七の段 GO!GO!東海道
さて、江戸を脱出した
江戸から
現在なら電車でひとっ飛び、3時間前後で
しかし、この時代の移動はほぼ歩き。急いで歩いて8日、
「はぁはぁ……。も、もうダメだ。旅がこんなにもきついだなんて、知らなかった……」
江戸を出発してから2日目――ご
「
ミヤが心配してそう聞きましたが、義苗さまは「平気だ!」と強がる元気すらないご様子。
ちなみに、この旅の間は、ミヤと
「がんばってくださいです。
ミヤがはげましましたが、義苗さまは「もう一歩も動けない……」と完全にグロッキー。
「おやおや。この
「な……何だと⁉」
あっ、また南川先生がさわやかスマイルで義苗さまを
「屋敷で食っちゃ寝していたから、そのような
「ぐ……ぐぬぬぅ~! 江戸に帰ってたまるか! オレはまだ歩ける!」
怒りMAXの義苗さまは、がに
(ふっふっふっ~。計画どおりぃ~♪)
南川先生、
「はぁはぁ、ぜぇぜぇ……。よし、酒匂川に着いたぞ! 早く川を渡ろ……あれ? 橋がない⁉
大きな川を目の前にして、義苗さまは汗だくのひたいをふきながら、そう
この時代、大きな川にはほとんど橋がかかっていませんでした。
「知らない人間にかつがれて川を渡るなんて、何か
ずっとぼっちだったせいか、人見知りぎみな義苗さま。
しっかりしてくださいよぉ~。あなた、殿さまなんですからね?
「ようこそ、酒匂川へ! 川越えなら、
人足さんたちが、営業スマイルで歯をキラーンと輝かせ、
義苗さまが嫌そうな顔をしていたので、
いい人たちじゃありませんか、義苗さま。嫌がったりしたら、ダメですよ!
「すみません。川の向こう
「喜んで! では、肩車させていただきますぜ‼」
人足さんたちは
さすがは川越し人足、
「えっほ! えっほ!
「お、おお! 快適だ! 肩車してもらって川を渡るのって、意外と面白いんだな! あははは!」
義苗さまもまだまだ子供ですな。さっきまで嫌がっていたのに、すっかりご
(ふぅ~。あともうちょっとで
義苗さま、まだ日が暮れてもいないのに、もう寝ることを考えています。よほどお
しかーし! 世の中はそんなに甘くはなかったのでござる!
「旅籠に泊まるのはやめましょう。今日は宿場の近くの森で
「なんでやねーーーん‼」
小田原の宿場に着くと、南川先生がとんでもないことを言い出したため、義苗さまは思いきりツッコミを入れました。
「落ち着いてください、彦吉さん。どうやら、旅をする
実は4月は、江戸にいた大名が領地へ帰り、領地にいた大名が江戸へやって来る参勤交代の入れ
つまり、3月末~4月はまさに参勤交代のシーズン。どこの宿場も参勤交代中の大名ご一行でごったがえしていたのでござる。
「どこも宿泊客がいっぱいで泊まれないってことか? とほほ……」
「いえ、小田原は東海道で一番大きな宿場なので、まだ部屋に空きがある旅籠はあるみたいです。問題はそこではなくて、宿泊客の多くが
「津藩の藤堂家? 菰野藩と同じ伊勢の国の大名か」
「はい。菰野藩と津藩は領地が近いので、藩士たちの間で
万が一、知り合いの津藩士に話しかけられて、
『南川どのが連れている、やたらと
と聞かれたら、
あ~、たしかに。
義苗さまは幕府の許可もなく江戸をぬけ出てきたので、他の藩の家来たちに正体がばれたら大変なことになるかも知れません。
幕府に
「……それで、旅籠に泊まるのをさけて野宿というわけか。くそっ、なんて運が悪いんだ、オレは」
「彦吉さん、私にお任せくださいです! 野宿なら何度もしたことがある私が、彦吉さんに
ミヤがそう言ってはげましましたが、義苗さまは「野宿が快適なわけないだろ……」とげんなりとした顔をするのでした。
というわけで、義苗さま人生初の野宿でござる。
「お腹が
「こんな何もない真っ暗な森の中で、どうやって炊くんだ?」
「私にお任せあれ、にんにん」
ミヤはそう言うと、あらかじめ水に長時間
「これで、しばらくしたらお米が炊けますです」
「米ってこんな炊きかたもあるのか……。たき火って
義苗さまが感心していると、ミヤはドヤ顔で「私は優秀で可愛いくノ一ですから、これぐらい
