オレは殿さま!
青星明良
一の段 若殿さまは一人ぼっち
みなさん、チョンマゲは好きですかな?
チョンマゲといったら、こんな笑い話があります。
江戸時代の終わり
「ぎょぎょぎょ⁉ 頭にピストルつけとる‼ ジャパニーズ・サムライ、やばい‼」
チョンマゲがピストルに見えたのでしょうなぁ。まあ、頭からバキュンバキューン☆と
この物語は、そんなピストルみたいな
主役は、
ほえ? いくらイケメンでも頭がピストルだったら
ああー、本を閉じないで! 可愛いくノ一(女忍者)も登場するから! ちゃんと最後まで読んでぇーーーっ‼
……えー、こほん。取り乱してアイムソーリー、ヒゲソーリー。そろそろ物語を始めましょう。
今からざっと150年前まで、日本は
トップはもちろん
この物語の主人公である少年も、そんなお殿さまたちの一人でした。ただ、ちょーっと
「ふわぁ~。ヒマだなぁ。
江戸(今の
男の子はド派手で高級そうな
ふぅ~む。物語の語り手である拙者がせっかくかっこよく紹介してあげようと思ったのに、のっけからやる気がなさそうですぞ、この主人公。そんなに
「誰か遊び相手は……あっ、
「もうしわけありません、若さま。それがし、大事な用がありまして……」
「そうか、だったら
「え? す、相撲でござるか? もうしわけありません。朝から右ひざが痛くて相撲はできそうにありませぬ……」
「……などと言いつつ、左ひざをおさえながら逃げていったぞ、あいつ。ちぇっ、どいつもこいつも殿さまのオレを
家来たちに遊びの
おやおや。どうやらこの若さま、家来たちにさけられているみたいですなぁ。殿さまなのにぼっち
「オレをさけているのは家来だけじゃない。身の回りの世話をしてくれる
ぼっちで
まだブツブツと独り言を言っているみたいなので、その間にこの若殿さまが
この若殿さまは、
中学生で殿さまなんてすごい!
……なーんて感心したそこのあなた、ちょっとちがいますぞ?
この時代の年齢は数え年といって、おぎゃあと生まれた時点で1歳とカウントするのが決まりなのです。そして、新しい年を
だから、義苗さまは、今で言うところの11~12歳。つまり、まだ小学生なのでござる。小学生で殿さま
「ぜんぜんすごくないし。毎日、部屋にこもってボーっとお菓子を食べているだけだし。そもそも、
義苗さま、物語の語り手の言うことにツッコミを入れないでくだされ……。
ただ、義苗さまはまだ子供なので、
「あの……若さま。ご
義苗さまがほっぺたについたあんこを指ですくってペロペロなめていると、女中さんがやって来てそう
「ご隠居さまが? またお菓子かオモチャをくれるのかな? もう部屋にいっぱいあるし、別にいらないんだけどなぁ~」
「いえ、
「え⁉ 萩右衛門が⁉ やったー! 会う、会う!」
義苗さまは目を
「お~い、萩右衛門! 相撲やろう、相撲! ……あれ? 誰もいない?」
「ひ……
広間に誰もいなくて義苗さまが首をかしげていると、
義苗さまが
ご隠居さまと萩右衛門は
押し
「あいたたたぁ~。負けましたぁ~でござる」
「うわっはっはっ! どうじゃ、ワシの
「やっぱり、ご隠居さまはお強いですぅ~でござる」
「そうじゃろう、そうじゃろう! かーかっかっかっかっ!」
菰野藩の前の前の
(萩右衛門はご隠居さまに気を
義苗さまはジト目で雄年さまをにらみました。雄年さまは、13歳の義苗さまから見ても子供っぽいお方なのです。
「お殿さま。ご
萩右衛門は、縁側に立っている義苗さまにへへぇ~と
裸と裸で
「おいらをお侍にとりたててくださったこと、いつもいつも
「いやー、それはご隠居さまのやったことだから。オレ、なーんもやってないから。というか、
義苗さまはちょっと
萩右衛門は菰野藩の領地で育ち、お相撲さんになった若者。菰野藩の先々代藩主・雄年さまに気に入られ、菰野藩のお
ほえ? お抱え力士とは何かって?
