七月十日

 そこでふっと現実に引き戻された。

 まず真っ先にやったのは、今のが夢であることを確認することだった。

 それくらい、ほんとうに現実と夢の区別がつかないくらい、あまりにも生々しい現実感を伴った夢だった。

 現状を唱えてみる。

 マンションに住んでる。今そのマンションの自室で目が覚めた。ここは自室だ。

 おそらく再婚した父親などいないし、母と俺と弟の三人暮らし。間違いないだろう。

 もう一人の弟は?夢だよな?

 でもこれだけは確かに夢だったという確信がまったく持てない。

 隣の部屋で弟がどこかに電話している。

 思い切ってきいてみようか。

 でも、あれが夢で、これが現実なら、そんなこときいたらおそらく俺は本当に気が狂ったことになってしまう。もうこれ以上覚められないのだから。

 二、三分もそんな混乱が続くと、段々リアリティを担保してくれる理性が戻ってきてくれた。

 俺の混濁とした記憶に夢という大きなハンコを押してくれ、さっきの話は全部夢だったのだという棚に整理がついた。

 それにしてもこんな現実と夢とを取り違えそうになるようなほどの夢なんて滅多にない。

 面白がる余裕まで出てきた。

 しかし、理性も一つだけハンコを押さずに見過ごしてしまった。もう一人の弟、というところに。

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五度目のクリスマス 雪乃 伴哉 @banya

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