「野宿ではたき火が欠かせませんです。森には
「お、狼だって⁉ めちゃくちゃ
そうです。現代では
「獣は火を恐がるので、たき火をしていたら大丈夫ですよ」
南川先生にそう言われても、旅に慣れていない義苗さまはそんな
(狼におそわれないか不安で、今夜は
あらら。義苗さま、疲れているのに
そして、次の日。旅の3日目でござる。
「ぐ……ぐえぇぇ……。な、なんて
義苗さまはふらふらになりながら、山道を歩いていました。息もたえだえで、今にも
ここは、東海道にふたつある大きな
「彦吉さん。お水を飲んで元気を出してくださいです」
義苗さまは、水が入った
ミヤは屋敷の
「ありがとう、ミヤ。少し気分が楽になったよ。……ところで、おまえ、いつのまに男のかっこうになったんだ? なんで
義苗さまは、ミヤに竹筒を返しながら、そうたずねました。
ミヤは、なぜか
「そろそろ箱根の
江戸幕府は、大名たちが反乱を起こさないように
鉄砲が江戸に持ちこまれて反乱が起きたら大変なので、これはもちろん取りしまらなければいけません。
そして、幕府は、大名たちの奥さんを人質として江戸の
「へぇ~。関所を通るのって、そんなに
「ええ。ミヤどのの言う通り、けっこう面倒くさいんですよ。
(ボロを出さないように、オレはなるべくしゃべらないようにしておこう……)
義苗さまは5歳の時からお殿さまなので、しゃべりかたが自然とえらそうになっちゃいますもんねぇ。
「殿さまみたいな話しかたをする怪しいヤツ!」と
「ここは箱根の関所である。そのほうたち、
関所に着くと、早速、しかめっ
(え? 通行手形? オレ、そんなの持っていないぞ⁉)
義苗さまはドキッとしました。
通行手形には、旅人の名前や住所、
「オレは菰野藩の殿さまだぜ!」と書かれた通行手形なんて義苗さまは持っていませんし、もしもそんな物を持っていても、役人に見せたら大変なことになります。
「私は医者で、この子たちは私の弟です。私たちの通行手形なら、ほら、これです」
南川先生はさわやかスマイルでそう言い、役人たちに通行手形を見せました。
実は、この通行手形、くノ一ミヤが作った
「ふむふむ。
「はい。そして、私の弟たちの名前は、尾張藩が渡してくれた通行手形に書いてある通り、
「名古屋初郎でーす!」
「な、名古屋岸麺だ……」
名古屋こーちん……名古屋ういろう……名古屋きしめん……。
何だかおいしそうな名前ばかりですなぁ~……。
「どうぞお通りください。道中お気をつけて」
おやおや? 関所の役人さんたち、意外とあっさり通してくれましたね。
まあ、たしかに、尾張徳川家の名前を出されたら、役人さんたちも
尾張徳川家といえば、
「もしも将軍家に何かあったら、尾張徳川家か紀州徳川家の出身者が将軍になる」
という取り決めまであったぐらいなのです。そんなえら~い尾張徳川家に仕えている人だったら信用できる、と関所の役人さんたちは思ったのでしょう。
(ふっふっふっ~。計画どおり~♪)
南川先生、またまた悪そうな笑顔になっていますぞ……。
無事に箱根峠を越えた義苗さまご一行は、
なかなか
「
ぜんぜん慣れていなかったでござる。吐いたら女の子の読者に嫌われちゃいますよ⁉
「南川先生。雨がすごい
「
「はぁ~⁉ この大雨の中を全力疾走しろだって⁉
ついにプッツン切れちゃった義苗さまが、南川先生に食ってかかりました。
ミヤが
「南川先生がそうおっしゃるのには、ちゃんとワケがあるのです!」
「なんだよ、そのワケっていうのは」
「遠江の国に入るためには、駿河と遠江の国境にある
そうなんですよねぇ~。大井川こそが、箱根峠とならんで「東海道最大の難所」とされる川なのです。
「
という
「むぅ~……。そういう理由があるのなら、早く言えよ」
「私が理由を言う
「む、むきぃーーーっ‼」
「二人ともケンカしている場合じゃないですぅー! 早く大井川を渡りましょう! 川止めになったら大変ですよ⁉」
やれやれ……。今のところ、義苗さまと南川先生の
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