よろしい、説明しましょう。
この時代、お殿さまが力士を自分の家来にして、武士の身分にひきあげてあげることがありました。強い力士を家来として
というわけで、この萩右衛門という力士も、
……ただ、まあ。武士の生まれではないお相撲さんを家来にするのは、あくまでもお殿さまの
「お殿さま。今日は、しばらく江戸を
萩右衛門は、義苗さまにそう言いました。武士らしい言葉づかいをしようと思っているのか、いちいち
「えっ? どこか旅行にでも行くのか? オレと相撲をとってくれるのはおまえだけだから、
「いえ、旅行ではありません、でござる。今度、菰野で
「ええ⁉ 菰野藩が大相撲を開くのか⁉ すごーいっ‼」
そんな大相撲が、自分の領地でおこなわれると聞き、無気力でちょっと冷めた性格の義苗さまもおどろいたご様子。
「菰野藩って、そんなにもお金持ちだったんだ!
義苗さまが目を輝かせながらそう言うと、雄年さまは、
「かーかっかっかっかっ! そうじゃろう、そうじゃろう!」
と笑いながら、黄金の
さっきまで裸だったのに、いつのまに服を着たのでしょう。雄年さまは、ものすごく高価そうな金ピカの羽織を着て、美人の女中たちに肩や腰をもませています。昼間からキラキラと輝く
ちなみに、雄年さまの扇子に書いてある「百万石」とは、
「うちの領地では100万人を
ということです。
米1石は1000合(150キログラム)にあたり、これは昔の人が1年間に食べた米の量だと言われているのでござる。つまり、100万石の米がとれるだけの領地を持っている殿さまは、100万人の人間を食わせていけるだけの
「ご隠居さま。その扇子の百万石ってなんですか、でござる。菰野藩はたしかいちま……」
「しーっ! しーっ! 義苗の前で
萩右衛門が何か言いかけたのを雄年さまは
「ご隠居さま! オレ、菰野でおこなわれる大相撲を見たいです! 菰野に行ってもいいですか?」
義苗さまがはしゃぎながらお願いすると、雄年さまはニッコリと
「ダーメ♡」
「ええ~……。自分の領地で大相撲があるのに、殿さまが見に行ったらダメなんですか?」
「彦吉よ。そなたはまだ
「そんなに怒られるのですか?」
「うむ。
「でも、オレももう13歳ですよ? 自分の領地がどんなところか、そろそろ知りたいし……」
「そ、そなたはまだまだ子供じゃ! わずらわしい政治なんて、大人になってからすればよい! 今は、大名としての役目はワシがかわりにやってやるから、そなたは子供らしく屋敷で遊んだり、勉強したりしていなさい!」
「ちぇ~……」
義苗さまは
(家来たちは遊んでくれない。外は危険だから屋敷から外に出たらいけない。殿さまなのに自分の領地に遊びに行ったらいけない。ない、ない、ないばかりで、つまんないよ。ご隠居さまが何でも一人で決めちゃうから、殿さまらしいことをなーんにもできていないし。オレ、何のために父上や母上とさよならしてこの屋敷にやって来たんだろう?)
義苗さまは、今ごろ父上と母上はお元気だろうか、と思いました。悲しいことに、もう何年も会っていないので、二人の顔はおぼろげにしか
雄年さまは弟の子である義苗さまにオモチャやお菓子は買いあたえてくれるけれど、義苗さまが菰野藩について知ろうとすると、すごく
「菰野藩に行ったらダメ!」と言っているのも、将軍さまに怒られるのが恐いのではなく、義苗さまが菰野の地に足を
菰野藩は、いまだにご隠居である雄年さまのもの。
「オレなんてただのお
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