第3話 親友

 泉に彼氏がいることを知った日の翌日。普通は学校はある 。俺の傷心で休みにはならない。泉にあった時どんな風に接すればいいのかわからない自分がいた。


 下駄箱で靴を取り出していると


「おはよ〜」と声が聞こえた

 泉の声だ。聞き間違えるはずもない。俺は鞄を教室に置いてすぐに息をつくまもなく出て行った。


 本当は通学で疲れていたから座っていたかった。でも俺の心はそうさせてくれなかった。彼女と同じ空間にいるのが耐えられなかった、彼女の顔を見ていられなかったから。


 武田は俺のこの様子を見逃さなかった。俺トイレに駆け込みHRまで携帯をいじろうと思い、ポケットに手を伸ばした。


 するとその手を上から押さえつけられた。顔を上げるとそこには説明しろと言わんばかりに笑う武田の顔があった。


「何もないよゲームしたかっただけだよ」

「俺はまだ何も言ってないぞ。それに教室でもできるだろ。何隠してんだよ」

「それは…」


 言ってもいいのかわからなかった。引かれたりしないだろうかそんな心配が頭の中を駆け巡って、はっきりとした答えをその時できなかった。俺にできたのは帰りに話すと先延ばしにしただけだった。


 もう6限がおわる。いつもなら眠くて1分が1時間にも感じられるのに今日は1時間が一瞬で過ぎていった。帰りになんて言えばいいか考えていたら眠気なんて一切なかった。


「松本帰るぞー」

「あ、うん、ちょい待ってて」


 そろそろ覚悟決めるしかないか、なんとなく気を引き締めるために顔を軽く叩いてみた。

「よし。ごめん、おまたせ」


 学校の横を通り過ぎて、同じ制服を着た高校生はもう誰もいなかった。


「で、何があった」

「この際だから言うけど泉のことさ好きだったんだよね」

「まあ、わかりやすいな」

「う、うるせえ。でも昨日さ彼氏がいるって知っちゃったんだよね」

「そういうことかよ、なんで今日避けてんのかなって思ってたけど」

「そんなにわかりやすかったのか…」



 そんなことを話してるうちに駅が見えてきた。あんなにもためらっていたのに話してみたら意外と一瞬でなんだか楽になった。


「実はさ昨日家でさちょっと泣いちゃったんだよね」言うつもりなんてなかったのに、なぜだか武田には話しておきたくて言ってしまった。引かれるかも。

「ふーん、そんだけ好きだったんだろ。いいじゃん」

「引いたりしないの」

「そんなことで引くかよ。いいじゃんか純情で」

「あれ、駅そっちじゃないでしょ」

「カラオケ、行くだろ」

「え……う、うん、いく」多分武田なりに気遣ってくれたんだろうな。その優しさが嬉しかった。


 昨日あんなに泣いたのが嘘みたいに、騒音の鳴り響く2人だけの空間では思いっきり笑えた。何も考えずにバカになれた。


「武田ありがとうな」

「別に俺が行きたかっただけだよ」

「また明日学校でな」

「おう、またな」


 武田は俺が思ってた以上にいいやつで、優しかった。なんだか全部分かり合える友達ができたような気がして俺は嬉しかった。


 そのあと携帯を見ると泉から連絡が来ていた。


「私なにかしたかな。今日ちょっと避けられてるように感じたんだけど…」

「なんでもないよ、ちょっと疲れてただけ」と返しておいた。


 泉からの連絡がもう辛くは感じなかった。自分1人で抱え込むのをやめたからかもしれないな。



「相談があるんだけど、うちのクラスでゲーム好きな人でグループ作らない?」

「いいね!そしたら男子は俺誘っとくから、女子誘っといてくれる?」

「わかった!頑張ってみる」

 俺はその時迷わずに武田を誘った。


 武田や泉と3人で趣味のことを話せるのが楽しみで仕方なかった。その日はそのことを考えながら眠りについた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋の後味 空色 @nagisanagisa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る