四の段 決断の時
しかし、
「若殿さま、もうしわけありませぬ。ご
「今すぐご隠居さまにうかがいたい話があるんだ。そこをどけ!」
「お
「そーいう話じゃない! 菰野藩が
義苗さま、まだちょ~っと
「ええっ⁉ 若殿さま、なぜ借金のことをごぞんじなのですか⁉」
家来たちはおどろき、顔が真っ青。
おやおや? もしかして、家来たちもご隠居さまとグルになって、義苗さまに
家来や女中たちは、ご隠居さまの
「大変だ! 若殿さまが、菰野藩が
「ご隠居さまに『
「よくて
どうやら、ビンゴのようですな。みんな、義苗さまをだましていたのです。
義苗さまもそのことに気づいたご
「どいつもこいつも殿さまのオレをだましやがって! 早くそこをどけ! ご隠居さまを問いつめてやる!」
「わー! わー! おやめください! いくら若殿さまでも、ご隠居さまに
家来たちは、義苗さまを必死になって止めました。
「ご隠居さまは、オレの父上の兄――オレにとっては
「いいえ、それは甘い考えです。若殿さまは、
「え? 8代目
そして、雄貞さまには子供がいなかったので、他の家に養子に行っていたご隠居さまの弟・
「その話には、一部、
あのお方は、目的のためなら、家来どころかご自分の息子さえも
家来たちは、ブルブルと
そこまで言われると、義苗さまもだんだん不安になってきたようです。
「お、おどすなよ……。ご隠居さまの『ある目的』ってなんのことだ?」
「それは……養子の雄貞さまが
家来の一人がそこまで言いかけた時、
「かーかっかっかっかっ!」
という笑い声が廊下に
家来たちは「うげげ、ご隠居さまだ! 昼まで寝ていると思ったのに!」とおどろいています。
「おまえたち、こんなところで何を話しておるのだ?」
「い、いえ、何でもありません……」
何でもないと言いつつ、家来の声は震えていました。さっきの会話を聞かれたのでは、と心配しているのでしょう。
(今だ。今こそ、ご隠居さまを問いつめてやらなければ……)
義苗さまはそう思いましたが、家来たちの「ご隠居さまに逆らったら、どんな目にあうかわかりません!」という言葉が気にかかり、思うように声が出ません。
ちょっと、ちょっと、主人公! かんじんなところでビビらないでくださいよ!
……でも、まあ、仕方ないでござるな。
「ぐ、ぐぬぬ……」
義苗さまは自分の
「彦吉。元気がないみたいだが、どうした? 腹でも痛いのか?」
「い、いえ……。別にどこも悪くありません」
「そうか、それはよかった。……ところで、彦吉よ。おまえのために京都から
「えっ、オレの
つまり、
義苗さまが菰野藩の政治に口出しするのを
どれどれ、雄年さまの頭の中をのぞいてやりましょう。
(菰野藩の政治から遠ざけるために、お菓子を山ほどあたえて食っちゃ寝の生活をさせていたが、彦吉もそろそろ政治に口出ししたがる
だが、菰野藩はワシのものじゃ。彦吉には渡さん。彦吉を朝から晩まで勉強づけにして、「もう政治の勉強なんて嫌だぁ~! 毎日遊んでいたーい!」というヤル気のない若者にしてやるぞい! かーかっかっかっかっ!)
うわっ、
あ、あわわ……。どんなスパルタ教師がやって来るのやら……。
次の日、
「お初にお目にかかります。
目は切れ長で、鼻はほどよく高く、優しげな甘いマスク。
「南川はまだ20歳(今の18~19歳)じゃが、京都で
「はい、ご隠居さま」
義苗さまが
「南川よ、彦吉にみっちりと学問をたたきこんでやってくれ。ワシは少し甘やかしすぎたので、きびしーく
「はい、わかりました」
(ええー⁉ そんなに勉強させられるの⁉ 死んじゃうよ!)
義苗さまは心の中で
そりゃ、誰だって
(た、大変なことになっちゃった。ご隠居さまに菰野藩の借金のことをまだ聞けていないのに……)
義苗さま、ピーンチ!
……と思ったら。実を言うと、別にそんなことはなかったのでござる。
「では、殿さま。
義苗さまのお部屋で二人きりになると、南川先生はそんなことを言い、大の字に
「え? え? ええぇぇーーーっ⁉ 南川先生、勉強はしなくていいのか⁉」
「うるさいなぁ。そんな大声を出さないでくださいよ。耳が痛いじゃないですか」
ご隠居さまの前では
「朝から晩まで勉強づけだなんて、
「え? それはどういう意味だよ?」
「どうもこうも、あらしまへん」
南川先生はそう言いながら、むくりと体を起こしました。京都に長くいたせいが、
「菰野藩の殿さまとしてがんばろうという気持ちがない人に、勉強を教えるなんて時間のムダ、努力のムダ、筆や紙にかかるお金のムダ。
「な……な……何だと⁉ ぶ、
義苗さまは顔を真っ赤にして
お殿さまである義苗さまは、誰かに
それに対して、南川先生はめっちゃ煽りスキルが高い様子。ニヤリと
「おまえは儒学の先生なんだろ⁉ 儒学というのは、
「儒学の
「む、むきぃーーーっ‼」
煽る! 煽る! 南川先生、義苗さまをめっちゃ煽ってます!
「だ……だって、
義苗さまは、
すると、ずっと
「本当に、『何かしたい』と思っていたのですね? 『自分の領地が気になって』いたのですね? 殿さまとしての
義苗さまは涙をグッとこらえつつ、小さくうなずきました。
「……父上と『人を愛し、人に愛される、立派な殿さまになる』と約束したのに、ぜんぜんその約束を守れていないのが
「そうです、そこですよ、お殿さま。このままずる
「オレの足で、オレの人生を歩く……。で、でも、自分の息子すら
もー! まーたそんな弱気を言っちゃって! ちょっとはしっかりしなさい、主人公!
「気持ちはわかりますよ。あのじじい……げふん、げふん、ご隠居さまは本気で怒ったら何をするかわかりませんから。しかし、菰野藩の家来や農民たちが
「菰野のみんなは、そんなにひどい生活をしているのか?」
まあ、当然でしょうな。9千8百両の借金があるのに、雄年さまはぜいたく
「殿さま。私と
「オレだって見に行きたいが……。
「たしかに、大変なことになるかも知れませんね。
「げーっ⁉ そ、そんなに
「しかし、一日も早く殿さまが菰野藩の
「え、ええーっ⁉ もう破産
どうあがいても
「け、けど、幕府に見つかったらダメだし、ご隠居さまに見つかっても止められちゃうし、どうやったら江戸から出られるんだ?」
義苗さまがそう言いながら頭を
「うわっ、ビックリした! くノ一のミヤじゃないか。今までどこに行っていたんだ?」
「女中のふりをして、ずっとここの屋敷にいましたよ?
おお!
「本当に手伝ってくれるのか?」
「はい! くノ一ミヤにお任せあれ!」
「ありがとう、ミヤ。オレにはちゃんと味方がいてくれたんだな。もう一人じゃないんだ」
義苗さまは
南川先生は、そんな二人を見つめながら、
(ふっふっふっ~。計画どおり! 「殿さまをわざと怒らせてヤル気を出させる作戦」は成功ですね。殿さまが
……ぜんぜんそんなことはなかったでござる。
これはなかなか
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