エピローグ
―――何がどうなっているのだろう。オレは夢でも見ているのだろうか? いくら頬をつねっても、皮膚は悲鳴を上げるだけだった。仕方なく頬から手を離し、辺りを見回す。
騒がしい室内には、たくさんの人がいた。同じような年頃と服装で、たまに目が合っては逸らし、仲間との会話を楽しんでいる。オレに近づこうとする奴もいるが、結局そこまでに至った者はまだいない。
生徒達は犬のような耳を生やしたり、烏のような黒い翼を背中から生やしたりと、まるで人間とは思えないような姿見だった。何度も瞬きをし、状況を確認する。しかし、その光景が変化することはなかった。
何故、自分はここにいるのか。さっきまで、モニターのある館にいなかったか―――状況を分析し、出した答えは簡潔なものだった。
ここが、『キシリア学園』だからだ。
「ねえねえ! 君ってどこから来たの?」
「お前人間なんだよな? 人間って本当に回復能力高いのか?」
突然、クラスメイト達がわらわらと周囲に集まった。もう見物はやめたのだろうか、間髪入れずに質問が投げつけられる。質問者の中には、「背中から青い羽を生やした少女」や、「かたつむりの殻のような巻き貝を背負った少年」がいるなど、容姿は様々だった。
「おい、聞いてるのかよ」
まじまじとクラスメイトを凝視していると、その内一人の男子が、不満げな声を出す。口調に似合わず、その頭からはうさぎの耳が生えていた。
「え? あー、悪い。動揺しちゃってな……」
「動揺? 何に動揺するんだよ」
「え? いや、だって……」
「まあまあニサルくん。みんなで寄ってたかって質問責めをしていたら、聞いていない話だってあるはずだよ」
澄んだ声に視線が移った。クラスメイト達の視線も、エメラルド色のショートヘアをした少女に向けられていた。髪と同じ色の目を細め、にこりと笑みを浮かべる女子生徒に注目する。
「はじめまして。ボク、ファイリアっていうの。よろしくね」
ファイリアという少女は手を差し伸べてきた。その手を握り、ファイリアを見上げる。
彼女の後ろには、むすっとした茶髪の男子生徒が立っていた。橙色の目を細めてこちらを睨んでいるような、敵意のようなものを感じる。ファイリアも気付いたのか、背後の男子生徒に振り向いた。
「あ、なんだ。いたんだね」
「まあ……気になったから」
「へー、珍しいねえ。あ、紹介するよ」
男子生徒がファイリアの隣に立つ。相変わらずこちらを鋭く見下ろしていた。睨まれているままは嫌なので、負けじと鋭く睨み返す。そんな殺伐とした雰囲気になど気付きもせず、ファイリアはあっけらかんと言った。
「彼は隣のクラスのナギサくん。キミと同じ人間なんだ。ちなみに……」
ファイリアは満面の笑みを浮かべた。
「彼は『次代勇者』で、ボクの彼氏なんだ」
「―――よろしく」
次代勇者のナギサは、微笑を浮かべて手を差し出した。
死にたがりの勇者と守り人 完
死にたがりの勇者と守り人 かいり @kairi5
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