第43話 白虎

例えば、この様な事が有ったとする。

自分の知り合いの女の子が家庭の事情で婚約させられようとしている。

その事に、黙って見ておくべきか。

それとも、口を挟まずにおくべきか。

お前ならどうする。

俺ならそうだな。

黙って見ている側で居るのは嫌だ。


「.....クソッ!歯痒いな!」


「落ち着け真。取り敢えずは撤退だ。それから作戦を立てよう」


「.....そうだね.....」


高級マンションのエレベーターから出て。

腹を立てている真を宥める、俺。

俺達は追い出される形で、高級マンションから外に出て来た。

ゴッド牧瀬の幸せはこれで良いのか?

本当にこれで良いのか?

いや、絶対に良く無いと思う。

そもそも、女の子にとって、結婚とは一生に一度のものだぞ。

それも姿が分かってもほぼ気持ちが解り合ってないオッサンと結婚なんぞって俺だったら吐き気がして、逃げる、うん。

クソみたいな話だ。


「.....いくら家庭の事情とは言え.....やり過ぎだ!気に入らん!」


「.....そうだね.....八坂くん.....」


「ゴッド牧瀬は嫌な事から逃げれないのかもな。親の圧力で。これは鳥籠の中の鳥だと思う。俺も真の意見に賛同だな」


俺達は歩きながら考える。

今は何も思い付かないが、取り敢えず泊まる場所を探そう。

このままでは落ち着けない。

オフィス街にはカプセルホテルとか無いのか。

と、思っていた矢先だ。


「オイ」


唐突にそんな小学生ぐらいの声がした。

俺達は驚愕して、背後を見る。

そこに、何故か白虎が居た。

その事に、直ぐに真が#を浮かべて絡む。


「ああん!?まだ何か用が有るのかクソガキ!」


「落ち着け!真!これは何か違う!」


暴れて、白虎に掴み掛かろうとする三角形の目をした真を抑え込む。

その側で、そら、が警戒しながら、栗毛色の髪の毛を抑えつつ白虎に向いた。

白虎はパーカー姿で、短パン、ポケットに手を突っ込んでいて。

さぞ不良の感じだったが、そら、は優しく話し掛ける。


「.....どうしたの?白虎ちゃん」


「.....お前ら、お姉ちゃんの何だ?」


その様な、クエスチョンをする白虎。

俺は?を浮かべた。

そして少しだけ不愉快な気持ちを抑えながらも警戒混じりで静かに聞く。

そういや、風が出てきたな。


「七星の事か?.....仲間だ。大切な、仲間だ」


俺の言葉に。

白虎は俺の目を静かにガラスの様な透き通りそうな、茶色と白の目で訴えてくる様に見据えてくる。

そして、そっぽを向いて風でなびく髪の毛で頬を隠しながら話した。


「.....お姉ちゃん.....の事を助けられるか?」


「.....何だと?」


まさかの言葉に俺達は驚愕する。

真も動きを止めた。

太陽を見ながら、悲しげに白虎は続ける。

その表情は窺い知れないが、声が涙声になっている様に聞こえた。


「.....私は.....この結婚には反対なんだ。だから.....お前らに最後の賭けをしたい。お姉ちゃんを.....本当の幸せに導いてくれ」


「.....お前.....」


手でぐしぐしっと涙を拭う様に白虎はしてから。

唇を噛みながら、呟く。


「.....あと、泊まる場所は有るか?」


「.....無いよ。今の所は」


そう答える。

すると、白虎はすたすたと歩き出した。


「.....じゃあ、こっちだ。泊まっていけ」


白虎は高級マンションとは真逆の方角に歩いて行く。

全く別の方角だ。

オフィス街から離れて行く。

俺と真と、そら、が顔を見合わせて頷いてそして歩き出した。



「.....此処は?」


「.....この場所はうちが不動産として持っているマンションの空き部屋の一つだ。だからバレる事は無い。泊まっていってくれ。食料や電化製品も据え置いて有る」


俺達はマンションの一室に居た。

勿論、高級マンションとはいかないがそれでも10階建てのマンションで。

とても広々とした、室内であった。

誰も住んでない様だが、埃が一つも無く。

白の壁紙を基調として、部屋も白い。

絨毯、ベッド、棚。

そういうものが、だ。


「.....白虎。お願いが有る。そら、は別室を借りて良いか?女の子だから」


「.....そうだな。じゃあ、お前は隣だ」


「.....あ、有難う。白虎ちゃん」


「.....あと、白虎で良い。白虎ちゃんは気色が悪い」


そら、は玄関から外に出てそして案内されて行った。

机の近くの椅子に腰掛けている、真は。

顎に手を添えた。


「.....叛逆展開だな」


「.....お前、何でもかんでもアニメや漫画で例えるなよ。いや、俺もそう思ったけどさ」


「つうか、ま○か☆マギカで合ったよな?叛逆の物語」


「うん、まぁ有ったけど観てないわ。すまん」


真はこの世が終わった様な顔をする。

何!?あんな素晴らしい物語をか!?

そんな感じで、見開く、真。

いや、暇がねーんだよ色々有り過ぎてと、思っていると玄関が開いた。


「ただいま」


「.....おう。どうだった?」


「.....広いよ。この部屋とおんなじ」


そら、はニコニコして嬉しそうに反応する。

俺は、そうか、と和かに反応する。

すると、白虎が玄関から顔を出した。


「この部屋は特に意味も無く、貸している訳でも無いけど、整ってる。好きに使ってくれ。どうせまた整うだろうし」


「.....有難うな。白虎。此処までしてくれるのが嬉しいよ」


「.....別に.....今の現状が気に入らないから.....」


白虎は俯く。

その様子を俺は静かに見ていた。

すると、そら、が手を叩く。


「.....そうだ。一緒に泊まらない?白虎」


「.....え.....」


「いや、もし良かったらだけどね」


「.....いや.....でもアタシは.....」


白虎はオドオドするが、否定しない。

その事がどういう事なのか気にはなったが。

そういう事ならと俺も笑みを浮かべて話した。


「.....まぁ、良いんじゃねーの。親父さんとかにはそれなりに話しておけば」


「.....あ、アタシは敵だったんだぞさっきまで」


「お前の顔が深刻そうだからだよ」


その言葉に、白虎は。

見開いて、一筋の涙を頬に伝わらせた。

だが、その真珠の様な涙は直ぐに見れなくなった。

ぐしっと涙を拭いたから。


「.....もし良かったら.....その、泊めてくれ.....」


「うん」


白虎はその様に話した。

一体、この家庭で何が起きているのか、その様に思う。

何故なら、白虎が着ていたパーカーはよく見たら洗濯は数日前。

的な感じで薄汚れていたから、だ。

何が起こっているんだろうか。


「.....気付いたか?真」


「.....そうだな」


真は真剣な顔付きで目だけ動かしてくる。

多分、白虎は、家庭内でろくな扱いを受けてない。

つまり、勉学のカースト制度かなんかあって。

勉学の優先度か、それとも姉と妹の差か。

自分の子供を順位づけている可能性があるとその様に、俺と真は思った。

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