第30話 撫子と雄大とゴッド牧瀬

(オメーの自宅近辺で会おうな。雄大)


その様に、撫子さんは言ってくれた。

色んな意味で学校に居たくなかった俺は早退して。

複雑な面持ちで歩いていた。

真、ミタちゃん、そら、も当初は心配していたが、撫子さんなら。

と、頷いて承諾してくれたのが。

少し、悪いと思いながら、俺は、待つ。

すると、撫子さんが息を切らしながらこっちに駆け寄って来た。

その顔は焦っている様に見える。


「すまん。遅くなっちまった」


「.....いえ.....」


「.....さて、早速だが。オレっちの家に行こうか」


満面の笑みを見せる、撫子さん。

その全ての嫌な事を忘れるぐらいの感じで手を引いてくれた。

少しだけ俯きながら、俺は歩く。

すると、撫子さんが。


「.....雄大。オレっちはこの様な事しか言えないけど、学校を暫く休んだらどうだ」


と、言った。

俺は首を振って、そして話し出す。

それは確かに良いかも知れないが、逃げるのでは駄目な気がする。

それに説明をしたが、無理だ。

今の時期は。


「.....でもそうしてもなんの解決にもなりませんし、大事な時期です」


俺は静かにその様に回答する。

そんな、撫子さんは俺の言葉に真剣な顔付きで言葉を発した。

手を引きながら。


「.....そうか.....」


ポツリと一言。

対策でも練ってくれているのだろう。

思っていると、青白の一軒の家が見えてきた。

そこまでデカく無い、青と白を基調にした海の家の様な感じの二階建ての家だ。

俺は見開く。

いつもこの家の前を通ったりしていた気がするから。

撫子さんは口角を上げた。


「.....これがオレっちの家だ。まさかこんな事で紹介する羽目になるとは思って無かったがな。まぁ、上がれ」


「.....はい。有難う御座います」


俺は申し訳無さを出しながら。

静かに撫子さんの家に上がった。



直接、撫子さんの部屋に案内された。

俺はモジモジしながら、初々しい彼氏の様にして入った。

その部屋は、女の子の部屋ながらも。

キッチリとした仕事部屋だった。


「オメー、お茶でも飲むか。それともジュースか?」


「いえ、お構いなく」


俺の言葉を。

不愉快そうに受け取る、撫子さん。

それから、俺に迫って。

俺は赤面した。

何だ!?


「飲むんだ」


「はい」


ほぼ脅しだ。

俺は苦笑しつつ、出て行く先輩を見送った。

そして改めて周りを見つめる。

所謂、ディ○ニーのぬいぐるみとか置いて有る様な、そして、イラストがいっぱい。

壁にも貼られている。

その作品はほぼ全てが、そら、の作品のヒロイン、主人公、脇役だ。

それを見て、柔和になりながら。

俺は胸に手を置いた。


「.....不安は.....だいぶ和らいだか.....」


俺は俺自身にそう呟く。

だいぶ、先輩のおかげで和らいできた。

有難い事だ。

思っていると、部屋のドアが開いた。

蹴り破る様に、だ。


ガチャッ


「雄大。とりあえずコーラだ。これしか無かった。全く母親ときたら」


「有難う御座います」


「オネーサンに構わずにどんどん飲めよ」


俺にニヤッと笑みを浮かべて。

その場にドカッと腰掛けながら、頬杖をつく撫子さん。

俺はその光景を見つつ、部屋の感想を、家の感想を切り出した。


「.....良い部屋で良い家ですね」


「こんな家はそこらに有るだろ?良い家って.....ねぇ」


「いえ.....」


俺にとっては本当に良い家だ。

それは何だか青色だから。

安心するっつーか、何だろうか。

その、本当に何度も来た感じがする。


「本当に安心します」


「.....そうか」


見開く先輩を見ながら。

先輩と一緒だからだろうな。

きっと、と思った。

すると先輩はニヤニヤして、外を眺める。


「いやー。しかし学校さぼるなんざひっさびさで良い気分だぜ。高一以来か」


「マジですいません.....」


俺は落ち込む。

だが、撫子さんは首を振った。

そして言う。


「オメーは何も悪く無いだろ」


「いや.....俺のせいっすよ」


俺の言葉に不愉快そうに眉を寄せる、撫子さん。

いや、マジで悪かったな。

本当に、その様に思う。


ベシッ


「イテッ!」


「.....あのな。気を配るな。私は先輩なんだからな」


「しかし.....」


そんな俺に。

スマホを渡して来た、撫子さん。

ん、と言っている。

撫子さんのスマホの様だが?


「.....?」


『コラァ!雄大!アンタクヨクヨしてるんじゃ無いわよ!』


「ゴッド牧瀬.....って何!?」


撫子さんは頷く。

俺は驚愕した。

何故、ゴッド牧瀬が。


『アンタらしく無いわよ!クヨクヨしない!私の憧れた男はその程度なのかしら!?まだ反撃の余地は有るわ!クヨクヨするならそれも失敗してから!良いわね!?神に愛されたこの私がアンタをどうにかするんだから!絶対に諦めるな!』


「.....ゴッド牧瀬.....」


何て無茶苦茶な電話だ。

フォローだ。

涙が出るじゃねーか。

クソッタレ。


「.....と言う事だ。雄大。きっと反撃の余地は有る筈だから一応にがんばろーぜ」


「.....勇気が貰えました。俺.....そうですね.....」


「.....そうだな。それでこそ漢だ。雄大」


「男ってそっちすか」


笑いながら。

俺は静かに羽多野を攻略する為に。

前を見据えた。

もう1人じゃ無い。

その事を、噛み締めた。

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