを見越していたからです。キョウノスケにはこの世界で生活するのは大変だろうと思っていたからです」


 ジェルがふと悲しげな表情を浮かべた。


「僕は戦争が終わってもこの世界にとどまるよ。フェリルやクルリーズ村のみんなの魂を弔うために」

「そうですかキョウヤ様、これからもあなたの部下として粉骨砕身で頑張ります」

「ジェル、コリーン、もう僕に敬語はやめてよ。そもそも娘のイレインが敬語じゃないんだから」

「わかったキョウヤ。おまえはもうお客さんではない、これからは一人前の男として扱おう」


 僕は二人と握手した。

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