第48話 倉田

山手の家は何処に有るのかと尋ねると、ゴッド牧瀬の家からおよそ10キロ先に存在するという。

取り敢えず、山手の家に踏み込みに行くという。

それもタクシーで。

金持ちだな、ってか、ちょっと待て。

何故、俺まで巻き添えを食らっている。

意味が分からない。


「.....お前さ、取り敢えず高校に侵入して来るの止めて。お願いだから」


「なんで?」


「お前が来ると厄介ごとになるからだ!」


「私の美貌に惚れたら誰だって屈するわ。厄介ごとになっても大丈夫よ!」


タクシーの中で争う俺達。

よっぽど自信が有るんだなってそこじゃねーよ。

お前は良いかもだけど、俺が問題だ。

ちっとも良くない。

俺の美貌は宜しく無いから。


「全く煩いわね。アンタ、私を取り戻した根性は何処に行ったのよ」


「.....あれは知らない馬鹿力が働いたんだよ」


「今も出せるでしょ。ほら、ピュッと出しなさい」


何言ってんだコイツ。

変質者だな。

と、思っていると、タクシーの運ちゃんが話してきた。


「お二人さん仲が良いね。恋人同士?」


「.....あ、違.....」


「恋人よ!私達の愛は本物なの」


「何を言ってんだ!」


ワハハ!と運ちゃんは笑う。

中高年ぐらいの運ちゃんで有る。

すると、運ちゃんが少し悲しげに話し出した。


「私の娘が昔、交通事故死してね。そう、お嬢ちゃんぐらいの年だったかな。お嬢ちゃんを見ているとつい、嬉しくてね。話してしまう。ごめんなさいね」


「え.....あ、そうだったんですか」


俺はビックリしながら、ゴッド牧瀬と共に話を聞く。

運ちゃんは話を続けた。


「.....重い話になってしまってごめんな。まぁ、今はもうあまり悲しく無くなったけど。でも心にはまだ傷は有るけどね。突然、なんでこんな話をしたかってね、お嬢ちゃん達に一つ伝えたいんだ。己の身が明日どうなっているか分からない。だから恋もするも良しだから勉強ばっかりじゃ無くて、青春する事が大事だから」


「.....はい」


「.....そうね。良い事言うわね!アンタ!」


中高年だぞ。年上になんて事を言うんだこの馬鹿。

俺はツッコミながら、ゴッド牧瀬の首を絞める。


「ワハハ!まぁ、青春しているみたいだね!だったら大丈夫だ」


「はい。コイツらのお陰で毎日が楽しいですよ」


「ウンウン。元気が一番だから。さて、もう直ぐ着くみたいだからな」


俺は外を見る。

隣の街までやって来たようだ。

ゴッド牧瀬は指差す。


「あのアパートの前で停めて頂戴」


「了解」


「.....あそこに住んでるのか?」


「そうね」


また美少女なのだろうか。

俺は不安に思いながら、運ちゃんにお金を払う。

すると、運ちゃんは俺に笑んだ。


「.....人生楽しくな」


「.....有難う御座います」


その様に言い残して中高年の運ちゃんは走って行った。

俺はそれを和かに見送ってから。

アパートにさっさと登って行くゴッド牧瀬を慌てて追った。

なんて事すんだ、俺を置いて行くな。

分からなくなるだろ。

思っていると。


「ヘロゥ!ゴッド牧瀬よ!山手!出て来なさい!」


そのアパートの110号室、倉田という苗字の扉の前で叫ぶ、ゴッド牧瀬。

だが内側からは全くと返事が無い。

俺は?を浮かべていると。


バァン!


いきなりだった。

鍵が掛かっていると認識した、ゴッド牧瀬はスカートを持ってから。

アパートの110号室の扉を思いっきり蹴り破った。

ちょ、え?

なんて事を!


「居るんでしょ!返事しなさい!山手!」


ゴッド牧瀬はづかづかと110号室に入って行く。

お邪魔します、と恐る恐るゴッド牧瀬に付いて入ると。

奥に人影が見え。

カップラーメン?か何かの腐った匂いが鼻についた。

なんだこの匂いは!

青ざめて居る中で、ゴッド牧瀬は気にしないと言わんばかりに。

また呼び声を上げた。


「またカップラーメンばかり!その胸が腐った林檎の様に落ちるわよ!」


「ゴッド牧瀬.....」


その声は、女性の声だ。

俺はまた女性.....と思って目の前を見ると。

タンクトップから胸をチラつかせてその下には何も着ていませんという感じで。

タバコを咥えた、長髪の女が出て来た。

顔立ちは相当な美人で。

所謂、目鼻立ちが整っていて、タバコと服装とヤニ臭さ。

その点がどうにかなればモデルとしてもいけそうな感じだ。

なんだこのおっさんみたいな。

俺は胸を見ながら赤面した。


「ちょっと。大きな胸が良いっての?アンタロリ好きだったじゃない」


「俺はロリコンじゃねー!」


「あー。うっさい。お前ら何なんだ一体」


いきなり現れやがってと呟き、頭をボリボリ掻きながら。

ドカッと床に腰掛ける、女。

胸がチラチラ見えて。

目線のやり場に困ってしまう。


「山手。良い加減にして。着替えて頂戴。男が居るんだから」


「別に?俺は胸を見られても気にしないぞ?ホラ」


タバコを持ち替えて。

いきなり、タンクトップを外した、女。

ゴッド牧瀬が唖然として。

俺は鼻血を吹き出した。

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