黒板消しと経典

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第1話 自分が信じるものくらい自分で作れ

「普通の高校生」と言えば、大抵が普通でない高校生の形容に使われる。

「普通」を名乗る「一般人」が超能力や魔法、超人離れした身体能力を生かし、凶悪な敵を次々と倒して行くのは、実に爽快だ。


かたや自分はと言うと、これはまさしく「普通の」高校生である。

ただし先に述べた欺瞞の「普通」とは大違いで、転校初日の教室で、黒板の前に立たされながら、「普通に」緊張していることからも自らの人並みな普通さを感じられる。


「東京から転校してきました。花森豊です。宜しくお願いします。」

ぱちぱちとまばらな拍手が教室にこだました。


この時までは、自分がこのまま普通の人間と普通に高校生活を終えるものだと、確信するほどではないが、当たり前のようにそう感じていた。


放課後は、各部活動で見学ができると言うので、色々見て回った。

運動部、文化部各種回ったが、既に人間関係が出来上がっている雰囲気に2年生の自分はどこか疎外感を感じて、どれも途中で抜け出してしまった。


「ああー、こっちじゃ帰宅部かー」

寄り道して買った棒アイスを舐めながら、心の中でうなだれた。

帰宅部も悪くない、自室で漫画を読んで、好きな音楽を聴いていれば、極寒厳暑の中きつい練習に耐える必要も、狭い人間関係に悩まされる心配もない。

「でもやっぱりなあ。」

明日もある。もう一回面白そうなところないか見てみようか。

そんなことを考えながら、食べ終えたアイスの棒を道端に放り投げた。

すると突然、「ポイ捨て!やめなさい!」と言う怒鳴り声が道に響き渡った。


「ちょっと、君だよ君!」

振り向くと、そこには同じ高校の制服を着た一人の女の子がいた。

「俺?」わざとらしく聞き返す。

「他に誰がいるの?ポイ捨てはいけないことってお母さんに教えてもらわなかった?」

「いやー、本当はそうなんだけどさ。ほら見てみ、ここ雑木林になってるだろ」

この状況、100:0で自分が悪いのだが、夏の暑さに血が高ぶり、しょうもない屁理屈を展開した。

「見りゃわかるけど。」

「この棒だって木の死骸なんだ。死んだ後くらい自分たちの仲間と一緒にしてやるのが『葬い』ってもんだろ。」

適当なことを言った。全部夏のせいだ。

彼女は一瞬「は?」という顔をした後、考えこむような表情を見せ、沈黙した。

てっきり「屁理屈言うな」などと言われるものだと思っていた俺は予想外の展開に面食らい、「……あ、冗談だよ冗談」と言って土に刺さった棒を拾おうとした。

「確かに。」

「え?」

「一理あるわね。」

「いやいや、さっきのは適当に言っただけで」

「君、才能あるよ!」

皮肉だろうか。

「え?なんの」

「キョーソ」

「キョーソ?」

「うん!明日の放課後、第2資料室に来て!色々お願いしたいことがあるの!」

彼女は目を輝かせて言った。

「いや、っていうかキョーソって何?」

「それも明日、説明する!私やることがあるから、じゃあね。」

そういうと彼女は自転車を漕ぎ始めた。

「……あ、名前は!?」

去ろうとする彼女の背中をめがけて叫ぶ。

「かおるー!君はー!?」

「豊!!」

「わかった!じゃあまた明日ねー!」

手を振りながら彼女はあっという間に去って言った。


「なんだったんだろう」拾った棒に問いかけるも、返事はなかった。


事態が急変するのは、その次の日だった。

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