カズマさんがモテモテになるそうですよ？

アクアが高いお薬を買ってきたようですよ？

　穏やかな風が吹き、温かい光が照らす今日この頃。

　快適な温度のせいで、ソファで寝落ちしそうになっていると。

「カズマー！！」

　と、アクアが大声を上げて家に帰ってきた。

「……なんだよ、俺は今気持ちよく快適な睡眠に入るところなんだよ」

「そんなのどうでもいいのよ！　見てこれ！」

「どうでもよくねえよ！　徹夜してゲームしてたからそろそろ寝たいんだよ！」

　文句を言いながらも、アクアが机に置いたものを見てみると。

「なんだこれ」

「ふふん、聞いて驚きなさい！」

　と、なぜかアクアが胸を張って。

「ずばり！　強化剤よ！」

「……強化剤？」

「そう、これを飲むだけでたくさんの経験値が手に入るの！」

「それ、カモネギでよくね？」

「これはカモネギの五十倍の効果を持ってるのよ」

「まじか！？」

　思わず飛び起きる。

　カモネギの十倍って、半端じゃない経験値の量だぞ！？

「……いやまて、そんないい話裏があるって相場が決まってる」

「ギクッ」

「なんだ今の分かりやすい反応は！　言え！　デメリットをひとつ残らず言え！」

「い、いや、そんなに数は無いのよ……？」

「あるんだな」

「うっ……」

　アクアが気まずそうな顔をする。なんか尋常じゃないほどの悪い予感がするんだけど……。

「あ、あのね……？　お金が……ね？」

「ね？　じゃねえだろ！　どれぐらいしたんだ！？」

「その……一本二万エリス……」

「たっか！　その量で二万もすんのかよ！」

　小瓶に白い液体が半分ぐらい入ってるだけのこれが、二万エリス。

「おいアクア、どこからそのお金は出てきたんだ？」

「その点は安心しなさい！　きちんと私のおこづかいから出したわ！」

「はあ！？　あのケチでネチネチしてるアクアが自分のお金で二万エリスの買い物をした！？」

　信じられない……あのアクアが、まさか自分のおこづかいから……！

「ちょっと……なによその意味が分からないみたいな目は」

アクアが露骨に嫌そうな顔を俺に向ける。

「まあとにかく、これはすごいのよ！」

　と、アクアが帰ってきたときに持っていた袋をごそごそして。

「それにね……ほら！」

　アクアが取り出したものは。

「……いやちょっと待ってくれ、なんでそんなに強化剤があるんだよ！？」

　四本の強化剤が机に並ぶ。

「貰ったわ」

「貰った！？　誰からだよ！」

「ウィズに親切にしてもらったわ」

　にんまりと悪い顔をするアクア。

「お前……まさか脅したとかじゃないだろうな？」

「ふぃ～」

「口笛吹けてないんだよこの駄女神！」

　予想通りだった……あとでウィズに謝っておかないと……。

「それでね、せっかくだからカズマ達にもあげようかと思って。ほら、全員分あるじゃない？」

「はっ、いや、はあ！？」

　アクアのやつ、今なんて言った！？　俺に、俺達にくれるって言ったのか！？　あの金にがめついアクアが！？

「……どうしたのよ？　そんな苦虫を百匹ぐらい飲み込んだような顔して」

　……はっ！　まずいまずい、驚きすぎて思考が停止してた……。

「いや、お前なんで俺達にくれるなんてこと言い出したんだよ？」

「それがね、これ一人一回しか効力がないらしいのよ」

　残念そうな顔をするアクア。

「だからね、まあ今のうちに恩を売っておいてもいいかなって思ったのよ。あとからお酒でも買って貰おうかなって」

「……」

　いや、アクアはアクアだったわ。優しくなったとか柔らかくなったとかやっぱありえないわ。

「ま、そういうことよ。それで、ダクネス達にも配りたいんだけど……」

　アクアが周りを見渡して。

「ダクネス達は？」

「ああ、二人とも二階にいるけど」

「呼んできて」

「嫌だよ」

　俺が条件反射で断ると。

「ふーん、まあ別にいいんじゃない？　その代わり強化剤はおあずけってことで……」

「お呼びさせていただきますアクア様！」

　満足そうにうなずくアクア。

　半端じゃないほどうざいけど、これは強化剤のためだ。カモネギの五十倍の経験値のためだ……。

「な、なんだと……？」

　驚きを隠せてない顔のダクネスが声をあげる。まあ無理もない、あのアクアが二万を分けてくれるって言ってるんだからな……。

「い、いいのか？　こんな高価なものを……」

「これで爆裂魔法が最強に……ふふふ……」

「いいのよいいのよ。さ、さっさと飲みましょ」

　きゅぽっと小瓶のふたを開けるアクア。

「お、おう」

　まるで別人化のようなアクアの変わりようを目の当たりにして驚きながらも、俺達も小瓶を開ける。

「ん、なんか甘いにおいがするな」

「そうですね、果物を何倍も甘くしたようなにおいがします」

　リビングが甘ったるいにおいに包まれる。

「よ、よしじゃあ飲むぞ」

「一気に行くわよ！」

　せーの、と全員で一緒に飲み始める俺達。

「……ふう、なんか美味しくもなくまずくもなくって感じだったな」

「そうだな、特別変わった感じはしなかったが……」

「あ、あれ？　別にレベルに変化はありませんが……」

「時間差とかあるんじゃない？」

　その後何十分も待ったけど、何も変化はなかった……。