第29話 壁は乗り越える為に有ると思う

翌日の事だ。

俺達はまぁ、相変わらずの学校に居た。

リア充どものギャイギャイした喧しい会話を聞き流しながら。

俺はライトノベルを読んでいる真の横で呟く。


「.....明後日が期末か」


「そうだな。あ、そう言えばよ。雄大。今日転校生が来るってよ」


「まるで某有名小説的に言うな。.....って言うか、どんだけ人気やねん俺達の学校。あと、何処で仕入れたその情報」


「職員室前」


何だコイツ。

恐ろしい地獄耳だな。

俺はその様に思いながら。

チャイムも鳴ったし、ホームルームが始まるな、と真正面を見た。

ティーチャーの影が見える。


ガラッ


「席に着けー。転校生が来たぞー。女子だ」


「「「「「FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」」」」」


「「「「「.....」」」」」


うるさ過ぎてクッソw。

一気に女子はドン引きして男子が喜んで滅茶苦茶だ。

俺は苦笑しながら、真正面を見る。

次の瞬間、転校生が現れ。

その苦笑は。

一気に冷め、眉を寄せずには居られなくなった。

冷や汗が止まらなくなる。

一瞬にして時が、止まった気がした。



「羽多野宮でーす。シクヨロ!」


ガングロ。

更に、キャピキャピな感じに。

爪にデコレーション。

化粧を少し施したその女は。


「.....おい。雄大?」


「.....」


直ぐに俺は、そら、を見た。

そら、は殺意に芽生えた、目をして居た。

これまででは絶対に見た事がない姿である。

俺はその姿を見ながら動悸が収まらなくなった。

ヤバい、この場は。

戦場になる。


「.....あっれー?雄大じゃーん。ひっさびさー」


信じられない事に相手は俺に気付いた様で。

相手は駆け寄って来た。

のだが、俺は後ずさって。

羽多野が伸ばした手から逃れた。

椅子が倒れる。


「.....雄大!?」


「大丈夫だ.....真」


「.....あれま?ダチ作ったの?雄大」


真に対して。

まるで怪物の様な蜂蜜の様にドロッとした心を向けた。

睨みに睨みを効かせるが、俺はそもそも腐った魚の目をしている。

その為、コイツに通用しない。

真を見て、ニヤァと悪意のある目をして羽多野は呟いた。

舌なめずりをする。


「また壊し甲斐があるね。良かった良かった」


「.....お前.....」


何てこった。

まさか転校生がこの馬鹿野郎だったなんて。

その、異質な光景に対して。

先生が待ったをかけた。


「再会を喜ぶのは良いけど、そこまでな」


「だ.....「誰が再会なんか喜ぶ!!!!!」


俺の声に被さる様に、声がした。

その声の主は、そら。

担任に対してだったが、そんな事は関係無いと暴言を吐く。

立ち上がって羽多野を睨んでいる。

拳を握りしめて。


「.....アンタ.....また人の人生を壊しに来たの?もしそうだったら今度こそぶっ殺すわよ。冗談抜きで」


「.....あれ?アンタまで居たんだね。そり、さんだっけ?」


「オイ。良い加減にしろ」


先生が一喝で怒った。

暴言より場がそうなっている事を気に掛けた様だ。

その為、何とか場は収まったが。

俺は羽多野を見てから冗談抜きで吐き気が止まらなかった。

何故ならコイツは。


俺にトイレの水を飲ませた様な不良一族の主だから、だ。


俺と、そら、の最大にして最後の仇である。

その人物が何故なのか。



そら、と同じ様に質問攻めに遭っている、羽多野を見ながら。

俺は保健室へ向かう為に、立ち上がる。

そしてフラフラと歩き出した。

すると、背後から影が。


「.....オイ。大丈夫か?雄大」


「.....あまり大丈夫とは言えないな」


「私も.....行きます」


ミタちゃんと真だった。

教室内の羽多野を見て、そら、を見て頷き。

俺を介抱しつつ歩き出した。

そんな2人には済まない、と言いながら俺は歩く。

マジで吐き気が止まらない。

真が一言、呟く。


「.....お前を虐めた奴だってな。あの女」


「.....仇に近い」


「信じられない偶然.....雄大くん。苦しいよね。頑張ろう」


俺は青ざめる身体を動かして。

2人に介抱されながら。

保健室に着いた。

そして俺は保健室のベッドに腰掛ける。


「.....お前ら、アイツには絶対に気を付けろ。かなり薄汚い手を使うから。内部崩壊を見て楽しむ馬鹿野郎だから。本当にな」


「.....うん」


「.....雄大.....」


絶対にアイツだけはダメだ。

全てにおいて、ダメだ。

俺は頭を抱えて、青ざめる。

その様子を見て真が小さく呟く。


「学校を暫く休んだらどうだ?雄大」


「.....そういう訳にはいかない。高二の大切な時期だ。休むなんて出来るか」


「でも.....」


「.....」


ただひたすらに何も起こらない事を祈ろう。

その様に、思う。

本当に、思う。

今、ようやっと俺は幸せになれたんだ。

頼むから。


「.....あの馬鹿野郎が転校して来るなんて.....神様ってのは.....」


くそう、本当に上手くいっていたのに!

世の中が上手く回っていたのに!

チクショウ。


「.....ちょっと行って来ます。雄大くん」


「何処に行くんだ」


「羽多野さんの所です」


「ちょっと俺も言うわ。もう何もするなって」


俺は見開いて、直ぐに止めようとしたが。

手が上がらなかった。

そして、2人は歩いて行った。

止める事が、出来ない。

気分が悪くて。


「.....撫子さんに相談を.....年上だし.....何とかならないか.....?」


その様に思って。

スマホを出したが、落とした。

俺は苦笑した。

ヤバい、マジで震えている。

震えが止まらん。


「くそう.....くそう.....」


こんな事になるなんて。

マジでどうする。

そら、と2人でまた立ち向かうのか。

立ち向かえるのかそもそもに。

髪の毛を掴みあっての殴り合いの喧嘩にもなったんだぞ。


プルルルル ガチャッ


『オウ雄大。どうした』


「.....相談に乗ってもらえますか」


一言。

それだけ告げると、撫子さんは全てを理解した様に。

少しだけ黙って、そして話し出した。


『.....深刻そうだな?どうした』


「.....仇と言える様な奴が転学して来て.....震えが止まらないんす。どうしたら良いと思いますか」


この言葉に。

撫子さんは無言になった。

それから撫子さんは静かに怒りを込めた様に言葉を発する。


『雄大。オレっちが学校に行ってやろうか。ってか攻め込もうか』


「.....そんな無茶苦茶な注文は出来ません」


『.....挿絵なんぞ描いている場合じゃ無いな。認めた男がその様な事になっているとは』


「.....有難うです。そんな事を言ってくれて」


俺は床を見ながら過呼吸を治していた。

流石先輩だ。

話していると気が楽になるな。

俺はその様に思いながら、窓の外の空を見る。

思っていると、撫子さんはとんでもない事を話し出した。


『.....雄大。オレっちの家に来い。事情を聞きたい』


「.....え?でもそれって」


『オレっちも早退するから.....早退してくれ』


「.....でも撫子さんの仕事が.....」


今はそんなもんどうでも良い。

その様に話して、切るぞ。

と撫子さんは言った。

早退を誰かに告げるのだろう。

あの人はそう言う人だから。

言えば、マジでそうする人だから。


「.....有難う。撫子さん」


俺はその様に思いながら。

過呼吸と、動悸を胸に手を置いて治す。

そして、目の前の薬剤の棚を見据えて立ち上がった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る