十二の段 嘘つきの天才
「ぜぇぜぇ……。川止めのせいで、ひどい目にあったぞ。……うん? あいつらは何をやっているんだ?」
疾風の一郎が、菰野の
何だろうと思って行ってみたところ、
「ふぅ~ん。こんな小さな藩でも
ちょっと! それはさすがに失礼でしょう! 市場ぐらいはありますよ!
ここは市場の神様がおまつりされている
「む? あんなところに
疾風の一郎は、境内で土俵の屋根の
うわっ、これは悪いことを考えている顔でござるぞ?
「フフフ。あんな土俵、使えなくしてやるぜ」
その
「では、今から大相撲菰野場所について話し合いたいと思う」
菰野陣屋の
会議に出席しているのは、
え? ミヤですか? そーいえば、どこに行ったのでしょう。
「大相撲の
馬公子さまがそう言うと、ハギちゃんが「それは、おいらにお
「
菰野藩は借金まみれです。それなのに、ご隠居の雄年さまのわがままで大相撲を菰野で開くことになりました。もちろん、たくさんのお金がかかり、菰野藩は先月に400両の借金をしたばかりです(その借金には、ご隠居さまの遊ぶ金もふくまれていますが……)。
「お客さんが来て菰野の町が多少うるおっても、
胃に
その横では、ピョンピョン左衛門がボーっとしています。
「と……とにかく! ご隠居さまの
みんなの間に広がるどよ~んとした空気を吹き飛ばすため、義苗さまはわざとテンション高めでそう言い、みんなをはげましました。
義苗さま、馬公子さまと領地の見回りをした日以来、ちょっとだけ成長したみたいですな。木々が生い
「義苗どのの言う通りだ。借金なんかに負けず、がんばろう」
「殿さまのその前向きな考え、花まるです!」
「そ、それがしもがんばります! ……でも、胃が痛いです」
「えいえいおー、でござる!」
「うおおおーーーっ‼ この
ピョンピョン左衛門が相変わらずうるさい!
さっきまでボーっとしていたくせに、難しい話が終わったとたん、急に元気を出さないでくだされ!
「殿さま、
会議に顔を出していなかったミヤが、ピューン! と
「どうした、ミヤ。もしかして、
「はい!
「ええっ⁉ こんな
たぶん、「どんな仕事も疾風のごとく終わらせなきゃ死んじゃう病気」にかかっているあの男のことなので、夜になるまで待てなかったのでしょうなぁ~。アホですな。
「神社の森に
隠密が町で悪さをしていないか探していた
「いい、気にするな。よく
「いいえ。顔をチラリと見ましたが、
「ええ~。そんなに隠密がうじゃうじゃいるのかよ……」
義苗さまが
「そうだな。現場にいた民たちがケガをしていないかも心配だし、行ってみよう!」
義苗さまと
「みんな! 誰もケガはしていないか⁉」
義苗さまたちが庄部神社に
「ああ! 若殿さまじゃ!」
「
「義苗さま、バンザーイ! 信長公の生まれ変わり、バンザーイ!」
と、
この数日、馬公子さまが領地の見回りに出かけるたびについていった義苗さまは、すっかり菰野の民たちに顔を知られ、人気者になっていました。
有名な戦国武将の生まれ変わりという
「い、今は信長公のことはいいから、ケガをした者がいたら手をあげるんだ」
「誰もケガはしとらんけど、大工たちが『せっかくがんばって建てた屋根の柱がちょっと
「神さまに
どうやら、菰野の民たちは、
この時代、お祭りの
だから、神さまのためにおこなう相撲の土俵を
「心配するな。土俵を汚そうとしたのは、菰野の人間ではない。だから、おまえたちには
馬公子さまがそう言ってなだめると、みんなはちょっとだけホッとした顔になりました。
「でも、楽しみにしとった大相撲の土俵を汚そうとしたヤツは許せやん。殿さま、何とかして
「え? おまえたち、大相撲が楽しみなのか? これ、ご隠居さまのわがままで始まったことだぞ?」
義苗さまは、目を丸めておどろきました。てっきり、ご隠居さまのわがままに
「ご隠居さまのわがままにはワシらも正直うんざりしとるけど、みんな相撲は大好きなんです」
「お祭りの日の相撲が、ワシらの数少ない
「江戸で大人気の力士たちに会える
(そっか。そうだよな。オレだって相撲は好きだもん。みんなだって、どうせやるのなら大相撲を思いきり楽しみたいよな。みんなが楽しみにしているのなら、殿さまのオレが大相撲を成功させなくちゃ)
いつも汗水たらして働いている菰野のみんなを笑顔にするためにも、大相撲を
「よし、わかった。みんなのためにも、土俵を汚そうとしたヤツをこてんぱんにやっつけてやる。
「罠作りなら、優秀で可愛いミヤちゃんにお
ミヤが両手をバンザイさせながら、名乗り出ました。
「いちおう言っとくが、ド
「そ、そそそんなこと、わかっていますです。いくら目立ちたがり屋の私でも、そんな恐ろしいことはしないです!
ミヤ、目が泳いでいます。めっちゃ怪しいですな……。
「罠作りはミヤどのに
いつだって冷静な南川先生が、義苗さまに言いました。
「それなら、
ある村人がそう言い、義苗さまは「嘘重? 変わった名前だな。誰だ?」と聞きました。
「嘘重は、うちの村に住んでいる子供のあだ名です。本当の名前は
「へぇ~、面白そうな子だな」
「今からひとっ走りして嘘重を連れて来るので、待っとってください」
村人は、しばらくして、10歳(今の8~9歳)ぐらいの男の子を連れて来ました。
嘘重くん、鼻水をたらしてニコニコ笑っています。何だかぼんやりとした顔をしていますが、こんなアホっぽ……げふん、げふん、おっとりとした感じの子供が嘘なんてつけるのでしょうか。
「おまえは嘘つきの名人だという話だが、本当か?」
「本当だよ、殿さま。おいら、嘘つき
「嘘つき天下一武闘会? そんな大会があるのか。知らなかったぞ」
「けっこう有名な大会やんか。大昔におこなわれた第一回の決勝戦では、
「
義苗さま、だまされてます! だまされてます!
う、う~む。見た目がおっとりとしている子供が可愛らしい
「この子の嘘はなかなか
ドラぽんも感心してそう言うと、義苗さまは「え? さっきの嘘だったの?」とようやく気づきました。
「じゃあ、早速、罠作りに取りかかりますです」
「ま、待ってくれ‼ オレにも何か手伝わせてくれ‼ 初登場からあまり活躍できていないから、そろそろ活躍したいんだ‼」
「ピョンピョン左衛門さん。手伝わせてあげるから、ツバをペッペッと飛ばしながら
「す、すまん‼」
「あなたは地元の人だから、マムシやヒルがたくさんいる場所を知っていますよね? 落とし穴の中に入れたいから、探して来てくださいです」
「お安いご用だ‼ マムシだったら、この間、陣屋の近くの森で見かけた‼ ヒルは、
ピョンピョン左衛門は
義苗さまは耳を両手でふさぎ、
(いちいち大声を出さないとしゃべれないのかなぁ、こいつ……)
と、あきれているのでした。
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