決壊まで後5分

暗黒星雲

カウントダウン

(あと5分……)


 俺の全神経は覚醒し、その時を待っているのだ。そう、その時だ。


(あと4分30秒……)


 俺の両手は震え、両足も痙攣している。

 俺の忍耐が崩壊した時は人間失格の烙印を押される。間違いない。


(あと4分……)

 

 これは拷問だ。こんな苦痛を味わったことなど無い。

 俺はべっとりと脂汗を流している。


(あと3分30秒……)

 

 そう、それは豪雨による濁流に必死に耐える堤防のようだ。

 そこが決壊すれば、その地域は水没するのだ。


(あと3分……)


 耐えろ。それしか選択肢はない。


(あと2分30秒……)


 意識を保て。

 絶対に自分を見失うな。


(あと2分……)


 もうダメかも……いや最後まで諦めるな。希望を捨てるな。


(あと1分30秒……)


 俺は後悔している。あの時あんな事をしなければ……


(あと1分……)


 いや、アレは間違いじゃない。こんなに暑いんだから仕方ない。俺は間違っていない。


(あと30秒……)


 ガスを抜き圧力を下げる……、馬鹿な考えが頭をよぎる。そんなことは不可能だ。それを選択した瞬間に全ては瓦解する。


(あと20秒……)


 俺はカウントダウンに入った。あと少しだ。俺の忍耐は俺の為だけではなく、この大学に通う全ての学生に対する祝福でもある。


(あと10秒……)


 これを乗り切れば世界に平和が訪れる。核兵器のない温暖化のない恒久平和が訪れるはずだ。そう信じて耐えるのだ。


(5……4……3……2……1……0)


 講義終了のチャイムが鳴る。俺はカバンを持ち教室を飛び出す。


 俺は走った。誰かに注意されるかもしれない。構うもんか。非常事態だ。


 目的地に着き個室に入る。震える両手を何とか動かしズボンと下着を下げ便座に座る。


「××××××××××××××××」


 この苦痛が快感に変わる瞬間のなんとも言えない解放感。人にとって最高ともいえるひと時ではないだろうか。

 

 大学の講義時間は長い。暑いからと言って不用意にアイスや水分を取るものではない。自分の腹具合とよく相談すべきだなと反省するのだった。


 そしてふと横のホルダーを見る。

 そこにあるはずのモノ、トイレットペーパーは何処にもなかった……。


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決壊まで後5分 暗黒星雲 @darknebula

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