八の段 危機一髪!
その男とは、
義苗さまたちよりも2日遅れて出発したのに、もうここまで来ましたか。さすがは名前に「疾風」とつくせっかちさん!
「おい、川越し人足。オレを向こう岸までかついでいってくれ」
「悪いんだけど、ついさっき、お役人さまから川止めの命令が出たから無理っす」
「何だと⁉ いつ川止めの命令が出たんだ!」
「だから、ついさっきですよ。
「が、がびーん!」
ありゃりゃ、運が悪かったですな。川止めになったら、いつ
「そ、そんな……。オレは疾風のごとく走り、疾風のごとく仕事をこなして、ずっと体を動かしているのが生きがいなのに……。こんなところで足止めをくらって、数日間ボーっとしていたら死んでしまう……」
泳ぎ続けないと死んじゃうマグロじゃないんですから……。
何はともあれ、しばらくは疾風の一郎は
では、
義苗さまたちはその後もいくつかの川を川越えしましたが、それらの川では運よく
旅の7日目には、
そして、とうとう9日目。
「や、やった……。ついに伊勢の国に入ったぞ。あともう少しで菰野……おえっぷ」
義苗さまは
「こんなところでへばっていないで、歩きましょう。がんばったら今日中には菰野藩の
「お、おええ……」
「やれやれ、
義苗さまだけでなくミヤまでへたりこんでいるのを見て、
旅の間に一度も
「いえ……ちがいますです。
そういえば、ミヤは半日食事をぬいただけで死にそうになるという弱点がありましたね……。
実は、義苗さまたちは残りのお金が少なくなってきていたのです。
持っていた
すぐに腹ペコになってしまうミヤには
「お、お金の
南川先生、
「南川先生。ミヤをおんぶしてやってくれ。急いで菰野の城に入って、ご飯を食べさせてやろう」
「え? 菰野の『城』?」
「ん? どうかしたか?」
「いいえ、別に……。それより、彦吉さんは
「女の子が弱っているのに、オレをおんぶしろなんて言えるかよ。……おえっぷ」
「おお、彦吉さんが
「う、うっさいわ! さっさと
というわけで、義苗さまご一行は菰野めざして歩き始めました。
義苗さま、がんばってくだされ! 長かった旅もあとちょっとで終わりですぞ!
……な~んて言っている時にかぎって、思わぬピンチが待っているんですけどね。
「彦吉さん、南川先生。気をつけてくださいです。
菰野に一番近い
義苗さまは「え⁉」とおどろき、
「ククク。
うげげ⁉ こ、こいつは
しかも、めっちゃ
「あなた、さっきプーっておならをしましたよね?
「くっ……。し、しまった。なるべく音はおさえたつもりだったが、聞こえてしまったか」
強敵……なのかはわかりませんが、とにかく
「おまえは
「フフフ。なかなか
「な、何を言っている。オレは殿さまなんかじゃ……」
「しらを切ってもムダだ。オレさまの名は、
なぞの男・邪眼の二郎はそう言うと編み笠をぬぎすて、義苗さまたちにその
「邪眼とか闇の力とかよくわからないが、おまえの左目、
「オレさまは左目が見えないのではない。左目に
「ごめん。言っている意味がわからない」
こ……この男、まさか……
こんな時代にも、頭の中の
しかも、思春期の少年少女ならまだいいけど、こんなおっさんが……!
「う、うるさい!
あっ、はい。すみません……。拙者は
「オレさまは、主人の命令で、菰野でおこなわれる
オレさまは、主人が
「菰野藩を憎んでいるおまえの主人って、
「オレさまの主人が誰なのか知りたかったら、オレさまと
この邪眼の二郎も、どうやら江戸幕府の関係者のようですな……。
大変です、義苗さまが勝手に江戸をぬけだしたことが幕府の関係者にバレてしまいましたぞ!
「つ、連れ
義苗さまはそう
義苗さま、こういう
「殿さま。その勇気は花まるですが、ここは逃げましょう。私は
「私が戦えないばかりに、ごめんなさいです……。本当だったら、あんなお馬鹿な忍び、
「心配するな、二人とも! かまってくれる人間が
「お馬鹿さん、お馬鹿さん、うるさいぞ
「オレは強い! たぶん、きっと、おそらく! オレは負けない! たぶん、きっと、おそらく!」
義苗さまは、初めての
(ま、まずいですね。
菰野藩の殿さまは、戦国時代の
南川先生が心の中でブツブツとつぶやき、
実はそうなんですよ。菰野藩の
って、ああー! そんな
「くらえ! オレさまの
「うぎゃー⁉ め、目が見えない‼」
邪眼の二郎が、地面の
うっわ! こいつ、めちゃくちゃ
「菰野の若殿よ、これで終わりだぁ!」
終わっているのはおまえのほうでござる! そんなしょうもない
「待て‼ 待て待てまてーーーい‼」
「おいらたちの殿さまをいじめるな、でござる!」
義苗さま
「むむっ⁉ なにやつ!」
背後から聞こえてきた二人の男の怒鳴り声におどろき、邪眼の二郎は
「な、なぜだ⁉ なぜ何も見えない! ぐべぇ!」
「菰野藩士・
もう一人の助っ人――義苗さまより2、3歳年上に見える少年の
ようやく右目で敵の姿を
「
いやぁ~……。さっき目つぶしなんて反則技をしたあなたに言われてもねぇ……。
「何だ? いったい何が起きているんだ?」
まだ目が見えない義苗さまは、何が起きているのかさっぱりワケワカメなご
「くそっ! ここはいったん
あらら、意外と
「殿さま。もう安心してください、でござる。
「……その声は、もしかして萩右衛門か? どうしてここにいる?」
「
「馬公子……? 馬公子って、誰のことだ?」
馬公子さまとは、いったい何者なのか。
その答えは、次のエピソードで!
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