第13話 島田島介
かつて「この男をテレビで見ない日はない」と言われたほど人気を誇ったマルチタレントな彼が突如芸能界を引退した時の大混乱を、大島は今も昨日のことのように覚えている。
島介の司会していた人気番組が引退を機に次々と視聴率を落とし終了。
島介プロデュースのアイドルグループもあっという間にテレビから消えた。
大島が勤める華の都大東京テレビでも局の看板番組『開運お笑い鑑定団』の司会を島介がしており、その後釜探しに社内は一時騒然となったものだ。
引退後はすっぱり芸能界から手を引いたものの、今もなお影響力は大きく、復帰が望まれる島田島介。
その超VIPが大島の呼び出されたテーブルにいる。大島はたちまち全身が緊張してくるのを感じた。
「あ、言っとくけど僕の芸能界復帰とかそういう話やないから、そんな緊張せんでもええで」
「え? 違うんですか?」
「まぁ、そちらさんが僕の持って来た企画を採用してくれるんやったら、顔ぐらいなら出させてもらうかもしれんけどな」
企画?
思わぬ言葉に驚いた大島だったが、同時にあの島介がどんな企画を持ってきたのだろうかと一気に引き込まれる。
「その顔、早く企画内容を知りたいって表情やな。でも、その前に大島さんと話したいことがあるんや。滋賀県のPK計画って奴なんやけどな」
「PK計画を知っているんですか!?」
「僕の師匠に当たる人が六波羅にいて、彼から聞いたんや」
島介がテーブルのコーヒーを口に運ぶ。それが合図だったかのように、局長がPK計画とはなんなのか大島に尋ねてきた。
PK計画のことは局にも知らさずにいた大島だったが、さすがにこの場で隠し通すことは不可能だろう。ホタル・コウヨウから内密にするよう厳命されていることを告げた上で、大島はふたりに滋賀県が京都を越え、その栄光を過去のものにし、さらには自分たちに取り込んでしまおうとしているのだと説明した。
「山科を琵琶湖に沈めた時からその可能性もあるかとは思っていたが……」
「まさか京都までも滋賀県にしようと考えていたとは……」
あまりの衝撃に絶句するふたり。
しかし、そのふたりを前にして島介は一言
「ホンマにそれだけやろか」
と呟いた。
「どういうことですか?」
「PK計画の『P』が『PAST』やったら、京都を沈めるだけでかまへんやろ。でも、ホンマにそうなんやろか?」
「違う、ってことですか?」
「考えてみぃ。滋賀県民は京都だけを目の敵にしてきたわけやない。彼らを馬鹿にしてきた者は他にもおるやろ?」
「……大阪、ですね」
「そや。大阪人もまた滋賀県民をずっと田舎モンやと馬鹿にしてきおった。そやから京都だけ琵琶湖に沈めて大阪は許したるってのはおかしな話なんや」
「だとするとやはりPは大阪阪南市のぴちぴちビーチだと?」
「そうやない。もっと大きく考えてみい。Pに纏わるものがもうちょっと行った先にあるやろ?」
言われて大島は頭を捻った。
東京生まれ東京育ちの大島は関西の土地勘がない。
「あ、まさか、
「それでもない。てか、まいかた、やない。ひらかた、や。てか、大島さん、『ひらパー』って言っておきながら、それはさすがにおかしいで?」
「勉強不足で申し訳ありません。しかし、だとすると一体Pは?」
「僕は神戸やと思うてる」
島介がコーヒーの入ったカップをかちりとソーサーに乗せて言った。
「神戸? しかし、神戸はどこにもPの要素が?」
「『ポートピア連続殺人事件』って知らんか、大島さん?」
「……『犯人はヤス』って言う、例のアレですか?」
ちなみに大島はこの名作ADVをプレイしたことがない。人生の半分を損していると言えるだろう。
「そや。そしてそのポートピアってのは1981年の兵庫県神戸市で開かれた『神戸ポートピア博覧会』から来てるんや」
「神戸ポートピア! え、ってことは、PK計画とは『パスト京都計画』ではなく、神戸ポートピアから京都までって意味だと仰るのですか?」
「ああ。あいつらは近畿の主要都市を全て琵琶湖に沈めるつもりなんや」
島介のあまりに衝撃的な憶測に、三人はしばし言葉を発することが出来なかった。
京都を琵琶湖に沈め、滋賀県のものにする。それだけでも大胆すぎる計画だ。
なのに京都どころか大阪、神戸にまで手を伸ばすつもりとは。滋賀県の野望、なんて大きい、大きすぎる!
「滋賀県の野望をなんとか止めなあかん」
「そう、ですね……でも、一体何が出来ると――」
「ふん。その為に僕がこの企画を持ってきたんや」
そう言われてようやく大島は今回の呼び出しが島介の持ち込んだ企画によるものだったのを思い出した。
だが。
「企画? そんな、番組の企画なんかで滋賀県を止めることが出来ると言うんですか?」
「出来る。そもそも僕はホタル滋賀県知事が華の都大東京テレビさんにだけ取材優遇してたのは、このためやと思っとる」
島介曰く、これまで滋賀県に関する特ダネを華の都大東京テレビだけ優先させていたのは、そのように恩を売ることである企画を立ち上げさせない為だったと言う。
「ええか、この企画だけが滋賀県の野望を止めることが出来る。関西を救えるかどうかはあんたらに掛かってるんや!」
念を押し、三人にそれぞれ企画書の入った封筒を手渡す島田島介。
大島はごくりとひとつ生唾を飲み込むと、封筒に手を入れた。
「こ、これは……!!」
その企画書の表紙に書かれた番組名を見て、三人はたちまち島介の意図を理解した。
そしてこれならば間違いなく滋賀県の野望を挫くことができると確信した
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