第20話 水面下
華の都大東京テレビと言えば、かつてはこの世の終わりが来ても普通に通常番組を流し続けるだろうと揶揄されるぐらい、マイペースなテレビ局のイメージを抱えていた。
関西人に分かりやすく説明するならば、世の中でどんな大きな事件が起きても一面は絶対阪神タイガースなあのスポーツ新聞のようなものだと思ってくれたらいい。
が、近頃はそれとはまた別に、『企画番組の華の都大東京テレビ』というイメージが根付き始めている。
その一番手が大人気番組『池の水を全部抜いてみた!』シリーズである。番組名通りとにかく池の水を全部抜いてみるのが目的で、その結果何が出てくるかは実際やってみないと分からないというスリリングさがウリだ。
過去には自転車や、コンクリート詰めのドラム缶、俺のポケットには大きすぎらぁな古代遺跡などが出てきている。
「華の都大東京テレビさんにはこの番組がある。そやから滋賀県は琵琶湖をターゲットにされるのを恐れて、あんたらを優遇してたんや」
島田島介の言い分はこうだ。なるほど一理ある。
「でもな、うちら報道にそんな忖度は関係ない。視聴者が見たいものを見せる、それがすべてや」
なるほど、極論ではあるがその姿勢は大切だ。
「てなわけで、いっちょ琵琶湖の水を全部抜いてみようやないか!」
「いや、無理ですよ!!!」
とは言え、そんな軽いノリで出来るはずもない。
島介がこの企画を持ち込んで来た時、大島や局長たちは一斉にツッコミを入れた。
「琵琶湖は湖ですよ? しかも日本一だ。そこらの池の水を抜くのとは規模が全然違うじゃないですか!」
「規模が違うから言うてやる前から諦めるのは違うんやないかと僕は思うな。知らんけど」
「大量の水をどうやって抜くつもりですか!?」
「日本中からポンプ車を集めたらええんちゃう? よう知らんけど」
「仮にポンプ車総動員で可能だったとしても、抜いた水をどこに送るつもりですか!?」
「滋賀県の隣に大きな岐阜県があるやん。あそこの周囲を塞いでやれば全部移すことが出来るんとちゃうかな? まぁ知らんけど」
「それだと岐阜県が水没するじゃないですか!」
「滋賀県みたいに県全土をドームで覆うんや。びわこハウスでも出来るんやから他のゼネコンでも出来るやろ」
「出来ますかね?」
「知らんけどなー」
関西人特有の「知らんけど」のオンパレードである。普通ならこんな調子の話に乗ることなんてできない。が、
「今の滋賀県を止められるのは華の都大東京テレビさんのこの企画だけやと僕は思うてる。あんたらだけがこの東京を、日本を琵琶湖から守ることが出来るんや」
そこはさすがは島田島介、長年芸能界の魔窟を住処にしていただけあって、心を動かす言葉に長けている。
要所要所でこんなことを言われては、やってみようかな、やるべきかな、やらなければ、なんて気持ちにもなってくる。
かくして華の都大東京テレビは、この企画が実現可能か秘密裏に動くこととなった。
まずは極秘で岐阜県民にアンケートを実施。県民の多くが滋賀の躍進に対して、それまでは自分たちと同じくらい地味だったくせにと快くないイメージを持っていることを把握すると、すかさず岐阜県知事に今回の企画説明についてアポを取った。
また並行して大手ゼネコンに滋賀県と同じようなドームを作ることが出来るかを確認したところ、一社から独自開発の強化ガラスで再現可能との返答を得た。
ポンプ車についても各所有自治体へ協力を要請。大半から台風や洪水などの被害が少ない時期であればと協力を取り付けた。
しかし、これだけ大規模な企画となると、当然そこにかかる費用も膨大なものとなる。下手したら花の都大東京テレビの年間予算の大半を注ぎ込むかもしれない。
が、そこは交渉に長けた島田島介が各所に協力を求めてくれた。
結果、ポンプ車もその作業員も全てボランティアで参加してくれることとなり、ゼネコンも世に当社の技術力を知らしめるチャンスととらえて、1円で全工事を請け負ってくれた。
かくして滋賀県が躍進を遂げる水面下で、その野望を止める大事業が静かに、しかし着実に進んでいく。滋賀県の未来はまさに伊吹山から吹き下ろす風で大荒れの湖面の如くであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます