第一章 初めての外国――マウィンガル連邦王国

それから三日間、僕はノブコムに案内された宿泊施設で過ごした。とてつもなく退屈で、することと言ったら窓から外を眺めることだけだった。

あの後も、応接室でノブコムから少しだけこの世界のことについて教わった。

まず、この国では人間と『獣人』がともに生活を営んでいるとのこと。僕は彼らを見て、どちらかというと『亜人』とか『異人』といった言葉が浮かんだのだけれど、これは差別的に捉えられかねないので使わない方がいいと教えてくれた。

そしてこの世界は非常に地球に似ていること。僕以外にもこの世界に迷い込んだが数人いて、中にはそのまま暮らしてここで残りの人生を過ごした人もいたそうだ。環境が合わずに病気になった人はいなかったので安心してくれと伝えられた。

僕に用意された部屋は非常に殺風景なものだった。硬いベッドに硬い椅子。観葉植物さえ置いていない。風呂は浴槽があったものの、シャワーは存在しなかった。仕方なく体は浴槽内で洗ったが、二日目に入ったときになぜか熊のように毛深い軍人に怒られた。どうやらこの国では水は節約するのが常識らしい。風呂は三日に一回にしろとまで言われてしまった。

ようやくこの部屋から解放されたのは四日目の朝だった。

朝食が支給されたのち、同じ軍人が僕の部屋へとやってきた。

「メム、案内人が用意できた。すぐに支度をしなさい」

いまだに僕の部屋に来る人は僕を『メム』と呼ぶ。差別的な意味なのかは分からないが、あまりいい気はしない。

僕はすぐに支給された服に着替えた。どうも僕の着ていた服はこの世界の服とは相性が悪いようで、稀有の目で見られているみたいだ。

軍人の後を追い、宿を出ると、探険服のような格好で、胸にワッペンを付けた茶髪の男が入り口前に立っていた。

「やあ、クルーペン准尉。お疲れ様です」

彼は胸に手を当てて軍人に挨拶した。

「久方ぶりだな、エンリー」

「ヘンリーだって。フランス人みたいに呼ぶなよ」

フランス人という言葉に唖然とした。まさかこの人は……。

「君がミノル=オキクルだね。ルヴィックから話は聞いているよ。見たところアジア系だね」

「あの……、あなたは?」

「おっと失礼。俺はヘンリー=パトリック=ノーリンバラ。カンタベリー出身のイギリス人だ。ヘンリーと呼んで構わないよ」

イギリス人と聞いてさらに驚愕した。

「あの! あなたは一体――」

「込み入った話はあとでしよう。それより、宿の人たちにお礼は言ったかい? 世話になったんだろ?」

世話になったというほどこの宿に満足はしていないが、礼儀として、僕は宿の人とクルーペンに礼を言った。

ノーリンバラさんはクルーペンに何かの書類を渡すと、僕を誘導して歩き始めた。

「あの、イギリス人といいましたが、ミスター・ノーリンバラは――」

「ヘンリーでいいってば」

「じゃ、じゃあ、ヘンリーさんは地球の人なんですか?」

「そうだよ。君もよく知っている連合王国の出身さ」

「ならどうしてここに?」

「俺はこの世界で商人として生活しているのさ。だから申し訳ないけど、戻りの泉に直行するってわけにはいかないんだ」

「そ、そんな……。どれくらいかかるんですか?」

「そうさなあ……。一ヵ月は見てほしいかな。でも我慢してくれよ。この国にはメムの案内人に登録されているのは俺だけだからな」

一ヵ月……。どうも絶望感しか漂ってこない言葉だ。

やがて僕たちはとある石造の建築物へと到着した。看板があるものの、もちろん文字は読めない。

「この建物は何ですか?」

「ビザの発行所さ。メムは世界連盟の認可を受けた発行所でビザを受け取らないと、国境を超えることができないのさ。それに、身分証の代わりにもなる」

中に入ると、ほとんどの手続きはヘンリーさんが済ませてくれた。僕は名前を聞かれただけ。やたら煌々としたフラッシュを焚かれ、三十分くらいでビザが発行された。

「こんなに早いんですね」

「メムは特別さ。世界中の国が、メムはすぐに元の世界に帰してあげようと思っているからね」

そういわれると、厄介だからすぐに帰れと言われている気分になる。だが実際その通りなのかもしれない。

「ヘンリーさんの分はどうするんですか? あなたもメムに含まれているんじゃないですか?」

「俺は連邦王国の市民権を持ってるから、もうこの世界の住人なのさ。それに、商人のビザは簡単に下りるしね」

得意げに話すヘンリーさん。この世界で生き生きとした暮らしができているみたいだ。

「さあ、駅に行こう。国際列車があと一時間で出るぞ」



僕たちは石の敷き詰められた大通りを通って駅へと足を向けた。

こうしてみてみると、歴史の教科書に載っている昔のヨーロッパの街並みのようだ。しかし、やはり獣人の姿が気になる。

「ヘンリーさん、この国には獣人がたくさんいるみたいですね」

「この国だけじゃないさ。世界中にいるさ。どうもこの世界には、地球とは違う進化系統の生物が繁栄しているらしい。例えばあの馬みたいな生物は、獣人にはいない。動物としてだけ存在している。だけど、愛玩動物の犬や猫、兎に近い種は獣人としてだけ存在している。俺は生物学者じゃないからよくはわからないが、彼らは独自の生活を経てこうなったんだろうな」

僕の見る限り、獣人にも個性があるみたいだ。犬や猫みたいな尻尾が生えている者や、耳が生えている者。ひげは生えていない人もいた。そして、なんといっても顔つきが十人十色なのだ。幼児向け番組のキャラクターみたいに、動物がそのまま人のような顔つきになっている人もいれば、顔つきは人間で耳やひげが生えている人もいる。なんとも恐ろしい世界だ。

「そういえば、ヘンリーさん、日本語お上手ですね。もしかしたら――」

「残念ながら」と彼が口を挟んだ。

「俺が日本語を話しているわけじゃないんだ。この世界では言語が統一されているみたいなんだ。しかも、何らかの不思議な力によってね」

「不思議な力……」

その言葉には何か大きな意味がある気がした。完全な勘であるが。

「そう、この世界の人は、『神』の力として認識している。イングランド国教会の信者としては、他の『神』の力を信じるというわけにはいかないが、こればっかりは信じたくもなる」

僕は典型的な日本人だから、特にどこの『神』を信じてもいないが、そういわれると確かに存在を信じたくもなる。

「だから、俺としては君やこの世界の住民たちが英語を話しているようにしか聞こえないのさ。イギリス訛りのね」

突如、僕らの周りを黒い影が覆った。空を見上げると、巨大な飛行船が悠々と空を泳いでいる。

「この世界にも、飛行船があるんですね」

「ああ。だがあれには民間人は乗れない。あれは王立陸軍の爆撃用飛行船さ」

「軍事用の飛行船ですか」

「そう。あんな穏やかに見えるノブコム王でも、隣国は怖いみたいだ。最近隣国は軍事力の強化を推し進めているらしいからな。そんなもんだから連邦各地の飛行場はすべて国家が掌握している。軍人たちしか使えないのさ」

「だから鉄道で移動するんですか」

「その通りさ。どうもこの世界の科学技術は、地球でいうブロック経済の時代あたりで進歩が止まっているみたいなんだ。飛行機は開発されたが、どれも映画で見るような古臭いものばかり。大型機は飛行艇か飛行船だけ。そうも何かありそうなんだが……」

会話をしている間に、僕らは駅に着いた。ヨーロッパの壮大な駅を思わせる立派な駅舎が構えられている。

「俺は今から切符を買ってくる。その間、ここで大人しくしているんだぞ」

僕は首肯し、ヘンリーさんは窓口へと歩いて行った。

僕は周りを見渡した。獣人や人間が行きかっている。誰もどちらかを差別の目で見たりはしていない。この世界は、もしかしたら理想郷と呼べるのかもしれない。

「おい!」

急に高い声が僕にかけられた。後ろを振り向くと、僕と同じくらいの背丈の人物が立っていた。少し汚い布を服の上に覆わせ、フードで顔を隠した非常にみすぼらしい格好だ。

「お前、メムだな。国際列車に乗るのか?」

「は、はい、そうですが……」

「あたしも連れて行け!」

「こ、困ります。僕に決定権はないですし。それにあなた誰ですか?」

「うるさい! いいから連れて行け!」

どうやらこの人は獣人の女性らしい。言葉を発するたびに鋭い犬歯が見え隠れする。尻尾もあった。

「おいおい、騒がれちゃ困るよ」

ヘンリーさんが戻ってきた。周りの人たちも僕たちのことを迷惑そうに見ている。

「君は誰だい? 見たところ獣人のようだけど」

「あんた、メムの案内人だな? あたしも連れて行ってくれ!」

「おいおい。そんなこと言われたって困るよ。まず第一に、君の分の旅費は誰が払うんだい? まさか俺が――」

「自分の分くらい払えるよ!」

そういうと、彼女はポケットから金属音を放つ袋を取り出した。ヘンリーさんは受け取って中身を凝視し、表情を一変させた。

「一等貨幣じゃないか! しかもこんなに……」

「旅費と案内料だ。渡航用のビザもある。だから連れてってくれ!」

ヘンリーさんは少し考えこんでいたが、

「まあ、ついでだしいいか」

と呟き、再び窓口へと戻っていった。

「というわけで、よろしくな、メム」

「あの、君の名前は?」

「あたしに名前はない。あんたがつけてくれてもいいよ」

名前がないというのはすごく嘘くさい。それに急に名付け親になってくれと言われても困るなあ。

その時、一陣の突風が吹き、彼女のフードがふわりと捲れた。中からは人の顔、血統書付きの犬のように美しい赤毛と、かわいらしい犬のような耳を生やした女の子の顔が姿を現した。そして風に棚引くその髪に、僕は少し見とれてしまっていた。

