第36話 エッセイバトル閉幕
取り敢えず、電話を掛けてきた撫子さんと同じく電話を掛けてきた潾二郎さんに必死に言い聞かせてから。
撫子さんだけ話し続けて審判として、俺の家のリビングに呼んだ。
その理由として、人数が多すぎるという点だ。
撫子さん、俺、真、ゴッド牧瀬、そら、葉月、ミタちゃん。
その人数だからだ。
ん?ちょっと待てよ?
何故だ。
「.....なんでお前まで居るんだ。葉月」
「ん?いやだって面白そうじゃん」
「面白くないかも知れんぞ。ただの小説の読み合いだ」
「そんな事は無いから大丈夫。ねー?」
ゴッド牧瀬と唐突にニコニコでハイタッチする、葉月。
ちょっと待てお前ら。
どんだけ仲良くなってんだよ。
俺は頭に手を添えて苦笑しながら真を見る。
そんな真は周りを興奮気味で眺めながら、尚且つ硬直していた。
何だコイツ、キモいな。
「真?」
「び.....美少女がいっぱいだ!ハズレが無いっ!」
「.....煩悩乙」
いやいや。
ハァハァすんな。
キャラ的にもマジキモい。
俺は盛大にため息を吐いた。
だが、美少女だけってのは確かに賛同。
同じく周りを見わたそうとした時。
ミタちゃんが俺の腕に絡みついてそしてニコニコ笑顔で見上げてきた。
「ちょ、うわ。どうした?ミタちゃん」
「.....小説、楽しみにしてね」
「お、おう?」
突然の宣言に。
俺は???を浮かべながら。
離れたミタちゃんを見つめる。
ゴッド牧瀬と、そら、と、撫子さんから強烈な視線を浴びた。
何でや。
思っていると、そら、が手をからっきしの様にパンパンと叩いた。
そして少し怒り気味で宣言する。
「はいはい。みんな。ちょっと時間も遅いし、小説の読み合いするよ」
「審判はオレっちに任せてな」
「.....楽しみだなぁ」
真が呟く。
まるで好きな果物を食って幸せそうにする、女の様に。
でも確かにそうだな。
俺は返答しながら。
そら、が書いた俺の小説に関して考える。
あれから少し時間が有ったが、修正でもしたのだろうか?
っていうか、修正しないとマズイ気がするんだが。
俺の周りに対しての攻撃だし。
「.....じゃあ、早速!先ずは私と御霊の小説よ!」
「良いのか?そら」
「.....」
頷く、そら。
うん、まぁそれならそうで良いんだけど。
30ページぐらいのゴッド牧瀬とミタちゃんの共同作品の原稿。
俺と真はそれぞれ受け取って。
そしてよっしゃという真の言葉を聞きながら、読み始めた。
うーむ?
☆
「.....」
「.....」
何だろうか。
これは別の意味でキツイ。
流石はプロの小説家と言ったところか。
俺達の心を完璧に抉りにきている。
まるで、豆腐をスプーンで抉った様な。
そら、がどれだけ可哀想だったか、それが完璧に分かるぐらいに書かれている。
俺は気付けば悔し涙の様な、涙を号泣していた。
真も、である。
「.....しんどかったんだな。.....そら」
「.....そらさん.....」
紙が濡れている。
涙が止まらなかった。
俺は複雑な思いを抱く。
何でこの3年、そら、を助けれなかったのだろうか。
俺は本格的な馬鹿野郎だな、その様に、思うぐらいに。
「.....ごめんな.....そら.....」
プルルルル
『.....大丈夫だよ。うん。雄大も苦労しているからね.....泣かないで』
この3年。
たったの3年なのかも知れない。
だけど。
だけど、だ。
気付けなかった自分が愚かだった。
こんなの採点出来ない。
泣ける、本当に、だ。
「.....オレっちの全ての気持ちを表現してくれているな。有難う。ゴッド牧瀬。御霊」
「.....いえ」
「問題無いわよ」
気付けば、俺の小説を盗み見ていた葉月も泣いていた。
採点の問題じゃ無いぞこれ。
これはきっと、評価は付けられない。
その様に思う。
「.....じゃあ、次は、そら、の小説ね」
「.....うん」
そら、は小説を鞄から静かに取り出した。
だが俺が見た小説とちょっと違う。
修正している様にも見える。
あの短時間で一部を修正したのか?
「.....これ、修正した分だけど、みんな読んで」
「.....?」
俺達は受け取るなり、直ぐに紙を捲る。
そこに書かれた文章を読んでいき。
俺は衝撃を受けた。
「.....そら、お前.....!」
『.....私は全部が悪いって。最初言ったかも知れない。だから、攻撃的な小説を書いた。でも、雄大を虐めていたヤツの改心。それから、みんなのお陰で、恨むって事は違うって事に気が付いた。だからこそ、攻撃じゃなくて、全てにおいての調和を求めたの』
「.....」
そら、は攻撃の小説を止めていた。
そこにあったのは。
みんなの平和を求めた、平穏な、それでいて心を穿つ小説だった。
攻撃的なものは一切無い。
「.....変わる事は大事だが.....ここまで変わるなんて.....」
『.....雄大。答えになってないかも知れないけど、私はこれが答えなの』
「.....」
俺は驚愕した眼差しを向けて。
そして和かに、そら、の頭に触れた。
それから笑みを浮かべる。
「.....あのー。良い雰囲気のところ悪いんだけど、採点しても良いかしら?」
「そうそう」
ミタちゃんとゴッド牧瀬の言葉で。
周りに人が居る事を思い出した。
小っ恥ずかしくなって、離れて、直ぐに正座する。
咳払いをして、話し出す。
「.....で、どっちなの?」
「.....そうだね」
「.....勝敗なんか決めれないな。オレっちはもっと敵意丸出しを思っていた。だけど、みんな変わったなァ。敵意丸出しっつーか。優しさに溢れてる」
うーむ、と悩む、撫子さん。
真もうーんと悩んで居る。
そうだな。
「.....取り敢えず、引き分けでいきませんか?撫子さん」
「.....そうだな」
「それが良いと思うぜ。俺も」
「まぁ、妥当かもね」
結果的に。
小説は全て、引き分けに終わった。
俺達は顔を見合わせて。
そしてクスクスと笑い合った。
「.....じゃあ、これから先の事だけど.....」
ギロッと全員の目付きが変わった。
俺を、ミタちゃんを睨んでくる。
「.....御霊と雄大のデートをご破算にする計画を立てましょう。.....取り敢えずは」
「「「.....賛成.....」」」
「賛成だ。俺が参謀長になる」
「.....お前らふざけんな.....」
確かに、こっから先は全部、俺の事に関してだ。
共同戦線を張ったのもそれだしな。
うわ、面倒臭っ。
ギュッ
「「「!?」」」
「.....雄大くん。いーっぱいラブラブしようね」
「ミタちゃん。それ完全に火に油注いでるからな.....」
抱きついてきた、ミタちゃんに。
全員の視線が鋭くなる。
ヤバい、コレ。
真面目に殺されそうだわ。
「お前とは縁を切るぜ。相棒。クソ野郎。ホビット、身長だけの男!」
「殺すぞお前」
とにかく面倒い。
クソッタレ。
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