二十の段 初心を忘れるな
そして、翌日。
義苗さまがおどろいたのは、予想を大きく上回る
やはり、江戸相撲の大スターである
もちろん、菰野藩のお
「うわー! ハギちゃんが
「相撲は神さまに
義苗さまはそう言ってミヤにほほ笑みました。
(義苗さま。最初会った時よりも、ちょっと大人っぽくなったような気がしますです。知り合ってまだ一か月ぐらいしかたっていないのに、
きっと心が成長したから、顔つきも大人びてきたのでしょう。この一か月、本当に
「はーはっはっはっ! 見事な名試合じゃ! さすがは江戸相撲で一、二を
チカじいも、谷風関と小野川関の
どっちが勝ったのかは、
痛い、痛い! 物を投げないでくだされ! ごめんなさい!
「殿さま! こんなにもたくさんのお客さんが菰野に来てくれたのは初めてです! きっと、相撲が終わったら
ドラぽんは胃の痛みも忘れて、大はしゃぎしています。
でも、ドラぽん。とーっても大事なことを忘れていませんか?
「……
ドラぽんは「そ、そんなぁ~! ……また胃が痛くなってきた」とがっかりするのでした。
たぶん、菰野藩の借金問題は
「そうだな。オレは菰野の民と家来たちを必ず守ってみせる。……ただ、そのためにはどうしてもやらなければいけないことがある」
え? それは何ですか?
「オレはご
大相撲の
義苗さまと馬公子さまは、二人きりで湯の山の温泉につかりながら、語り合っていました。
「チカじいさまは
「そのほうがいいな。尾張のお殿さまの
……定信さまが義苗どのの
「はい、わかりました」
義苗さまが力強くうなずくと、二人はしばらく
十秒ほどの沈黙の後、二人はほぼ同時に言いました。
「オレ、ご隠居さまから菰野藩を
「義苗どの、兄上から菰野藩を奪い取ってくれ」
馬公子さまは、義苗さまが自分と同じ考えだったことに
「とうとう、殿さまとして
「今のまま菰野藩をご隠居さまに
オレは、江戸に
大名には、毎月決まった日に
しかし、義苗さまは今まで「まだ子供だから」という理由で
ご隠居の
「
と言い張っているのです。
だったら、将軍さまに拝謁して「一人前の殿さま」だと認めてもらえばいい。義苗さまはそう考えたのでした。
一人前の殿さまあつかいされたら、参勤交代の
「なるほどな。そうすれば、兄上から政治の
「何でしょうか」
「『
人間はちょっと成長できたと思うと、学び始めた頃の未熟だった自分の姿を忘れてしまう。すると、だんだん
だから、義苗どのも『立派な殿さまになろう』と決心した今の自分を忘れず、未熟だったあの頃にくらべて自分はどれだけ成長できただろうかと
「はい、わかりました」
「……兄上も初心さえ忘れていなければな。あの人も、昔は菰野藩のためにがんばっていたんだ」
馬公子さまは悲しげに目をふせ、雄年さまの
「兄上は、たった5歳で殿さまになった義苗どのと同じように、8歳で菰野
大人になった兄上は悪い家来たちを
「あっ、その話は知っています。ご隠居さまはある目的があって、
「……見捨てたわけではない。父と子の仲はとてもよかったのだ。しかし、どうしても田沼さまと仲良くなり、そのコネで幕府から命令される
課役とは、大名たちが将軍さまのために色々とお仕事をさせられることです。
川が
雄年さまは、田沼意次さまと仲良しになってその課役を免除してもらおうとしたわけです。
江戸屋敷の
「それが、ご隠居さまの目的だったんですか……」
「兄上は泣く泣く息子を後継ぎ
田沼さまと友達づきあいをするために、兄上は田沼さまが開く
ああ~……。そういう
「だから、義苗どのには初心を忘れてほしくないんだ。お願いだから、今の気持ちをなくさないでくれ」
「わかりました。
馬公子さまにそう
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