「さあ、何でもいいぜ」

「じゃ、じゃあ……。ティティーナ……、なんてどうかな?」

「ティティーナか。悪くないね」

それは昔父さんと見た映画に出てきた名前だ。直感的につけてしまったけど、悪くない。

「あんたの名前は?」

「ぼ、僕は沖久留稔。その、メ、メムです。あなたはどこまで一緒に行く気なんですか?」

「あんたは戻りの泉まで行くんだろ? その途中にいいところがあったらそこで別れるよ」

イマイチ彼女の考えていることが分からない。僕たちの行き先に何かあるのだろうか。

「さあ、切符も揃ったし、先にホームへ行っていてくれ。彼女に案内してもらうといい」

ヘンリーさんが新しい切符とともに戻ってきた。

「えっと、名前は?」

「ティティーナだ。こいつにつけてもらった」

「ティティーナか。ではティティー。彼を国際列車のホームまで連れて行ってくれ。彼はこの世界の文字は読めないからね」

「ヘンリーさんはどこに行くんですか?」

「貨物列車の駅に行ってくる。用が終わったら客車に行くよ」

彼は切符を僕たちに渡し、大まかな場所の位置を言うと、駅を跨ぐ橋へと向かっていった。

駅は日本のものとはだいぶ違った。線路は踏切を渡るし、駅員も多く、列車も蒸気機関車だ。

僕たちはヘンリーさんに言われたホームへとたどり着いた。大勢の獣人と人間が、列車を待っている。

「僕らは何号車にいればいいんだ?」

「切符には八号車って書いてあるな。一番後ろだな」

ティティーナに続き、僕らはホームの端へと歩く。

やがて轟音とともに、ゆっくりと巨大な蒸気機関車が煙を吐きながらホームにやってきた。大きな車輪にピストンを動かし、八両の客車と、五両の貨車を連れてきた。

「よう。お待たせ」

列車が止まると、貨車からヘンリーさんが降りてきた。

「貨物列車も一緒に運ぶんですね」

「そうだ。これが俺の仕事さ。都市から都市へ、国から国へ様々な物資を運び、売るのが俺の役目」

「ほう、利ザヤでずいぶん儲かってんだろうな」

ティティーナが少し嫌味に言った。

「まあそんなとこかな。商人ってのは嫌われ者だからね。さあ、乗ろう」

他の客と同じように、僕たちは列車に乗り込んだ。

 席に着くと、すぐに大きな汽笛が聞こえた。発車の合図のようだ。ガチャンという鉄の音ともにゆっくりと客車が振れて、動き始めた。

列車は徐々に速度を上げるものの、ある程度になると一定の速度で走り続けた。

「遅いですね、この列車。もっと早く走らないんですか?」

「貨物用の機関車だから仕方ないさ。次の駅に着いたら、遅い理由もわかるよ」

最初の駅を離れてから十分くらい経つと、列車が大きく揺れ、分岐点を通って駅に入っていった。

列車が止まると、数名の客が入れ替わった。だが乗降が済んでも、列車は発車しない。

「どれくらい止まってるんですか?」

僕がそう訊いた途端、列車の横を豪速で土色の列車が通過していった。僕たちの乗る列車とは比べ物にならない速さだ。列車の姿が消えると、

「これが通過するまでさ」

とヘンリーさんが答えた。

「今のは何ですか?」

「軍用列車も知らないのか?」

今まで黙っていたティティーナが口を開いた。

「ご立派な王様たちは、隣国の軍備増強に対抗して、軍人を増やして装備を増やしておられるのさ。だから最新技術はすべて軍に優先されてるんだよ」

皮肉を込め、ティティーナは頬杖をつきながら答えた。

やがて列車は再びゆっくりと動き出した。

「あの、聞きたいことがあるんだけど」

「なんだ?」

「君は獣人なんだよね?」

「そうだけど?」

「獣人って、どうして存在してるの?」

その言葉に彼女の表情が変わった。眉間にしわが寄った。

「もしかして、お前、獣人だからってあたしを動物だとでも思ってるのか?」

「いや、違うんだ! そういう意味じゃ」

「まあ、落ち着いてくれティティー」

ヘンリーさんが介入した。

「彼はメムなんだ。不思議に思うのも無理はないさ。彼は君が動物だって言ってるんじゃないよ」

彼女はそっぽを向くように、窓に視線を向けた。

「確かに、俺も最初見たときは変な感じだった。だけど、この世界は地球と違う進化を遂げた生き物が多く存在しているんだ。そこは受け入れてくれよな」

僕は首を縦に振った。

「それで、あとどれくらい乗るんですか?」

「あと二時間したらシーブルガ王国の首都に着く。そこで一旦降りるよ」



国際列車とは名ばかりだった。連邦ではあるものの、一つの国も越えることがないなんて。ヘンリーさんに言われるがまま列車を降りることとなった。

「ヘンリーさん。ここで降りてどうするんですか?」

「食品製造の会社に穀物を卸すのさ。そしたらその足でドッジィホーンの要塞に行って食料を届けるのさ」

商人とは随分といろいろな仕事をするんだなと感心した。もしかしたら、配達業が発達していないのか?

僕らはヘンリーさんについて行き、まず食品を作っている工場へと向かった。そこでは見たことのない食べ物を機械で生成していて、たくさんの人が働いていた。歴史の教科書に書いてあった、産業革命の絵と同じような感じだった。

工場の一室で僕とティティーナは待たされた。部屋は木製で、ちょっと臭い。

「ねえ、ティティーナはどうして僕たちについてきたんだい?」

そう彼女に問うと、

「今は話したくない」

と言われ、そのまま会話は終わってしまった。

数分後にヘンリーさんが戻り、僕たちは工場を去った。近くで馬車(馬車以外の表現が見つからないので、馬車と表記する)を拾い、海岸沿いの大きなレンガ造りの軍事要塞へと向かった。

