第9話 そらき、では無く、そら、について

真には勿論、そら、が人気作家である事は秘密にしてある。

その為、この面談は撫子さんに会える機会が出来て。

偶然に出会った、という事にしてある。

撫子さんには一応、全てを説明してあるので多分、大丈夫かと思うが。

思っていると、撫子さんが八重歯を見せながら俺達を指差して話し出した。


「.....ところで、どっちが雄大でどっちが真だ?」


「俺が雄大です。こっちが真ですね」


「.....ふむ。雄大、オメー.....うーん。腐った魚の目で冴えない顔してんな!」


ひっでぇな。

俺はその様に思いながらも。

内心はかなり傷付いた。

その様に思い、ズーンとしていると。

真が思いっきりに目を輝かせて水を飲んでいる、撫子さんに本を差し出した。


「.....あの!撫子先生!サイン下さい!」


「お?オメー、下僕候補か?ファンか?.....いいぜ」


「.....下僕って.....撫子先生.....」


そら、が頭に手を添えてその様に話す。

すると、店員さんがやって来た。


「ご注文は」


可愛らしいフリフリのメイド女性に、撫子先生はニヤついて言う。

俺達も手を上げた。

撫子先生が来てから何か食べようと決めていたので。


「.....じゃあ、パンケーキくれ」


「.....私はパフェが食べたい」


「.....俺はステーキだな」


「なら俺はドリンクバー」


俺が呟くと。

撫子さんが目をパチクリした。

そして言葉を発してくる。


「.....オメー。何も食べねぇの?」


「あまりお腹が空いてないっすね」


「.....ふーん。じゃあオメー、私のパンケーキ少し食うか?」


これに対して、そら、の動きが止まった。

そして俺に嫉妬して、赤くなりムーっと言う。

だから何やねん。

何故、そんな小さな事に反応するのだ?



「うめー!!!!!流石はサ○ゼのパンケーキだぜ!!!!!久し振りに食った気がするぜ!」


子供の様にニコニコ喜ぶ、撫子さん。

そら、と真もパフェとステーキを食べていた。

あまりこういう場所に来ないから咄嗟に食いたい物が思い付かなかった。

俺はその様に思いながら、コーヒーを飲む。


「パフェも美味しいです」


「流石はサ○ゼだな」


「.....」


俺はため息を吐きながらコーヒーの海を見た。

うーむ、ブラックで飲むと胃がもたれるな。

やはり、と思っていると。

目の前にフォークに刺さったパンケーキが。


「おい。雄大。オレっちのパンケーキ食え。腹がいっぱいになった」


ニヤニヤする、撫子さん。

俺は固まる。

って言うか、犯罪臭しかしないんですが。


「俺にも食わせて下さい!」


「いや下僕。お前はステーキが有るだろ。コイツは何も無いからな」


ズーンと凹む、真。

俺はその様子に苦笑しながら。

前を見た。

クルクルフォークを回している。

ニヤニヤしながら。


「.....食え。雄大」


「.....」


「わ.....」


わ?

俺は前を見る。

そこには、プルプル震えている、そら、が。

何だコイツ?


「私がやります!!!!!」


「へ?お、おう!?」


フォークを撫子さんから奪い取った、そら、は。

俺の口にパンケーキをミサイルの様に突っ込ませた。

うえぇ!!!!?


「.....ぐわ!何すんだ!そら!」


あまりに突然の事にむせた。

そら、はフーンだ!

と言って、ツンデレの様にした。

何やねん一体。


「.....っと。コーヒーが無くなった.....」


さっきむせた時に飲み干してしまった。

ドリンクバーで貰って来ようかな、そう思い、俺は立ち上がる。

すると撫子さんも、トイレに行くわ。

と言って、立ち上がった。


「.....雄大。話がある。オメーが食器を片付けたら人気の無い場所に行こう」


「え.....?」


俺は横に付いていた撫子さんの小言に見開く。

そして、共に歩いて行った。



「お、来たか雄大」


「.....撫子さん」


ここはトイレの通用口みたいな場所である。

その場所で壁に背をして、腕を組んでいる撫子さんに俺は食器を片付けた後に、挨拶をした。

俺を見て、八重歯を見せる。


「.....話ってのはな小説家、そらき、じゃ無い、そら、の事なんだがな」


「.....!」


俺は眉を顰めた。

そして、撫子さんに向く。

撫子さんは苦笑しながら、話し出した。


「.....アイツは.....新人賞受賞の時、相当な状態だったんだ。お前は知っているか知らないが、本当に髪もボサボサで、服装も滅茶苦茶、女っけはもう無かった。そんな場違いな野郎が出現して、当時の授賞式は物理を醸したよ」


だが、そんな中で。

と、撫子さんは言葉を発する。

真剣な顔付きで。

俺に向いて、口角を上げた。


「.....そら、は実はあの性格だが、他人にあまり興味を示さないんだ。と言うか、昔のいじめの件があって、興味を示せないんだろうよ。きっと」


「.....そうなんすか.....」


「.....俺はいじめが起こった時から全てを知っている。それは、そら、の側にアイツが受賞してからずっと居たからなんだけどな、だけど.....そら、はオレっちには心を中途半端にしか開いてくれない。この3年間、必死にオレっちが頑張っても、だ」


俺は唾を飲み込んだ。

そして複雑な思いで此処から真と話している、そら、をチラ見した。

そうだったのか.....。

俺は結局。

3年間で何が起こったか、何も知らないんだな。


「そんな中でオメーという存在をこの前、そら、から聞いて初めて知った。あれは嬉しそうだったよ。本当に、だ。.....あのな、オレっちが何が言いたいかって言うとな、オメーという存在があまりに、そら、にとっては貴重なんだ。そら、が全ての心を開けるのはオメーだけだと信じているんだ。だからな、オレっちからの頼みがある。不躾かも知れないが、聞いてくれ」


「.....何です?」


「.....そら、を守れるのは恐らく幼馴染で、それで優しい、オメーしかイネーと思うんだ。だから、頼む。.....そら、を守ってくれ」


頭を下げた、撫子さんに。

俺は見開いた。

静かに、一言、話す。


「当たり前ですよ」


「.....」


「そら、は俺にとって.....大切な幼馴染です。今、置かれた現状を鑑みて、もっと大切になりました。だから.....守ります」


「.....有難うな。だから大好きだ。オメーの事は」


な!?

俺は驚愕して、赤面する。

撫子さんは俺の腕に絡みついて来てそして、ニシシと言った。

本気では無いと思うが、赤面する。


「.....冗談でも止めて下さい。マジで本気と思っちゃいますから」


「.....あん?あ、でも案外冗談じゃねーかも知れねーぞ」


「なっ!!!!?」


ますます驚愕した。

呆然としている、俺を差し置いて。

席にニシシ、と言って戻る撫子さん。

俺はため息を吐いた。

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