第29話 壁は乗り越える為に有ると思う
翌日の事だ。
俺達はまぁ、相変わらずの学校に居た。
リア充どものギャイギャイした喧しい会話を聞き流しながら。
俺はライトノベルを読んでいる真の横で呟く。
「.....明後日が期末か」
「そうだな。あ、そう言えばよ。雄大。今日転校生が来るってよ」
「まるで某有名小説的に言うな。.....って言うか、どんだけ人気やねん俺達の学校。あと、何処で仕入れたその情報」
「職員室前」
何だコイツ。
恐ろしい地獄耳だな。
俺はその様に思いながら。
チャイムも鳴ったし、ホームルームが始まるな、と真正面を見た。
ティーチャーの影が見える。
ガラッ
「席に着けー。転校生が来たぞー。女子だ」
「「「「「FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」」」」」
「「「「「.....」」」」」
うるさ過ぎてクッソw。
一気に女子はドン引きして男子が喜んで滅茶苦茶だ。
俺は苦笑しながら、真正面を見る。
次の瞬間、転校生が現れ。
その苦笑は。
一気に冷め、眉を寄せずには居られなくなった。
冷や汗が止まらなくなる。
一瞬にして時が、止まった気がした。
☆
「羽多野宮でーす。シクヨロ!」
ガングロ。
更に、キャピキャピな感じに。
爪にデコレーション。
化粧を少し施したその女は。
「.....おい。雄大?」
「.....」
直ぐに俺は、そら、を見た。
そら、は殺意に芽生えた、目をして居た。
これまででは絶対に見た事がない姿である。
俺はその姿を見ながら動悸が収まらなくなった。
ヤバい、この場は。
戦場になる。
「.....あっれー?雄大じゃーん。ひっさびさー」
信じられない事に相手は俺に気付いた様で。
相手は駆け寄って来た。
のだが、俺は後ずさって。
羽多野が伸ばした手から逃れた。
椅子が倒れる。
「.....雄大!?」
「大丈夫だ.....真」
「.....あれま?ダチ作ったの?雄大」
真に対して。
まるで怪物の様な蜂蜜の様にドロッとした心を向けた。
睨みに睨みを効かせるが、俺はそもそも腐った魚の目をしている。
その為、コイツに通用しない。
真を見て、ニヤァと悪意のある目をして羽多野は呟いた。
舌なめずりをする。
「また壊し甲斐があるね。良かった良かった」
「.....お前.....」
何てこった。
まさか転校生がこの馬鹿野郎だったなんて。
その、異質な光景に対して。
先生が待ったをかけた。
「再会を喜ぶのは良いけど、そこまでな」
「だ.....「誰が再会なんか喜ぶ!!!!!」
俺の声に被さる様に、声がした。
その声の主は、そら。
担任に対してだったが、そんな事は関係無いと暴言を吐く。
立ち上がって羽多野を睨んでいる。
拳を握りしめて。
「.....アンタ.....また人の人生を壊しに来たの?もしそうだったら今度こそぶっ殺すわよ。冗談抜きで」
「.....あれ?アンタまで居たんだね。そり、さんだっけ?」
「オイ。良い加減にしろ」
先生が一喝で怒った。
暴言より場がそうなっている事を気に掛けた様だ。
その為、何とか場は収まったが。
俺は羽多野を見てから冗談抜きで吐き気が止まらなかった。
何故ならコイツは。
俺にトイレの水を飲ませた様な不良一族の主だから、だ。
俺と、そら、の最大にして最後の仇である。
その人物が何故なのか。
☆
そら、と同じ様に質問攻めに遭っている、羽多野を見ながら。
俺は保健室へ向かう為に、立ち上がる。
そしてフラフラと歩き出した。
すると、背後から影が。
「.....オイ。大丈夫か?雄大」
「.....あまり大丈夫とは言えないな」
「私も.....行きます」
ミタちゃんと真だった。
教室内の羽多野を見て、そら、を見て頷き。
俺を介抱しつつ歩き出した。
そんな2人には済まない、と言いながら俺は歩く。
マジで吐き気が止まらない。
真が一言、呟く。
「.....お前を虐めた奴だってな。あの女」
「.....仇に近い」
「信じられない偶然.....雄大くん。苦しいよね。頑張ろう」
俺は青ざめる身体を動かして。
2人に介抱されながら。
保健室に着いた。
そして俺は保健室のベッドに腰掛ける。
「.....お前ら、アイツには絶対に気を付けろ。かなり薄汚い手を使うから。内部崩壊を見て楽しむ馬鹿野郎だから。本当にな」
「.....うん」
「.....雄大.....」
絶対にアイツだけはダメだ。
全てにおいて、ダメだ。
俺は頭を抱えて、青ざめる。
その様子を見て真が小さく呟く。
「学校を暫く休んだらどうだ?雄大」
「.....そういう訳にはいかない。高二の大切な時期だ。休むなんて出来るか」
「でも.....」
「.....」
ただひたすらに何も起こらない事を祈ろう。
その様に、思う。
本当に、思う。
今、ようやっと俺は幸せになれたんだ。
頼むから。
「.....あの馬鹿野郎が転校して来るなんて.....神様ってのは.....」
くそう、本当に上手くいっていたのに!
世の中が上手く回っていたのに!
チクショウ。
「.....ちょっと行って来ます。雄大くん」
「何処に行くんだ」
「羽多野さんの所です」
「ちょっと俺も言うわ。もう何もするなって」
俺は見開いて、直ぐに止めようとしたが。
手が上がらなかった。
そして、2人は歩いて行った。
止める事が、出来ない。
気分が悪くて。
「.....撫子さんに相談を.....年上だし.....何とかならないか.....?」
その様に思って。
スマホを出したが、落とした。
俺は苦笑した。
ヤバい、マジで震えている。
震えが止まらん。
「くそう.....くそう.....」
こんな事になるなんて。
マジでどうする。
そら、と2人でまた立ち向かうのか。
立ち向かえるのかそもそもに。
髪の毛を掴みあっての殴り合いの喧嘩にもなったんだぞ。
プルルルル ガチャッ
『オウ雄大。どうした』
「.....相談に乗ってもらえますか」
一言。
それだけ告げると、撫子さんは全てを理解した様に。
少しだけ黙って、そして話し出した。
『.....深刻そうだな?どうした』
「.....仇と言える様な奴が転学して来て.....震えが止まらないんす。どうしたら良いと思いますか」
この言葉に。
撫子さんは無言になった。
それから撫子さんは静かに怒りを込めた様に言葉を発する。
『雄大。オレっちが学校に行ってやろうか。ってか攻め込もうか』
「.....そんな無茶苦茶な注文は出来ません」
『.....挿絵なんぞ描いている場合じゃ無いな。認めた男がその様な事になっているとは』
「.....有難うです。そんな事を言ってくれて」
俺は床を見ながら過呼吸を治していた。
流石先輩だ。
話していると気が楽になるな。
俺はその様に思いながら、窓の外の空を見る。
思っていると、撫子さんはとんでもない事を話し出した。
『.....雄大。オレっちの家に来い。事情を聞きたい』
「.....え?でもそれって」
『オレっちも早退するから.....早退してくれ』
「.....でも撫子さんの仕事が.....」
今はそんなもんどうでも良い。
その様に話して、切るぞ。
と撫子さんは言った。
早退を誰かに告げるのだろう。
あの人はそう言う人だから。
言えば、マジでそうする人だから。
「.....有難う。撫子さん」
俺はその様に思いながら。
過呼吸と、動悸を胸に手を置いて治す。
そして、目の前の薬剤の棚を見据えて立ち上がった。
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