十三の段 隠密のうしろには隠密?
その日の夕方。
「
疾風の一郎がブツブツと
「土俵や屋根を
「
「え?
「おいら、
(何⁉ あの土俵と屋根は、オレをあざむくための偽物だったのか! だったら、あのガキから本物がある場所を聞き出してやる)
そう考えた疾風の一郎は、菰野藩の
「おい。さっきの話は本当か? 本物の土俵と屋根は、どこにある」
「おじさん、
「オレが
「教えてあげてもええけど、タダで教えるのは嫌やなぁ~」
男の子はニコニコ笑いながら、右手を差し出しました。
疾風の一郎はチッと舌打ちし、「
「おじさん、太っ腹ぁ~! おいらがその場所まで連れていってあげるよ。こっちやに!」
男の子はお団子をもぐもぐ食べながら、庄部神社の近くを流れている
読者のみなさんはもうわかっていると思いますが、この男の子は
「なんだ、ここは。草がぼうぼうと生えていて何もないぞ。こんなところで本当に大相撲をやるのか?」
「おじさん、
「なるほど、たしかに
「おじさん、あそこ。あそこやに。まだ土俵しかできていなくて、屋根はこれから
(だったら、土俵だけでも
ニヤリと笑った疾風の一郎は、嘘重くんが
「ぎゃぁぁぁ⁉」
あっさりと、ミヤが
まわりに1メートル近いマコモがぼうぼう生えていたため、落とし穴があることに気づかなかったようですな。
「う、うわわ! マムシやヒルがいる! 助けてくれー!」
疾風の一郎の
「やった! 大成功だ!」
「ここからが本番です、にんにん」
マコモが生い
「ち、血を
疾風の一郎は
「こ、こうなったら
疾風の一郎はそう叫ぶと、人間
「ただでは逃がしませんです! これでもくらえ!」
ミヤもジャンプ!
ミヤは何やら
「う、うひゃ⁉ 体がピリピリってなったぞ⁉」
何ですか、あの箱は⁉ ちょっとだけ電気を発しましたぞ⁉
空中でバランスを
「ミヤ。今日はよくがんばってくれたな。
「では、いつものようにごほうびをくださいです」
「う、うん。すーはー……。
『くノ一ミヤは
はぁはぁ……ぜぇぜぇ……。ど、どうだ。満足か?」
「むふぅ~!」
どうやら、大満足しているようですな。
「喜んでくれるのはいいけれど……。もっと大きな大名家に
ミヤにたいしたごほうびをあげられないことを気にしているのか、義苗さまはそう言いました。
しかし、ミヤは「
「世の中の殿さまのほとんどは、忍者なんて使い
私は、心の冷たい殿さまからお給料をもらうよりも、優しい義苗さまに『よくがんばったな』とほめてもらえるほうがずっとずっと
ミヤはそう語り、愛らしい顔でニッコリと
義苗さまはミヤの笑顔にドキッとなり、「そ、そうか」と言いながら顔をそらしました。おやおや、耳が真っ赤ですな。
「お……オレも、ミヤがこのまま菰野藩にいてくれたら
義苗さまが
ぐ~ぎゅるるぅ~
ミヤのお腹が鳴りました。
もー! せっかくいいムードだったのにぃ~!
義苗さまは思わずズッコケそうになりました。
「ご、ごめんなさいです。晩ご飯を食べたばかりなのに……」
ミヤも
まあ、ミヤのお腹が鳴るのも無理はありません。
菰野藩は
だから、忍者のミヤに出される食事もご飯少なめ、おかずもほんのちょっとでした。食いしん坊のミヤにはぜんぜん足らないでしょうなぁ。
「オレの魚を半分やるよ」
まだご飯を食べていた義苗さまは、魚の
「殿さまのおかずも少ないのに、私がいただいたらもうしわけないですよぉ~!」
「
「う、う、う……。ありがたき幸せですぅ~」
ミヤは
「……そういえば、隠密をやっつけた時に使っていたあの
義苗さまは、あの電気が発生するなぞの箱のことをふと思い出し、ミヤに聞きました。
「あれは、オランダで発明された、ピリピリとしびれる光を発生させるエレキテルという道具です。
「へぇ~、すごいな。でも、忍者なのに、何でそんなものをおまえが持っているんだ?」
「……平賀源内という人は、医者や作家、画家、
「えっ、そうだったのか⁉」
なるほど。天才・平賀源内の娘だから、からくり人形の
「……でも、さっきから『らしい、らしい』と
「父は私が
「……
「気にしないでくださいです。殿さまだって5歳で両親と引き
(ミヤが笑うと、暗い気分も明るくなるから
そんなわけないでしょーが!
義苗さま! 自分の気持ちぐらい、ちゃんと気づきなさいってばぁ~!
義苗さまとミヤがそんな会話をしていた
三滝川に落っこちてどんどん流されていた疾風の一郎は、ある人物に助けられていました。
「川からすくいあげてくれたうえに、マムシの毒の
「オレさまの名は、
「そんな
「ああ、知っているさ。だが、オレさまも、おまえと同じ
「な、何だと? おまえは、ずっとオレを監視していたのか?」
「ああ。……しかし、
「ダメじゃん! ぜんぜん監視できてないじゃん!」
「……監視をつけられていたことには正直おどろいたが、これで助かった。一人ではとても任務はこなせないと思っていたところだったんだ。菰野藩は小さな藩だが、なかなか手強い。これからは二人で力を合わせて、菰野の大相撲を
「ああ、いいだろう。しかし、たとえその任務に失敗しても、オレさまは菰野藩の弱みをにぎっているから安心しろ」
「菰野藩の弱み? 何だ、それは」
「それはな、菰野藩の殿さまが勝手に江戸をぬけだして、今この菰野に……ひそひそ」
あ、あわわ……。わる~い隠密が二人もそろっちゃいましたぞ?
義苗さまと菰野藩は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます