第27話 もう変わらない

「飲むと良い。これは麦茶だ」


潾二郎さんの部屋の明かりが点いた。

その室内は信じられない状態であって、俺達は見開く。

所謂、部屋に人が住んでいる状況で、シャワー、台所、トイレ。

その全てが完備されている。

どの様にして食料を手に入れているのかさっぱり分からないが。

あまり広いとは言えないが、綺麗な室内だ。

だが、そんな中で幾つも有るパソコン、機器などが俺達に異様を放っていた。


「.....有難う御座います」


「.....有難う」


ゴッド牧瀬と俺は麦茶を受け取って飲んだ。

と言うか麦茶って、めちゃ器用だな。

俺はその様に思いながら、目の前のデスク椅子に腰掛けている、潾二郎さんを見た。

これらのパソコンであの分身の女の子を造っているのだろうか。

思っていると、ゴッド牧瀬が話した。


「.....率直に聞いて良いかしら」


「.....!」


「.....どうぞ」


まさか、直接聞くのか?

それって大丈夫なのだろうか。

俺はその様な事を思いながら、ゴッド牧瀬を見る。

ゴッド牧瀬は真剣な顔付きをしたまま言葉を発した。


「潾二郎さんは.....自分の妻を蘇らせようとしているって聞いたんだけど.....それは事実なのかしら?」


「.....事実.....と言うのだろうか。正確には死人を蘇らせる事は出来ない。その為、私は思考が似ている、妻のAIを抽出して作り出そうとしている」


「.....それって.....駄目だと思うわ」


ゴッド牧瀬は潾二郎さんの言葉をバッサリと切り捨てた。

そして、自らの胸に手を置いて。

言葉を発した。

自分の考えを述べる様に、だ。


「.....私は.....潾二郎さん。貴方と少し似ているわ。ガンでアメリカ人の母親を失った。だけど、その悲しみを乗り越えて、人は成長するものだと思う。悲しくて、会いたくて、胸が苦しい時も有るけど.....蘇らせる.....なんて言う事は間違っていると思うわ」


「.....な.....お前.....そうだったのか.....」


まさかの事に、驚愕した。

既にゴッド牧瀬の母親がこの世に居ないなんて。

その、ゴッド牧瀬は力強い眼差しを携えて、潾二郎さんに向く。

だが潾二郎さんは、信じられない言葉を発した。


「.....だからどうした」


「.....な.....」


まさかの言葉に。

俺達は動きが止まった。

ゴッド牧瀬は何ですって?と小さく言う。

静かに、俺達を見据えてくる潾二郎さんは。

俺達にその言葉を告げた。


「.....人の気持ちは人の気持ちだ。私の気持ちなど、他人である君達に分かる訳が無い。せっかく私はAIを扱えるのだ。確実に妻はAIで徐々に取り戻す」


「.....アンタ.....」


「.....」


駄目だ潾二郎さんはもう、気持ちが揺るがない気がする。

俺はその様に思った。

思っていると、潾二郎さんは立ち上がって。

そして俺達に紙袋を渡してきた。


「.....ヒ○コ茶菓子のお土産だ。持って行くが良い」


「そこだけ準備万端だな!」


つい、ツッコミを入れてしまった。

ハッとしながら、潾二郎さんを見る。

潾二郎さんはそんなツッコミも気にせずに動く。

そしてパソコンの前に腰掛けた。


「.....ちょっと!まだ話は.....!」


「無理だ!ゴッドマキマキ!」


「ちょ、ぶっ殺すわよアンタ!離して!」


俺はゴッド牧瀬の二の腕を捕まえながら。

秘密の部屋から出ようとする為に、ドアに手を掛けた。

だが、ちょっと待て。


「.....ミタちゃん.....じゃ無かった。御霊さんが心配してる。会ってくれないか」


「.....娘は既に15を超えた。そこまでくれば大人だ。大丈夫だ」


「そういう問題じゃないわ!アンタ!自分の娘に会いなさいよ!御霊.....どれだけ心配しているのか知っているの!?」


ゴッド牧瀬はまた叫ぶ。

だが、潾二郎さんは揺るがない様に真正面を見ながら冷静な一言を放った。

その一言を、だ。


「.....私は御霊に会う事は出来ない。何故なら私は.....神に逆らっているからだ。既にもう.....人間じゃ無いのだよ。私は.....悪魔に魂を売ってしまったからな.....」


「.....」


「.....」


俺達はその言葉に。

言葉に詰まり複雑な顔付きをして、秘密の部屋から出た。

そして廊下を歩く。

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