第46話 終結→ホームステイ

相当に、いや、滅茶苦茶に白虎は足が速かった。

このオフィス街を理解している為かスイスイ進む。

運動不足の俺はとにかく息が切れそうだった。

アイツは運動部でも所属してんのか。


「んん!くそう!」


白虎。

俺は白虎に対してある考えを持ちながら走っていた。

その考えとは、簡単に言えば一時的にでも青龍と引き離す事。

白虎を青龍から一時的にでも引き離さないと、何が起こるか分かったものでは無い。

きっとまた虐められる。

その様に思いながら俺は人混みを荒っぽく駆け抜けて行く白虎を追った。

だが、その時だ。

交差点で横断歩道が赤信号で飛び出した白虎の目の前にタクシーが突っ込んで来た。


「白虎!」


「.....!」


俺は最後の力を振り絞って迫り来るタクシーから思いっきりに白虎を引き離した。

次の瞬間にタクシーが止まり。窓が開いてタクシーの運転手が俺達に向いて来て、罵声を浴びせて来た。


「馬鹿野郎!死にてーのか!」


その一言で、タクシーは走って行った。

俺は冷や汗をかきつつ。

静かに白虎を抱えたまま、ゼェゼェ言いながらゆっくり呟いた。


「.....あぶねぇ.....マジで死ぬ所だった」


すると、その言葉に呼応する様に白虎が小さく呟いた。

本当に、かなり小さく、だがはっきり聞こえる様な声で一言。


「.....何で助けたんだよ」


「あ?」


俺は汗を拭いながら、反応する。

白虎は涙目で俺の手を引き剥がした。

そして、涙を浮かべたまま震えて向いてくる。


「もう良いんだ!アタシは要らない子だ!青龍にも.....だから.....」


「.....」


「放っておけば死ねたのに!」


「.....お前を.....」


俺はヒューヒュー言いながら。

静かに息を整える。

そして、汗を拭って呟いた。

笑みを浮かべながら、だ。


「.....俺はお前を.....放って置けないからだ.....」


「そんな事を.....言ったって.....どうせお前も.....」


「.....白虎」


「.....な、何だ、そんな真剣な顔付きしやがって」


白虎を立たせながら俺は真剣に見つめる。

垢抜けた親父さんなら。

今なら聞いてくれる筈だから。


「.....取り敢えずは青龍から離れて暮らせ。良いか」


「.....馬鹿な事を。アイツからどう離れろってんだ」


その事は今からだ。

思いながら、俺はゴッド牧瀬に連絡した。

すると直ぐに返事が。

いや、怒号が。


『アンタね!いきなり飛び出して行くなんて!白虎は無事なの!?』


「すまん。白虎は捕まえた。んで、相談が有る」


『.....何の相談よ』


「白虎を俺の家に連れて帰って良いか」


まさかの言葉に、数十秒。

んで、ハァ!!!?!その様な、白虎と。

ゴッド牧瀬の言葉が飛んで来た。

もうこれしか手段が無いと思ったんだよ。

って言うか、お前ら声量でけーな、鼓膜が破れるっつーの。


『んん!何を言ってんの!誘拐!?このペドフィリア!』


「違うわ!アホンダラ!青龍から取り敢えず離れるにはこの方法しか無いと思ったんだよ!って言うかペドじゃねー!」


「お前、何言ってんだ!」


唖然としている、白虎に俺は向いた。

言うても俺だけじゃどうしようもない咄嗟の言葉だがな。

だが、白虎をこのまま青龍の元に置いてもどうしようも無いと思ったんだ。

取り敢えず、引っぺがす。


「.....白虎。この考えはあくまで一例だ。だから対応策はまだ有る筈だ。とにかくお前は青龍の元から離れろ。一旦」


「.....チッ!ああもう!.....代われ!」


「.....?」


俺は白虎にスマホを渡す。

それから、パーカーに手を突っ込みながら。

白虎は静かに話し出した。


「.....お姉ちゃん。私はコイツの家に行くわ」


『いや、でも!?ちょっと待ちなさいって!』


「.....親父に代わってくれ」


パーカーが、俺の髪が8月の生暖かい風でなびく。

そんな中で、その様に話す、白虎。

すると、正蔵さんの声が漏れてきた。


「.....親父。聞いたか」


『.....うむ、聞いた。だがちょっと待て。私としては受け入れ難いのだが。男の家に女の子を泊めるなど』


「.....アタシはコイツは信頼出来ると思っている。今も事故を防いでくれたんだ』


『.....事故?』


おい馬鹿。

俺は青ざめてツッコミを入れる。

白虎はケラケラ笑いながら、頭を下げる様にして、頼む。


「.....親父。頼む。取り敢えず一時的なホームステイという事で.....」


『.....』


「.....駄目か?」


『.....青龍の件も有るしな.....そこの男に代われ、白虎』


唐突にスマホを投げて渡してくる、白虎。

その事に俺はビックリしながら、白虎を睨みつつ。

電話に出た。


「えっと、どうしました?」


『.....白虎は.....貴様をかなり気に入った様だな。そこまで興味を沸かせるのは久々なのでな』


「.....」


『.....手を出すなよ。私の娘に。殺すぞ』


どいつもこいつも。

そんなに俺は信頼出来ないか?

まぁ、出来んか。

男だしな。

こいつ、小学生だし。


「.....分かりました」


『うむ。で、貴様の仲間がそっちに向かっている。もう直ぐ着く』


「雄大!」


え?と、俺は言って。

見ると、相当に心配しながらだろう、そら、真が現れた。

横断歩道を渡ってやって来る。


「.....心配したぞ!」


「心配したんだから」


「すまん。真、そら」


小太りな為、シャツを汗塗れにした、真。

そして、息を切らした、そら。

その二人は白虎を見ながら言った。


「.....白虎ちゃん.....良かった」


「白虎ちゃん」


「.....」


言葉に、ふ、ふん。

という感じで目を逸らす白虎。

俺はその白虎を見ながら、そら、と真に向いた。


「.....すまん。本当に」


「.....ああ」


「.....うん.....?」


すると、そら、が首を傾げた。

俺を見てきて何かあった?的な感じを見せる。

もう一度、白虎を見てから俺は柔和に話す。


「.....ああ、あのな、暫く、白虎が俺の家に住む事になった」


「「な!?」」


ぺ、ペド.....。

的な感じで見てくる。

お前ら。


「あのな、簡単に言えば、青龍から引き離す。そういう事だ」


「だからって、えぇ!?」


「俺の家に来ないか?」


止めろバカ。

俺は睨む。

その間に、白虎は面倒クセェ。

という感じの顔をしていた。



それから数日が経過した俺の家。

東京から帰って来たら来たで、両親に少しばかり叱られた。

無茶しやがって、的な感じで。

それから、色んな人達に心配されて今に至る。

結論から言って白虎は俺の家にやって来た。

それで、俺の家の隣、ゴッド牧瀬ハウスにゴッド牧瀬が一応、帰って来た。

正蔵さんが名残惜しそうな顔をして、説得に時間が掛かったが、だ。

一応、説得出来た。

元の日常が戻りつつ有る。


「.....雄大。宿題教えてくれ」


「おう」


時期は8月13日。

俺は背後に居た、白虎に答える。

相変わらずのパーカーだったが、洗濯。

そいでもって、ボサボサだった髪を切った。

髪の毛はバッサリだ。

何故かと言うと、過去の自分におさらばしたかった。

そう言う事らしい。


「.....んで、何処が分からんのだ?」


「簡単に言えば、此処と.....って何を笑ってんだお前」


「.....ああ。すまん。いや、嬉しくてな」


「は?」


怪しげな目をする、白虎。

いや、変な想いじゃねーぞ?

小学生に手を出す馬鹿が何処に居る。

イエスロリータノータッチだ。


「.....白虎。落ち着いたか」


「.....みんな良い人ばかりだな。落ち着いた事は落ち着いたよ。んでさ、雄大、お前.....ロリが好きなのか?」


「.....」


何でゴッド牧瀬の様な.....はっ!

俺は直ぐに床下を見た。

そこには、開けられた開かずのケースと。

何か置かれていた。


「何だこりゃ」


「.....感謝の気持ちだ」


「.....!」


キランと光る鎖型のモノ。

何か、丸みを帯びた宝石?の様なものがくっ付いたネックレスで有る。

俺に対して、か?


「.....いやいやいや、お前、お小遣いすくねーんだろ?って言うか、何すんだオメェ」


「お前にお礼だよ」


「.....無視かよ。まぁ、一応に受け取っとくよ。有難うな」


どうでも良いけど、どいつもこいつもエロ本の上に何か置くの止めろ。

その様に思いながら俺は苦笑した。

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