第2話 啓示板

登校して二日目、校舎に入ると掲示板の前に人だかりが出来ていた。

皆口々に「これマジで?」「えっ、あの人が?」などと言っている。

有名人でも来るのだろうか。

俺が掲示板に歩み寄った。

民を導くモーセの目の前の海が二つに割れたように、群衆は俺を見て道を開けた。

掲示板を見ると、目を疑うようなものがそこにあった。

巨大なポスターに載っているのは自分の名前と顔写真、顔の真下に「花森豊 混沌とする地平に現れた新時代の救世主 愚かな者どもよ、今すぐ彼の前にひれ伏せ」とこれまた大きな赤文字。

その文章が目に入るや否や、俺は掲示板から紙を剥ぎ取った。


あたりを見回す。周りの群衆は俺に珍獣を見るような目を向けていたが、目を合わせると気まずそうに一人一人去って行った。


どうやら、俺はモーセに仕立て上げられようとしていたらしい。


階段で二階に上がると、廊下は教室へ向かう生徒たちでごった返していた。

ふと遠くを見ると、教室と教室の間に人だかりができていた。

嫌な予感がする。


一目散に走り、人だかりに侵入すると、嫌な予感は的中していることがわかった。


さっきとまったく同じポスターが、二階の掲示板にも貼られている。

即座にポスターを剥ぎ取ると、俺は三階へ向かった。




おそらくこれで最後のはずだ。

左手に大量のポスターを握りしめて理科室の掲示板に向かう。

第一校舎だけでなく、第二校舎の図書室まで貼られていた。


こんないたずら、誰がなんの目的で……


掲示板には、夏休みサイエンススクールや模試のポスターに混じって見慣れたアレが貼ってあった。


手をかけ、一気に剥がそうとする。

「ちょっと、なにしてるの!」

いきなり自分より幾まわりか小さな手に腕を掴まれた。


「いやそっちこそ何す……」

顔を見ると、見覚えのある顔がいた。

「あっ!豊くんじゃん!」

「かお……る?」

彼女は満面の笑みで頷いた。

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黒板消しと経典 þoþufa @killienyan

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