二の段 くノ一です、にんにん
その日の夜。
一人で部屋にいた
またお
「オレは、いくら食べても太らない
きぃー! うらやましい!
……いやいや、だから
「あーあ。見たかったなぁ、
義苗さまは、両親と別れて菰野藩の殿さまになった5歳の時のことをあまり
そして、父上の
「彦吉、そばにいてやれなくてすまない。許してくれ。他家の
そう言い、
その当時のことはほとんど忘れてしまっているのに、このふたつの記憶だけは今でも義苗さまの頭から
「父上、ごめんなさい。オレ、父上に言われたことをぜんぜん守れていないです。……だって、一人ぼっちのオレに『人を愛し、人に愛される』ことなんてできっこないよ。味方が一人もいないんだもん。立派な殿さまになんか、なれっこない」
ご
義苗さまは、毎日何もせずボーっとしているしかありません。
うーむ、そりゃ
「せめて、一人でもいいから、オレの話を聞いてくれる味方がいてくれたらいいのに……」
義苗さま、さっきから
ぎゅるるるるぅ~!
おや? この音はなんでしょう? あっ、拙者のおならではありませんぞ⁉ 本当でござる!
「さっきの音は、
ぎゅるるるるぅ~! ぎゅるるる~! お腹
「お腹減った⁉ 幽霊がお腹空くか⁉」
たぶん幽霊はお腹空かないと思いますぞ、義苗さま。
「く、
義苗さまは勇気を出すと、
「床下は真っ暗だ。ロウソクで
義苗さまは、
「ふ、ふえぇぇ……。お腹が減って、もう一歩も動けないですぅ……。
なんと、
「おい、しっかりしろ。お菓子を食わせてやるから、そこから出て来い」
なぜ床下に女の子がいるのかわかりませんが、自分の部屋の真下で野たれ死にされてもらっても
「か、
「なんでって、めっちゃ鳴いてたじゃん。腹の虫」
「くっ……。
「おまえ、優秀な忍者がたくさんいることで有名な伊賀の国のくノ一なのか」
「うげげ⁉ ふ、
「いや、さっきから自分でペラペラしゃべっているじゃないか。そもそも、普通の町娘が
「おまえ、忍者ならもっと
「お腹が死ぬほど
くノ一が泣きべそをかきながら義苗さまを見上げると、義苗さまは「あ、ああ……」と言いながら顔をプイとそらしました。
どうやら、月明かりに
それから、
「ばくばくばく! おいひぃ~! ばくばくばく! おいひぃ~!」
「よく食うなぁ~……」
義苗さまは、くノ一の
くノ一は、両手にカステラを持ち、次から次へと口にほうりこんでいきました。
30個ぐらいあったカステラを食べつくすと、
「げぷぅ~。まだ
「……いや、もうお菓子ないからな? ぜんぶ食べちゃったからな?」
「助けていただき、ありがとうございました! このご
「まあ、オレ一人じゃ食べきれなかったから、オレも助かったよ。
義苗さまがそうたずねると、くノ一はぶわっと泣き出し、「聞いてくださいよ、若殿さま!」と
義苗さまは、急に女の子の顔が
「私の名前はミヤ! 14歳(今の12~13歳)! とーっても優秀で可愛い伊賀のくノ一なんですぅ!」
「み、みゃー?
「忍者としての実力はピカイチなはずなのに、どーいうわけかどこの大名家も私を
「半日でたえられなくなったのか。殿さまのオレでも、もうちょっと
「仕方ないからどこかの大名のお屋敷の台所からおにぎりでも
『忍術はお仕えする
というお
「なるほどな。忍者にも守るべき
義苗さまは、やはり男の子なので、忍者の世界に
(屋敷でボーっとしている殿さまよりも、忍者になったほうが、
なーんてことを考えていると、ミヤはおどろくべき
「いやぁ~、それにしても、くっそ
「別にそこまで感謝しなくても……うん? 今、なんて言った?」
「感謝感激ですぅ、と言いましたです」
「ちがう、ちがう。もっと前」
「くっそ貧乏で有名な菰野藩……」
「はぁぁぁ~⁉ うちの菰野藩がくっそ貧乏だって⁉ そんなわけないだろう‼」
義苗さまは
「あ、あわわ……。ごめんなさい、ごめんなさい! いくら本当のことでも、助けていただいたのにくっそ貧乏なんて言ったらダメですよね! くっそ貧乏だなんて!」
ミヤは慌てて
「うちの藩が貧乏なはずがないだろう! 菰野藩は百万石だぞ⁉」
「ほえ? そんなわけありません! 殿さまはご自分の
(そ……そんな、まさか、百万石じゃない? ご隠居さまが「菰野藩百万石」と書いた黄金の
よくよく考えてみたら、雄年さまは
(もしかして、あれってただのハッタリ? 本当はもっと低い? 五十万石? それとも三十万石? いやいや、ひょっとすると、十万石ぐらいなんじゃ……)
だんだん不安になってきた義苗さまは、「な……何万石なんだ、菰野藩は?」と聞きました。ミヤは、あっけらかんとこう答えたのでござる。
「一万一千石ですぅ。一万石
「い……一万一千石……。オレは、ぎりぎり、かろうじて、大名……」
義苗さまは頭がくらくらして、
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