第7話 新びわ湖タワーとPK計画
『ここが新びわ湖タワーにゃん!』
水中湖西線で移動すること10分弱。堅田の駅を出ると、異様な光景が大島たちを待ち受けていた。
「え、ただの砂浜では?」
そう、目の前に広がるのはただの砂浜。見えるのは寄せては返す琵琶湖の白波だけで、アトラクション施設なんてどこにもない。
「まさかただの湖水浴場ってことはないですよね?」
『それこそまさか、なのにゃん。そもそも大島にゃんは、ここに昔あったびわ湖タワーは知っているかにゃん?』
「いえ、勉強不足でして」
「え、マジで!? イーゴスとか知らんの?」
大島が答えると幸花が驚きで目を見開き、さらには先ほどさわりだけを叫んでいたTVCMの謳い文句を口ずさみ始めた。それによるとどうやら旧びわ湖タワーなる施設は、温泉なども併設した遊園地だったらしい。
「イーゴスってのは当時世界最大級の観覧車や。他にも遊園地やのに入り口には大きな本屋があったりしてな。あと、道を挟んだ向かい側には1プレイ20~30円のゲーセンがあったんやで」
「敷地内の本屋はともかく対面のゲーセンはまったくの別物なのでは?」
「いいや、びわ湖タワーに入っていたゲームコーナーと同じ会社が経営してたから、ワシらはびわ湖タワー二号館って呼んでた」
知らんがな。
「ごめんね。咲は学生時代をこのあたりで過ごしていて人一倍びわ湖タワーへの思い入れが強いのよ。私は生まれた頃にはもう閉園してたから全然知らないんだけど」
と言いつつ、心はにんまりと自信溢れる笑顔を浮かべて続ける。
「でも、新びわ湖タワーは凄いわよ」
心の言葉に呼応するかのように、水中からぷかりと透明なカプセルが浮上してきた。中には座席と何やら操縦桿のようなものが見える。中に乗り込むことができるのだろうかと思っていると案の定、カプセルの上部が音もなく開いた。
「なるほど。今、新びわ湖タワーは水中にあるんですね」
『そういうことにゃん。世界初、そして広さで見ても最大級の水陸両用遊園地にゃんよ!』
特に水中エレクトリカルパレードがホタル・コウヨウのイチオシらしい。
『では早速乗り込むにゃー』
「いえ、その前にひとつ尋ねたいことがあります」
『なんにゃ?』
「PK計画とは何のことでしょうか?」
今回の取材へ出かける直前、局長から告げられた謎の言葉。その名を出すのは、大島にとって賭けであった。下手をすればここで取材を止められかねない。
だが、ここまでの取材から大島は今回の琵琶湖拡大に潜む真の狙いが見えてきたように感じていた。それを確かめる為にも、大島はここで切り札を使った。
『……どうしてその名を知っているにゃ?』
「とある筋から仕入れた情報です」
「そんなアホな!? PK計画の名は限られた奴にしか知らされてへんで!」
「幸花社長、情報とはどれだけ厳しく統制していても必ず漏れるものです。そして私たち報道は情報収集のプロ。あまり侮らないでいただきたい」
ホタル・コウヨウ、そして幸花の反応にPK作戦が実在するという確信を得た大島は、すかさずはったりをかます。この手の「自分たちは色々
「PK計画について詳しくお話いただけますでしょうか、ホタル知事」
『……大島にゃんはなんだと思っているにゃん?』
「PKのKは、おそらく京都(KYOTO)のK」
ホタル・コウヨウからの逆質問に、大島はノータイムで答えた。
局長からPK計画の名を聞かされた時から、Kは京都に違いないと踏んでいた。それぐらい滋賀県民の京都への意識は凄まじい。古都だがなんだが知らないが、何かにつけて滋賀県を田舎だとバカにする。「それを言うならお前らも北の方はド田舎じゃないか」と滋賀県民は常に苦々しく思っているのだ。
しかし、だとするとPは何なのか?
京都と同じぐらい滋賀県民は大阪にも執着する。故にPが大阪を示すのではないかと当初大島は考えた。
ところがPに関するものが大阪には何もない。辛うじて大阪阪南市にある箱作海水浴場、通称ぴちぴちビーチぐらいだろうか。だが、それではKの京都と比べてあまりにも差がありすぎる。
『なるほどにゃあ。では、Pはなんにゃ?』
「……ずっと地名だと考えていました。が、生まれ変わった滋賀県を見てようやく分かりましたよ、ホタル知事」
大島はニヤリと笑った。
「PはPOST。つまりPK計画とはポスト京都であり、今回のはただ琵琶湖を大きくする為だけの大改造ではなく、水中電車や水中アトラクション施設などで全国から観光客を集めるのが本当の目的だったのですね、ホタル知事!」
滋賀県には琵琶湖がある。
が、逆に言えば琵琶湖しかないと思われている。
その為、隣の京都にやってきた観光客がついでに滋賀県を訪れることはあまりない。
ましてや一年前から営業を始めた中央新幹線並びに、その近くを走る新高速道路のルートから滋賀県は外れてしまっている。このままではますます滋賀県に観光客がやって来ないのは火を見るより明らかだ。
『……さすがは大島にゃん。でも、少しだけ違うにゃん』
「少しだけ違う? どこがですか?」
戸惑う大島に、今度はホタル・コウヨウたちが愉悦に顔を歪ませる番だった。
「確かに私達は今回のことで滋賀県の観光立国を目指しているわ。でも」
心が両手を腰に当てて、ふふんと笑う。
「それは所詮おまけみたいなもんや。ワイらの目的はあくまで琵琶湖をどこまでも大きくすること。そんで」
幸花ががしっと右腕上腕を左手で叩いてガッツポーズする。
『京都のついでに来てもらうんじゃないにゃん。滋賀県を目的に、全国から観光客のみなさんに来てもらうにゃん。つまり、POSTじゃなく、PASTにゃん』
ニコニコと笑う美富士の胸で、ホタル・コウヨウがドヤ顔を浮かべた。
「PAST!? 京都を
『そうにゃん。京都を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます