第38話 最大の別れ

そんなゴタゴタが有って。

日付は夏休みに突入し、7月30日というミタちゃんとのデートの1日前の前日。

俺は眉を顰めて目の前の潾二郎さんを見ている。

ボロいテーブルの先。

潾二郎さんとミタちゃんが並んで座り、此方に2人と俺が居る。

挟んで居る形と、その様な構造になっていた。

この場所はミタちゃんの家の秘密の部屋だ。

潾二郎さんが話すなら此処が良いだろうという事になった。

その為、この場所に居る。

すると、潾二郎さんが口を開いた。


「.....何故、真くんと撫子くんがこの場に居るのかね?」


「.....簡単に言っても長いですね.....」


その様に言われる撫子さんと真。

俺の母さんと父さんの様に威圧する、シャツにジーパンという珍しい姿の俺と似た様な姿をして居る、真。

そして人の家、年上に会うという事で。

少しメイクした様な、綺麗な服を着込んだ仕事着か?の撫子さん。

今日は、そら、とゴッド牧瀬が仕事。

その為何故かこの2人ってか。

何でかこうなった。

どうなるのかハラハラしていると、共同声明の様に撫子さんが、真が発した。


「「全てをぶっ壊しに来ました」」


「.....?」


「.....ハァ.....」


予想はしていたが、何を言ってんだコイツら。

参謀長もひでぇな。

オブラートに包めよ。

その言葉にミタちゃんと潾二郎さんは驚愕する。

って言うか、ミタちゃんと潾二郎さんしか味方が居ないな。

思っていると、潾二郎さんはコーヒーを飲みながら静かに反応した。


「ふむ、君達は御霊と雄大くんの折角のラブラブを破壊しようとしているのかね?」


「その通りです」


「オレっちは、そら、が嫉妬しているのとか有るし、気に入らんから妨害する」


ハチマキを巻く、真。

その姿を見てから潾二郎さんは静かに真と撫子さんの目を見る。

その目は本気です、と受け取った様だ。

潾二郎さんはため息を吐いて、そしてコーヒーのカップを机に置いた。

そして両腕で頬杖を付く。


「.....ふむ。やはり間違いは無かったか。御霊と、そらくん、そしてゴッド牧瀬は君の事が好きな様だな」


「なっ!?」


予想外の言葉が出て来て俺はボッと赤面した。

そ、それってどう言う事だ!

俺は驚愕しながら、撫子さんを見る。

撫子さんはこれだけの日数で気付いてなかったのかオマエ。

という感じだった。

マジで?え、そら、が俺を?

嘘だろ。

え?

思っていると真横から憎悪を感じ取った。

ハチマキをした真で有る。


「裏山死ね.....」


「ってか、此処に来たのってまさか。.....真。お前マジで殺すぞ」


「それは必要無いな。私が殺す」


「いや、アンタは本気で人を殺そうとするでしょ!」


唐突に聞こえた声に俺は潾二郎さんに向く。

アカン、潾二郎さんの目がマジだ!

思っていると、撫子さんが膝に手を置いて真剣な顔付きで話した。

撫子さんの威圧感が半端無い。


「潾二郎さん。すまねェけど、御霊の事も有るかも知れねぇが、そら、の事情も僅かながらでも汲んでやってくれねぇか。そら、は本気で雄大の事が好きなんだ。次々にあれこれ進んでもらうと困るんだヨ。まるで配慮もしてないし」


「.....この日本では婚約出来るのは1人だけと限られているからな。そんな事情を汲んでいてはこちらが敗北する。勿論、そらくん、ゴッド牧瀬くんにキチンとチャンスは与えるつもりだ。これは此方側の最大の配慮だが」


「.....」


ちょちょ、おいおいおい。

何だこの睨み合いは。

俺を求めて、この状態って凄まじいな!

真も怯えているぞ。

いや、何しに来たんだこのチキン野郎は。

ハチマキ何の為に着けた。


「それは雄大の意思も全て汲んだか.....キチンと!.....無理やりじゃ無いのか?」


「.....率直に言わせてもらうが雄大くんの許可は取ってない。だが.....良いかね。私は御霊に幸せになって欲しいからこうして進めている。勿論、最大限の配慮はする。先程も言った通りに」


「私は雄大くんの事が好き。だから誰も動かないなら私が動こうと思って」


「く.....」


俺は撫子さんを見るが、撫子さんは弾切れ。

という感じであった。

もどかしい怒りなのだろう、撫子さんの怒りは。

俺は目の前の波打っているコーヒーを見つつ、ため息を吐いてから。

潾二郎さんを真剣な眼差しで見た。

俺が出ないと駄目か。


「.....潾二郎さん。少し言い過ぎだと思います。幸せになって欲しい気持ちは分かるんですが、俺だって一応は色々有るし、許可は貰ってもらわないと困る点も有るんですが」


俺の今、心に有る率直な意見を少し訴える様に告げた。

すると、少し潾二郎さんは絵をパチクリして困惑の顔を見せる。

そしてその角ばった顎に手を添えた。


「.....ふむ.....少しばかり迷惑だったか?」


「.....はい」


多分だがそういうのが性格上、分からないのだろうこの人は。

俺は静かに見続ける。

すると。


「.....じゃあ、中止?」


突然の声だ。

ミタちゃんが悲しそうな顔付きをした。

その事に、俺達は顔を見合わせて、首を振る。


「.....違う。けど、今はまだ婚約者なんて決めれないよ。ミタちゃん。ごめんな」


「.....そ、そうなんだ。まぁ、でもそれでも良い。一緒に来て下さい」


一気に花が咲いた様にミタちゃんは笑顔になった。

俺は安堵する。

すると、撫子さんの小突きが。


「.....雄大。行くのは良いが、惑わされるなよ」


「雄大。お前だけは許さねぇ」


「おう。真だけは後でぶっ殺す」


「私が処刑しよう」


い、いや、ただの冗談ですって。

その様にしてゾッとしている、真を置いて

俺は笑みを浮かべる。

そして潾二郎さんに向いた。


「.....今はまだ。何も考えられません。これが俺です」


「.....ふむ」


潾二郎さんは。

ミタちゃんの頭に手を乗せて。

そして話す。


「.....何か間違っていた様だな。すまない」


「.....大丈夫だよ。お父さん」


俺はその光景に柔和になった。

その時だ。

俺のスマホがバイブを起こした。


「.....ゴッド牧瀬?.....潾二郎さん、一旦失礼しても?」


「.....ああ、構わないぞ」


「有難う御座います」


俺は歩いて、潾二郎さんの研究所を後にする。

そして、廊下で電話に出た。

何か文句でも有るのだろうか?

それとも、嫉妬?

まぁ、どっちでも良いけど。


「.....もしもし?ゴッド牧瀬?どうした」


『.....雄大。私ね、小説を辞めるわ。貴方とも今後、会わないわ』


「.....は?」


俺はスマホを耳から離して。

そしてもう一度、耳にスマホを当てる。

いや、ちょっと待って。

付いて行けないんですが?

何だって?

ゴッド牧瀬にらしからぬ言葉を聞いた気がするんだが。

俺はもう一度、話す。


「.....今何つった」


『.....お父さんが.....小説を辞めろって.....それとアンタに会うなって.....ゴメンね.....』


「.....え?ちょ、嘘だろ、オイ。冗談は止めろ.....」


『.....さよなら』


電話が切れて俺は呆然とする。

そして、この日を境にゴッド牧瀬と。

電話が繋がらなくなった。

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