そこには巨大な砲台と塔、さらに多くの武器が散乱する典型的な要塞だった。

ヘンリーさんはまたもや僕らを置き去りにして軍人とどこかへと消え、僕らは応接室で待たされることとなった。

ここでは三十分くらい待たされた。できることと言ったら、周りをキョロキョロしながら部屋を観察すること以外することがなかった。

ティティーナはずっと黙った下を向いている。彼女の目的がいまいちわからない。もしかしたら駅で別れるかもと思っていたが、ここだと出会った場所から遠くないからか、僕らからは離れることはなかった。

突然、ドアが開く。すると、見覚えのある顔が姿を現した。

「やあ、ミノル。久しぶりだね」

「あ、えっと、ノブコム王!」

彼は破顔し、僕に近づいてきた。彼は依然と同じく、軍服を召している。

「ここで構成王国の王たちと面会していたんでね。偶然だね」

「その節はお世話になりました」

「無事にビザも発行されたようで安心したよ。……、彼女は?」

ノブコムはティティーナに視線を向けて問うた。

「彼女はティティーナ。駅で会ったんです」

彼は彼女のフードを取り、顔をまじまじと見つめた。

「君はなぜメムとともに旅をしているんだい?」

「陛下は……、獣人がメムと旅することには反対なのですか?」

今まで聞いたことのない、丁寧な言葉遣いだった。

ノブコムは少し答えに困ったようだが、

「いいや。失礼した」

と答え、ドア近くに戻っていった。

「じゃあ、私はファジュアに戻る。ではまたいつか逢おう」

僕らに挨拶すると、ノブコムは部屋を後にした。

「さて、用事も終わったし、せっかくだから展望台を見に行かないか?」

その提案に賛成し、僕らはエレベーターに乗って頂上の展望台へと向かった。もちろん軍人が見張っていたものの、そこには素晴らしい眺めがあった。白い波の立つ大海原、首都に相応しい美しい街並み、港には軍艦と商船が多く係留されている。

ふと、街の方角を見つめるティティーナの姿が目に入った。何か悲しそうな、そんな表情だ。

「ティティーナ、何か見つけたの?」

彼女は少し黙ったのち、

「ここはあたしの生まれた町なんだ。小さい時までしかいなかったけど。でも、昔のまんまなんだ。この要塞も含めて」

彼女がとある家を指さした。

「あれが私の生まれた家。今は貴族が買い取って美術品用の倉庫にしてる。悔しいよな、今まで住んでた家が、あんな汚くなってるんだ……」

「もしかして、あの家が見たくて僕たちについてきたの?」

「違うよ。……、辛気臭くなったな、悪い」

彼女はそう謝罪すると、一人出口へと歩き、軍人の横で壁に寄りかかった。

一体彼女は何を考えているんだか。全く思考が読めない。

展望を堪能し、僕たちは要塞を辞去した。街を歩いているうちに、一つ気づいたことがあった。それは軍人の多さである。ベリギオでは司令部でしか見かけなかったが、この町では銃を担いだ兵士が闊歩している。

この国は軍事を優先させるとヘンリーさんが言っていたが、これでは塾で教わった軍国主義そのものだ。富国強兵なんて大義名分だな。

そして駅につくと、驚いたことに先程のっていた列車がまだホームにいた。ヘンリーさんにつづき、僕らは先程と同じ客車の同じ座席に座った。

「ずいぶん停車するんですね」

「ここまでは普通列車だったからね。ここからは国境を越える特急になるのさ」

乗客は相変わらず多い。日本にいると、鉄道で外国に行くという感覚がないから、変な感じだ。

ガチャガチャという音と共に、列車が再び動き出した。

「ここからは長旅になるよ。五・六時間はかかるから、寝といた方がいいよ」

そういわれても、こんな固い座席では寝付きにくい。車両も日本とは比べ物にならないくらい揺れる。だけど目の前に座るティティーナはもう眠ってしまったようだ。適応力が高いな、さすが獣人というべきか。

しかし外を眺めていても退屈なので、仕方なく目を閉じた。

しばらく起きていたものの、一定のリズムが刻まれると段々と眠気が襲ってくる。

いつの間にか僕は夢の世界へと誘われていた。

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知ってるようで知らない異世界 宮條雄麿 @takumi1996

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